【完結】剣製の魔法少女戦記
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第六章 正義の在り処編
第百七十三話 『それぞれの進路と異変』
前書き
更新します。
今回からオリジナル章に入ります。
これからも頑張らせていただきます。
ではどうぞー。
十一月も半場に入り、珍しくも雨が降り出す直前の薄暗い曇り空。
スバルとギンガの母親であるクイント・ナカジマやティアナの兄であるティーダ・ランスターのお墓があるミッドチルダ西部のポートフォール・メモリアルガーデン……。
そのとある区画に喪服姿の数名の人だかりができていた。
その数名の中で代表なのか一人の男性が前に出てそのお墓にその手に持っている花束を手向ける。
そして、
「―――……………“ジョン”……今年も来てやったぞ」
『ジョン』。
そのお墓に眠っている人の名前なのだろう、男性はそう小さく呟く。
それに呼応して後ろで立っていた中で一人だけ少年がいたが、少年の肩は少しだけだが震えだしていた。
少年は涙を堪えながらも黙ってその男性の言葉を聞いていた。
男性も少年の微小の変化に気づいていたのだろう、しかしここはあえて触れないで続ける。
「お前の無念………必ず晴らしてみせる!」
男性はそう宣言した。
するとポツポツと雨が降り始めて来た。
この雨は皆の表情を更に暗くさせる効果でもあるのだろう、全員から感情は伺えない。
そして一見、男性の言葉は復讐に対する恨みつらみにも聞こえそうな、そんな発言。
だが、男性は復讐という事は一切考えていない。
そう、これから行おうとしていることはある意味、“革命”なのだから。
―――誰かがそれを先に行うかもしれない。
―――それを待って便乗するのもいいかもしれない。
―――そうすれば“すべて終わった後”の事も色々と考えられる。
だがしかし、そんな中途半端な気持ちでこれからの事を行うのでは最後まで決してたもちはしない……。
男性はそれを深く、そう深く理解し分かっているために、
「みんな、此処から先は非常に辛い戦いになる……家族と静かに暮らしたい者がいるなら、咎めはしない。すぐに此処から離れろ」
男性はそう後ろに控えている人達の身を案じながらも告げる。
しかし、
『……………』
男性の言葉に、誰もそこを離れようとしなかった。
むしろそれぞれが『どこまでもついていきます!』という意気込みで離れようとしなかったのである。
その行動に男性は目頭が熱くなることを自覚する。
しかし、決して涙は流さない。
今はまだ流す時ではないからだ。
流すのならば目的を達成したあとでもいいではないか。
そう心を強く、そう強く鋼のように固くし、そして宣言する。
「わかった……ならばもう何も語らん。今はただ、この作戦に全力を注ぐ! 行くぞ!!」
『応っ!!!!』
男性の言葉にその場の全員が大きく返事を返すのであった。
その決起集会のような場面に、しかし誰にも気づかれる事はなく、誰もこの事実を知る者は存在しなかった。
そしてこの事件が機動六課をさらなる戦いに巻き込むことになることも、まだ誰も予想できないのであった……。
◆◇―――――――――◇◆
場所は変わり、機動六課隊舎。
スバルとティアナの部屋。
そこで窓越しにティアナは外を見て、
「雨が、降り出してきたわね……」
そう呟く。
「そうだね、ティア」
それに一緒に部屋にいたスバルが頷く。
「それよりティア。執務官補佐試験、100点満点でよかったね」
「……ありがと」
スバルの賛辞の言葉に少し顔を赤くさせながらティアナは返事をする。
「ま、フェイトさんから私の執務官補佐をしないかという話を聞かされた時は正直驚いたけど、まぁなんとかなってよかったわ」
「うん! ティアの夢にまた一歩近づいたもんね!」
「そうね。フェイトさんのもとで執務官補佐を経験して、そこからあたしも兄さんの目指した執務官になるのよ。これは必ずよ」
「ティアなら、やれるよー!」
「おだてても何も出さないわよ? それよりあんたも湾岸特別救助隊からスカウトきてるんだから、気張りなさいよ?」
「う、うん……」
そう言われてスバルの表情は少し曇る。
心情的には嬉しいのは嬉しいのだが、今までいつも一緒だったティアナと離れ離れになってしまうことに対して不安になっているのがスバルの正直なところである。
ティアナ本人には話さないことだが……。
と、そこに『コンコンッ!』と扉をノックされる音が響いてくる。
「あ、はーい! 入っていいよ!」
スバルがそう言うと扉が開いて二人の女子……キャロにラン、ついでにフリードが入ってくる。
「あら……。二人が一緒に来るなんて珍しいわね?」
「あはは。はい、キャロと機動六課解散後のこれからについて話し合っていたらティアさんとスバルさんの話も聞きたくなったんです。私達フォワードもそれぞれの進路に向かってバラバラになってしまいますから」
「そうね。エリオにキャロは辺境自然保護隊に行くことになって、ランにレンはシホさんの元の配属先である魔術事件対策課の魔術師として活動していくのよね」
「はい。機動六課解散後もシホさんと一緒の職場に働けるのは正直に言えば嬉しいです。親離れ出来ていないみたいでなんか、あれですけどね……」
タハハ……、とランは頭を掻きながら笑う。
それにつられてキャロも『クスッ』と笑い、
「シホさんと一緒の職場で働けるんですからいいじゃないですか。私もエリオ君と一緒のところで働けるのはとても嬉しいです! ね? フリード」
「キュクー!」
フリードも嬉しそうに羽をバサバサと揺らす。
「そっかー……キャロ、エリオと頑張るんだよ? エリオはああ見えて意外にそそっかしくて流されやすいから、そこをキャロが手綱を握っていてあげないとね!」
「はい、スバルさん! 私、頑張ります!」
両手の拳を胸の前で握ってキャロは気合を入れる。
すでにキャロの尻に敷かれようとしているエリオ。
彼の将来は、さて、どうなることやら……。
それから色々と女子トークをしている四人。
そこでランはふと、スバルの机の上に置いてある写真立てに気づく。
「……あれ? スバルさん、この写真って……写っているのはスバルさんとティアさんに、後このメガネの似合う可愛い女の子は誰ですか……?」
「あ、リオンの事だね」
「リオン、さんですか……?」
ランとキャロが誰のことだろうと首をかしげている。
それに対してスバルとティアナは少し懐かしい気持ちになりながらも、
「リオンっていう子はね、あたしとティアの訓練校時代のパートナーの一人だったんだよ?」
「パートナーって事は、コンビじゃなくてトリオだったんですか?」
「ええ。自前のデバイス持ちって事で一括りにされちゃってね。訓練校の初めから最後まであたしはスバルとリオンの二人に振り回されていたわ……」
ティアナがしみじみとそう呟くが、そこにスバルが『待った!』と声を張り上げて、
「あたしとリオンだけが迷惑かけていたわけじゃないでしょ、ティア!? そ、そりゃほとんどはあたし達だけど、役にも立っていたでしょ!? ねー?」
「まぁね、少なくともリオンはスバルよりはしっかりとあたしとの歩幅を合わせてくれたわね。あんたはどんどん先に行っちゃうから追いつくのに苦労した覚えはあるからね」
「うー……確かに、そうだけどぉ……」
反論できないのかスバルは『うー』とうめき声を上げるしかできないのであった。
「ま、リオンって子はね。特に真面目な子だったわ。スバルとおんなじ位にはあたしに話しかけてきたし、少し一般常識が欠如気味だったけど意外性はスバルに負けていなかったわ」
「へー……そうなんですか」
「仲が良かったんですか?」
「うん! あたしとティア、そしてリオンは休みの日にはよく遊びに行くほどの親友だったんだ!」
「そうね。最初は組まされただけの仲だったけど、一緒に切磋琢磨していくうちに色々と支え合う仲にはなっていったのは確かね。あの“特殊能力”にも何度も助けられていたしね」
「特殊能力……? なんの魔法ですか?」
キャロがそう尋ねる。
それにティアナは苦笑いを浮かべながらも、違うと言って、
「リオンはね、五秒先までの未来を見れる『予知能力』を持っていたのよ」
「えっ、それってかなりレアスキルじゃないですか!?」
ランがそう声を上げる。そう、それが本当ならかなりのレアスキルである。
魔法とは違う異質の能力。
一種では超能力とも呼ばれる能力。
「確かにね。後、他にもなにかもう一つ目に特殊な能力を持っているとか言っていたけど、そちらは結局最後まで教えてくれなかったわね」
「はー……さすがスバルさんにティアさんの親友の人ですね。普通じゃない規格外な能力を持っています」
ランが感心しながらそう呟く。
しかし、そこでティアナが反論の声を上げる。
「ちょっと、ラン。なんか今の言葉、なにか引っ掛かりを覚えたんだけど、自覚してる?」
「え? 正直な事を言ったまでですよ? だって……」
それでランは機動六課の常識離れした人達の名前を上げていく。
まず『魔弾の射手』『本物の魔法使い』のシホと士郎を筆頭に、聖王家の隠れ末裔であるなのは、英霊という人間の一つ上の高次元の存在達、夜天の魔道書の最後の主であるはやてにその守護騎士達、聖王オリヴィエのクローンであるヴィヴィオなどなど……。
機動六課はそう言った特殊な能力を持っている者達の巣窟である……と、誰かが上手い事を言っただろうか?
「……言われてみると、確かにあたし達の周りって普通の人が少ないわね」
ティアナもそう思ったのか深くそう思うのであった。
他の三人もそれは同様であったらしく深く頷いている。
ま、それは一旦置いておいて、
「あー、でもリオン。会いたいなぁ……」
「そうね。久しぶりに話がしたいわね」
「え? 普通に会いに行こうと思えば会えるんじゃないんですか?」
「うんうん……」
キャロの言葉にランも頷いている。
しかし、そこでスバルとティアナの二人は表情を曇らせて、
「わからないのよ。リオンがどこに配属されているのか、どこで暮らしているのかさえも……」
「うん。あたし達も何回か管理局本局に行って居場所を聞いてみたんだけど、なぜかわからないの一辺倒で教えてくれなかったんだよ」
「そんな事が……」
「多分特殊な任務についていると思うのよ。だから公表できないんじゃないかなって……」
「無事に暮らしていればいいけどなぁ、リオン……」
スバルとティアナはそれでリオンの事を心配に思いながらもまだ降り続いている雨を窓から眺めているのであった。
そして二人はいずれまた再会することになる。
それが、どんな形であろうとも……。
◆◇―――――――――◇◆
スバル達がそんな会話をしている一方で、フェイトとランサーは二人で執務官の任務をこなしていた。
今日も今日とてスカリエッティや最高評議会と深く関係していた研究所やいまだに行方をくらましている要人などの居場所の捜査などを主に行っている。
この広い次元世界でまず違法な研究所を見つけること自体難しい。
だがそれはゼストの託してくれたメモリーによってあらかた居場所は特定されている。
その中には関わっていた最高評議会の息がかかったメンバーの顔写真なども含まれていたためにすぐに見つけ次第検挙できるから。
それでフェイトはランサーを先頭に一部屋ずつ扉を開けて誰かいないかを探っていく。
サーチの魔法を使ってもいいのだがやはり直に見て確認できたほうがいいと、こうして地道な作業を行っているのだ。
そして、最後の一番奥の部屋の前まで到着して、
「……ランサー、お願い」
「あいよ」
フェイトの指示でランサーは勢いよく扉をこじ開けて中に入っていく。
だがそこで異変を察知し、
「フェイト! お前は入ってくるな!」
以前まではフェイトの事を『マスター』と呼んでいたが、恋人同士になったことでランサーは名前で呼ぶようになった。
それはともかくとして、
「ど、どうしたの? ランサー……? 中で一体何が……」
「まだ駄目だ……」
険しい表情でランサーはフェイトの入室を拒む。
それはなぜか……?
答えは簡単であった。
その部屋には数人もの“綺麗”に体を切断されて息絶えている死体がいくつも血の海に転がっていたからだ。
血の匂いが部屋中に充満していてどこか鉄臭く、慣れていないものなら貧血を起こしかねないそんな無残な空間。
壁には血飛沫が舞ったのか赤黒く変色している。
「ひでーもんだ……。誰の仕業だ?」
ランサーは生きているものがもういない事を確認して部屋の中を散策し始める。
そしてすぐになにかを発見した。
「こいつは……」
ランサーは見る。
壁に殺された人の血で描かれたのだろう、ミットチルダの言葉で血文字で、
―――『我等は混沌を求める者。外道なる愚者が創る偽りの世界を壊し、その愚者の血をもって新たな世界を創る』。
と、書かれていたのだ。
「こいつは、事件の匂いがしてくるぜ……。早くたぬきの嬢ちゃんに知らせねェといけねぇな」
ランサーはすぐにフェイトとともにはやての元へとこの内容を報告することになるのであった。
そして、この事件の捜査はすぐに動ける機動六課が中心となって開始されることになるのは、少し先の話である。
後書き
書いていて最近思ったことがあるのですが……。
Side描写を最近しなくなったんですよね。なんかもういざって時だけでいいかなって思ったりそうでなかったり。これって書き方が変わったのは果たして成長なのかどうなのか……。
まぁ、しっかりと書けてればいいのですがね。
それではご意見・ご感想・誤字脱字報告をお待ちしております。
あ! それとFateのアニメが十月四日から放送されます。
なんと一回映画でやってもうないだろうなと思っていたUBWルート編のアニメらしいですね。
さらには映画でHeaven's Feelルート編も製作中というのは、ufotable、やるね……ッ!
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