ショートヘア×ロングヘア
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第二章
第二章
ところが今回ばかりは困った。流石の恵理子も。
「えっ、髪も!?」
「うん、絶対似合うと思うんだ」
また浮気性の文哉が恵理子に言うのであった。
「真美子ちゃんならね」
「けれど」
しかし恵理子はその言葉にバツの悪い顔を見せるのであった。本当に困っていた。
「それは」
「駄目かな」
「駄目っていうか」
その髪を左手で触りながら彼に応える。
「あれなのよ」
「あれって!?」
「だからあれよ」
切れたらそうそう簡単にはまた伸びない。文哉は浮気性だから何時長い髪がいいと言うかわからない。それを考慮に入れているのである。
「切るのはちょっと」
「えっ、駄目なの!?」
文哉はそう判断してとても哀しい顔を見せてきた。
「折角似合うと思ったのに」
「似合うって言われても」
恵理子は困惑するしかなかった。
「あの、切った髪はね」
「絶対に似合うよ」
「いや、それでも。その」
口ごもる。それでも言うしかなかった。
「あれなのよ。ちょっと待って」
「待ってって?」
「要するにあれよね」
文哉に対して問う。何とか彼を思い止まらせたいがそえは無理なのもわかっている。とりあえずは時間を稼ぎたかったのだ。
「私の髪が短い姿が見たいのよね」
「そうだよ」
簡単に言えばそうだ。文哉はそれを考えただけでにこやかで邪気のない顔になる。
「だから。いいよね」
「え、ええ」
答えはする。しかし髪を切る気はない。
「わかったわ。それじゃあ」
「明日だよ」
「明日・・・・・・」
話はまた急であった。これも文哉らしいのだが。
「そう。明日待ってるから」
「明日って言われても」
「まだ理髪店開いてるじゃない」
恵理子の話はまるで聞いていない。これもまたいつものことだから恵理子にとっては迷惑なのだが。けれどそれも文哉の文哉らしいところなのだ。
「だからさ。御願い」
「御願いなのね」
「うん、だから何とか」
雨の中の子犬みたいな目になる。その目を見て断れる恵理子でもない。やっぱり彼女も文哉のことが好きなのだから。
「御願いするよ。短い髪で」
「わかったわよ」
断れないのはわかっていたが実際に頷くのと頷かないのとでは全く違う。彼女は頷いてしまった。つまり彼女の負けであった。
「それじゃあ。明日ね」
「うん、明日ね」
文哉はまたすぐににこやかな顔になって応えるのであった。
「それじゃあ。楽しみにしてるからね」
「ええ。にしても」
文哉はもう消え去ってしまった。一人になった恵理子はあらためて思うのだった。
「どうせ文哉君のことだから」
また何時ロングヘアがいいと言うかわからない。もうわかっているのだ。
それに自分のこの長い髪も気に入っている。これを切ることも嫌だった。正直どうするべきか悩んでいた。とにかく切りたくはない、しかしそれだと文哉がまた駄々をこねる。恵理子にしても難しいところだった。さながらやんちゃな子供を持つ若い母親といったところだ。
しかし母親は決断を下すものだ。今の彼女もそうだ。そうして下した決断は。実はまだなかった。
「どうしようかしら」
学校の帰りに街を歩きながらあれこれ考えるのだった。
「切りたくはないけれど。それでも」
切らないと、だった。そのどちらにするかで悩んでいた。しかも悩んでも答えは出ない。彼女にとっては非常に苦しい話であった。
悩んで街を歩き続ける。ショーウィンドゥーも目には入らない。考えるだけだ。だがふと擦れ違った女の子に目をやった。それがターニングポイントだった。
「あっ・・・・・・」
その女の子を見て思った。これだ。これで解決する、そう確信したのだ。
「そうよ、これよ」
その街中で立ち止まって手を打つ。
「それでいいんだわ、別にこうしても」
表情も一気に明るくなる。解決するのは簡単だった。後はそれを実行に移るだけだ。
「よしっ」
満面の笑顔で自分の家に戻る。そうして少し用意をして終わりだ。それで充分であった。
次の日学校に向かう。キャンバスの中で彼女を見た文哉は。
「あっ、切ってくれたんだ」
「そう思う?」
ところが恵理子はその彼に対して悪戯っぽく笑うのであった。
「本当に」
「あれ、だって」
見れば髪が短い。それが何よりの証拠に見える。少なくとも文哉にとってはそうであった。ところが恵理子は悪戯っぽい笑みをそのままにしているのだった。
「実際に短いし」
「短くはしたわ」
こう答えはする。
「けれどね」
「?何が言いたいの?」
いい加減話がわからず首を傾げる文哉だった。
「恵理子ちゃん本当に髪切ってるじゃない」
「切ったと思うの?だから」
また言うのだった。
「本当に。それはどうなの?」
「だって切ってないと」
どうしても話がわからない文哉だった。首を右に左に傾げている。
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