魔法少女リリカルなのは ~優しき仮面をつけし破壊者~
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オリジナルストーリー 目覚める破壊者
StrikerSプロローグ エースとストライカー、それぞれの第一歩
70話:The beginning of StrikerS side Stars
前書き
StrikerS前のプロローグ的なものです
私が〝あの人〟と出会ったのは、五歳の時だった。
その日はお母さんとお出かけする約束をして、楽しく過ごす予定だった筈だ。
お母さんと合流する為に待ち合わせ場所に向かうと、お母さんが倒れていて、お母さんに近づく人がいた。
私は思わず飛び出して、お姉ちゃんの制止の声も耳に入れずにお母さんの前に出て…
「お母さんに近づくな!」
両手を広げて大きな声で叫んだ。その目の前にいたのが、〝あの人〟だ。
黒と白と、ピンクっぽい色の三色の大人の人。腰回りにはベルトがしてあって、お腹のところには赤い宝石が埋め込まれた白い何かがあった。
なんとなく倒れているお母さんに攻撃しようとしているように見えたから、思わず飛び出してしまった。お姉ちゃんに呼び止められたりしたけど、守らなきゃいけないって、何故か思った。
でも目の前にいる人は突然姿を変えて、子供の姿になった。いや、当時の私から見たら十分に大きいんだけど。
「…あ、あれ?」
「ごめんな、怖がらせちまって。悪いようにはしないから」
そう言って笑顔を見せてくれる〝あの人〟。
手を伸ばしてお母さんを起き上がらせる。目立った怪我もないし、声も元気そうだったから、思わずお母さんに飛び込んだ。
その後お母さんと〝あの人〟が仲良さそうに話すのを見て、なんとなくいい人なんだな、と思った。
そこでふと、さっきの事を思い出した。私はさっきこの人がお母さんを襲うんじゃないかって思って……
そう思った瞬間、申し訳ない事をしたという気持ちでいっぱいになった。
「ん?どうした?」
近づいてきた私に、〝あの人〟は声をかけてくる。
「あの、その……ご、ごめんなさい!」
悪い事をしたときは、素直に謝る。それはお母さんから教えられていた事。
でも謝れば全てが済むわけじゃない。だから私は、怒られるのを覚悟して、〝あの人〟に謝った。
「あぁ、大丈夫。気にしてないから」
だけど〝あの人〟が次に言った言葉には、怒りなんてものはなかった。しかも頭をなでて、逆に私に謝ってくる始末だ。
悪い事をしたのは、謝るべきなのは私の方なのに、〝あの人〟は笑って許してくれた。
その時の頭を撫でてくれた手は、なんとなく温かくて…優しい感じがした。
その後、私は〝あの人〟から、〝あの人〟が戦う理由を聞いた。
私はそれを聞いて、カッコいいって思った。
大切なものを守るために、大切なものをなくさないように。〝あの人〟はそう言っていた。それが、カッコいいって思った。
だからこそ、憧れた。
自分がどんなに大変でも、誰かのために戦える。
その時の私は、自分もそんな人に―――大切なものを守りたいと思う人になりたいって、思った。
お母さんが死んじゃったのは、それから数年が経った頃だった。
詳しくはよくわからなかったけど、ただ仕事中に死んじゃった事だけは辛うじてわかった。難しく言えば、『殉職』というものだ。
お母さんがいなくなってからしばらく、私は私自身の事がよく分からなくなってしまっていた。
憧れて目指そうと思っていた〝あの人〟の背中を、いつの間にか追わなくなっていた。
誰かに傷つけられるのが嫌で、誰かを傷つけるのも同じように嫌で。痛いのは嫌だし、怖いのも嫌、大切なものがなくなっちゃうのも嫌。
嫌なことや物に対して、私はいつも泣いてばかりになった。
その度お姉ちゃんやお父さんが助けてくれて、でも私はそれでいいんだって決めつけて。
それから少しして、私は再び〝あの人〟と出会った。
その時私は空港火災に巻き込まれちゃって、どうしようもなくなっていた。
周りは見渡す限りの燃え盛る炎。それらは私の周りを囲って、まるで逃がさないと言わんばかりに燃えていた。
私は助けを求めて歩きつつも、ポロポロと涙をこぼしていた。
建物が崩れてきたらどうしよう。この炎で出られなくなったら、助からなかったらどうしよう。このままお姉ちゃんにも会えずに、死んじゃったらどうしよう。
私の心から溢れ出る不安感と絶望感に、押しつぶされそうになっていた。
その時火が何かに引火したのか、爆風が突然発生して煽られてしまう。大きく転んだまま、どうにも立ち上がることができない。
「痛いよ…熱いよ……こんなのヤダよ…帰りたいよ…!」
―――助けて……助けて!
それを口にした瞬間、いきなり後ろから倒れ掛かってくる女神像。振り向いた状態で固まってしまった私は、もうどうしようもないと目をつぶってしまった。
〈 ATACK RIDE・BIND 〉
〈バインド・プリーズ〉
しかしそんな音声がいきなり聞こえて、金属が擦れるような音が響き渡った。
目を開けてみると、倒れ掛かっていた女神像は数本の鎖で動きを止められていた。
そして目の前には、赤いローブのようなものを着た人が……
「ハリケーン!」
「はぁあっ!」
目の前に立つ人がそう叫ぶと、後ろから突風が吹き荒れる。すると女神像は粉々に砕けて、吹き飛んでいった。
あまりに急な出来事に、目を丸くして驚いていると、赤いローブを着た人が振り返ってくる。
「君、大丈夫か!?怪我は!?」
「ふぇ!?え、え~っと…だ、大丈夫、だと思います…」
しゃがみ込んで目線を下げて言ってくる。さっきの光景で呆けていた私は、変な声を出して返事をしてしまった。
仮面で表情が見えないけど、声色でなんとなく安心しているのがわかった。
そしてこの時、私はこの人が腰に付けているベルトを見て、気づいた。
「もう大丈夫だ。これから安全な場所に…」
私が声をかけようと思ったその時、赤いローブの人の名前を言いながら、誰かがやってきた。多分魔法を使って飛んでいる、白い服の人。その人が赤いローブの人と数回言葉を交わすと、ローブの人はどこかへ行ってしまった。
そしてさっきやってきた白い人は、ローブの人と同じように大丈夫だと言って、私の周りに防御壁を作ってデバイスを天井に向けた。
その瞬間の白い人の背中が…なんとなく、さっきの赤いローブの人と同じように見えた。
「ディバイィィィィン―――バスタァァァァーー!!」
少しの衝撃と共に飛んでいったピンク色の光は、いとも簡単に天井を突き抜けた。白い人はすぐに私を抱えて、穴の開いた天井から外へ飛び出した。
飛んでいる間に、白い人の肩の向こうに見えた夜空。その隣にある、私を連れ出してくれた白い人の優しい笑顔。
頬を掠めていく風は冷たく、でも優しくて。私を抱える腕は、かつて頭を撫でてくれた〝あの人〟と同じように、温かかった。
炎の中から助けられて、救急車の担架で横になっている間、まだ燃えている空港へ戻っていく白い人の背中を、見えなくなるまでずっと眺めていた。
その背中は強くて優しくて、カッコよくて。ずっと泣いてばかりいた私が、自分で情けなく思えるぐらいに、輝いていた。
そしてあの時見た、あの赤いローブの人の―――ベルト。
中央に赤い宝石が埋め込まれている白いベルト。見間違える筈がない、私が憧れた〝あの人〟のものだ。だからわかった、あの赤いローブの人は〝あの人〟だって。
私を助けてくれた〝あの人〟の背中と、連れ出してくれた白い人の背中。
二人共同じように強くて、優しい背中。そんな背中に守られて、私は今ここにいる。
でも私は、あの人達よりもずっと弱くて、泣き虫で……そんな自分が、情けなくて…本当は認めたくなかった…と、思う。
だから私は、ある一つの事を心に決めた。
―――泣いてるだけなのも、何もできないのも…もう、嫌だ。
私を助けてくれた、救ってくれたあの人達のように……〝強くなる〟って。
私には兄がいた。
首都航空隊の航空魔導師で、当時の地上での階級は一等空尉。執務官志望で、いずれはエース級の魔導師になるとうたわれた人。
私の自慢の、憧れの兄だった。
でも、結局は〝いた〟だし〝当時の〟だし、〝だった〟だ。
今はもう、この世界には…この世にはいない。
『犯罪者を追跡中に、犯罪者と戦闘。手傷を負わせるも、追っていた相手によって殉職』
私の元にやってきた報せ。それを聞いた瞬間、私の頭は真っ白になった。
あの自慢の、憧れの兄が……死んだ?
あまりに急な出来事に頭の思考がついていかない。伝えに来てくれた局の人が何か喋っていたけど、一切耳に入らなかった。
その後しばらくは、何をしたか、何を食べたか、何も覚えてない。
唯一思い出せるのは、兄がいないという虚無感と悲しさだけだった
記憶がはっきりしているのは、兄の殉職の報告を受けてから数日が経ってから。
その日は、兄の葬儀の日だ。
兄の友人や、家族ぐるみで付き合いのあった人達が参列していく。
他にも管理局の同僚や、上官までもがやってきていた。
でも私はそんなことを気にする余裕すらなく、若干俯いたまま顔をあまり見られないようにしていた。
私の両親は私が生まれた頃に亡くなっていて、兄がいなくなって一人になってしまった。言うなれば天涯孤独というやつだ。
だから顔を見られて、何か優しい言葉をかけられたら最後、私は泣き叫んでしまう。
そう思って、そんなことにならないように、顔を俯かせていた。
でもそれは思っていたのとは違う形で、止めることになった。
「まったく、犯罪者をみすみす取り逃がすとは。未来のエースも大したことないということだな」
ガツンとした衝撃が、体全体に走った。
顔を見上げると、少しヒゲをたくわえた中年男性が立っていた。
おそらくは、兄の上司だった人だろう。見るからに偉いぞっていう雰囲気を、自分で醸し出していた。
「手傷を負わしたとはいえ、犯罪者もまだ捕まってないときた。そんなこと、首都航空隊としてはあるまじきことだ」
まぁ、そういう意味では今の航空隊もこいつと同じか。
そう言って周りにいる、兄のいた航空隊の同僚らしき人達に蔑みの目線を向けた。そんな目線を向けられた人達は、悔しそうな表情をして顔を背けた。
「ふん、まぁいい。使えない者共は黙っていればいいさ」
そう言って冷たくなった兄のいる棺桶に向かって歩き出していた。
そして棺桶を前に、ふんと鼻を鳴らした。
―――もう、止めて…
「こんな棺桶に入っているなど、さぞ楽だろうな」
―――止めてほしい…
「まぁ犯罪者を捕らえられない無能者は、働かなくていいな」
―――止めろ…!
「そもそも…航空隊に無能者など不要だ!そう…今も尚犯罪者を捕まえられない奴らもそうだ!同じように、無能だ!」
―――止めろっ!!
「無能者など、この管理局に…この次元世界の秩序にいら―――ぶぼらっ!?」
―――――えっ…?
変な声が聞こえ、いつの間にか下がっていた視線を再び上げると、そこにはさっきまで立っていた筈の男性が……地面に伏せていた。
そして拳を握って立っている、別の男性が……そこに立っていた。
男性、と言っても私の三つか四つ程年上の人だ。
「ふざけんな……ふざけんなよっ!!」
そう叫ぶのは、拳を握っているほうの男性。その表情は憎悪とも怒りとも、はたまた別の何かのようにも捉えられる表情だった。
「ティーダさんが無能だと?使えない奴だと?―――ふざけんじゃねぇ!」
倒れている男性の胸倉を掴み、持ち上げる。持ち上げられた男性の鼻からは血が流れており、結構痛そうだった。
「お前はあの人の何を知ってるっていうんだ?あの人が何を思って戦っているのか、お前は知ってるのか!?」
「そ、そんな事知ったところで…!」
「そんなのも知らないで!お前はあの人を侮辱するのか!?あの人を冒涜するのか!?ざけんじゃねぇ!」
「ぶはっ!?」
持ち上げた男性に拳を振るい、再び殴った。
また倒れた男性を、今度は持ち上げる事はせず、そのまま胸倉を掴んだ。
「き、貴様!私にこんなことしてただで済むと―――」
「思わねぇよ、これっぽっちも。でもそんな事はどうでもいいんだよ……俺はテメェの事が気に食わなくて、俺の気持ちに正直になってるだけだ。こうやって…!!」
「コラ、止めろ門寺!」
「くっ、離してください!こいつは俺が…!」
離せー、って叫びながら周辺の人達から取り押さえられていった。
ふと気づくと、私の右手に爪が少しだけ食い込んで、血が出てた。
もしかしたら、あの人が出てきてくれなかったら、私が殴りに行ってたかもしれない。
あぁ、なんか…視界が霞むな……
気付いた時には、目から涙が出ていた。慌てて手で拭うけど、止まらない。
このままじゃ、ダメだ。これ以上、泣いたら……
そう思って私は、その場から走り去った。
そして誰もいない場所で、人気がない事を確認してから……泣き叫んだ。このやり場のない気持ちを、それこそぶちまけるように。
兄が死んでしまった事に対する―――悲しさ。
兄を侮辱された事に対する―――悔しさ。
兄を無能呼ばわりした、あの男性に対する―――怒り。
その全てが今、涙になって流れている。
兄が死んでから今まで、ずっと流せなかった涙を……全部まとめて、代わりに流すかのように。
それから数カ月が経った。
私はほぼ毎日のように、兄のお墓参りに行っていた。
毎日毎日、花とお線香を持ってきて、毎日来るから軽くだが、掃除もやっている。
いつかは止めて、普通に生活しようと思ってはいるが、中々踏ん切りがつかない感じがして、止められないでいた。
そんな毎日を送っている中、私はその日もお墓参りに行った。
だけどその日は、先客がいた。
兄のお墓の前に、青みのあるジーパンを穿き、黒い上着を着た男性が両手を合わせていた。
この人には、見覚えがあった。
忘れもしない、あの時あの男性を殴った人だった。
その人は私が近づいてきた事に気づいたのか、こちらに顔を向けた。
あっ、と小さく声を漏らして目を見開く。だけどすぐに引き締まった表情になり、立ち上がった。
「ティアナ・ランスターさん…でいいのかな?」
「あ…はい、そうです」
これが、私と〝この人〟との初めての対話だった。
その後、私が兄のお墓参りを済ませるまで、この人はこの場を離れずに待っていた。
そして少し話があると、私を近くのベンチに座らせた。
「最初に…すまなかった」
「…え?」
座ってから少し間を置いてからの初めの一言は、謝罪だった。
「ティーダさんの葬儀をめちゃくちゃにしちまって…」
「あ、いえ!そんなこと…」
慌てて両手を振って、この人の言葉を否定した。だってあの時私は…
「多分、あなたが殴ってなかったら私が殴ってたと思います。どちらにしても、めちゃくちゃになってたかと」
そう言うとその人は目を丸くしたかと思ったら、何故か急に笑い出した。
「な、なんですか急に…」
「いやぁ、ほんとティーダさんの言ってた通りの妹さんだな~、って思っただけさ」
その言葉に、今度は私が目を丸くした。
「あ、兄とは…どういった関係で?」
「あぁ、まぁ今回の一件の前に一度、一緒の任務をこなしただけなんだけどな。まぁティーダさんから見たら、多分出来のいい後輩か、いい友人ってとこかな?」
結構年離れてるけどな、とまた笑ってそう言った。
「ティーダさんは凄かったな~。銃の腕もしかり、人柄もしかり…そう言う意味では、尊敬に値する人だったよ。俺の射撃訓練にも付き合ってくれたしな」
そうやって嬉しそうに語るこの人を見ていると、なんだかこっちまで嬉しくなっていた。
その後、しばらくは兄の話題で盛り上がった。
仕事の合間に私の事を話していて、その表情が面白すぎて笑えた、なんてことを言われ、頬を赤らめた事もあった。
だけど急に私は、ふと思ったことがあった。少し前の、あの言葉。
「今回の一件ってことは、兄と同じ任務だったんですか?」
それを聞いた瞬間、また表情を変えた。
「…あぁ、ある事件で一緒に捜査をしていた」
ぽつぽつと、多分悪い影響のないぐらいに話を省いて、事件の事を話してくれた。
そして……兄の最後の事も、話してくれた。
「側に、いたんですか…?」
「あぁ…追跡者にやられた後だったけどな」
そうですか、と声を漏らして視線を下げた。
「最後までお前さんの事を心配してたよ。自分がいなくなったら、一人になっちゃうからって」
「そう、ですか…」
両親が死んで、この年になるまで兄が一人で私を育ててくれた。管理局の仕事と両立させる為に、色々と苦労しているのは知っていた。
だから私はこれから、一人で生きていくことになる。
「それで…どうする?」
どうする、という意味を問う事はしない。言われなくてもわかってるから。
多分言いたいのは、私がこれからどう生きていくか。一人で生きていくか、それとも誰かに引き取ってもらうか。さらに言えば、ミッドには本局経営の保護施設もあり、そこに入るという手もある。
だけど私はもう、その答えを決めていた。
「一人で生きていく、つもりです」
両親は元々武装隊の空士。兄も武装隊なので、管理局からの手当てが少しばかり入っているという報せも来ている。おそらくは金銭的な問題はないだろう。
住む場所も兄と一緒に住んでいた家は、二人で住むのに十二分に広い。一人になったらだいぶ広く感じてしまうだろうけど、これも問題ない。
多分、一人でも大丈夫だろう。
「―――そうか…」
彼は小さく呟くと、ベンチから立ち上がった。
「それじゃあ俺は、戻らせてもらうとするよ。謹慎明けで仕事がたんまりと溜まってるだろうから」
「謹慎…ってもしかして…!」
「あぁ、あの上官を殴ったら謹慎食らってな。それが昨日までだったもんだから、暇で暇で…」
呆れるように首を振り、微笑を浮かべた。
なんか悪いなと思ってっていると、あの人はそれを察したのかまた口を開く。
「大丈夫だよ、ただの謹慎だ。それにあの上官もあの発言が原因で、処罰されたしな」
「そうなんですか?」
「あぁ」
あれは流石に言い過ぎだったな、と言って笑った。
そして今度は少し複雑そうな顔になって、こちらを見てきた。
「………」
「…な、なんですか?」
ずっと見てくるだけなのが少し耐えられなくなり、思わず声をかけた。
するとポケットから携帯端末を取り出し、私の元にやってきた。
「端末、持ってるか?」
「え、まぁ…」
自分のを取り出して見せると、すぐに何かのデータを送ってきた。
見ると、アドレスらしい。
「それ、俺のだから」
「え…?」
「何かあったり、辛かったりしたら、連絡してこい。いらなけりゃ、消してもいい」
そういうと再び踵を返して、歩き出す。
「一人で生きていこうと思うな。人は誰だって、一人じゃ生きてけねぇんだから」
「っ……!」
「別に俺じゃなくてもいい。辛かったら誰かに頼れよ」
そう言う背中は、なんとなくだけど…兄に似ている気がした。
私は、管理局員を―――執務官を目指そうと、思う。
それは、死んでしまった兄の目標で、夢だ。
でも兄はもういない。その夢は、兄の手ではもう叶えられない。
そして兄は、無能と称された。
例えあの言葉が行き過ぎた言葉だとしても、兄は…兄の魔法は役立たずと言われたのだ。これほど悔しい事はない。
なら、残された私に何ができるか。
兄の魔法は、兄の思いは…役立たずじゃないと証明すること。
その為に、私は銃を手に取った。
兄と同じ魔法で、兄と同じ夢を追い、兄の魔法は役立たずじゃないと…無能じゃないと言うんだ。
特別な才能や凄いレアスキルや魔力がなくなって、〝ランスターの弾丸〟は敵を撃ちぬけるんだって……
後書き
後二話続きます
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