ショートヘア×ロングヘア
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第一章
第一章
ショートヘア×ロングヘア
松岡文哉は浮気な男である。といっても別に彼女の三橋恵理子の他の女の子に目をやるのではない。そこまで無節操な男ではないのが救いだ。
その浮気は何かというと外観についてだ。とかく注文が多いのだ。
「やっぱりミニスカートがいいよな」
「今度はそれなのね」
真美子は今はズボンに包まれている足を見て言う。見ればベージュのスラックスに赤と白のストライブのシャツの上に淡い黄色の上着という格好だ。黒いロングヘアに小さな帽子を被っている。今はコンタクトを入れている目はかなりぱっちりとして大きい。
「ミニスカートで」
「駄目かな」
「いいわよ」
少しむくれると共に呆れたような顔で文哉の屈託のない笑顔に応える。黒い髪を爽やかにムースで整えてにこやかな顔をしている。顎が少し長いが結構いけてる顔立ちである。
「それじゃあ明日はそれでね」
「学校に来てくれるんだ」
「だってそれで来ないと文哉君って」
今度は本当にむくれた顔になる恵理子だった。
「心の奥底から落ち込むんだもん。だからよ」
「仕方なくなの?」
「そうよ」
口ではこう言っても本心は違う。しかしそれはあえて言わないのであった。
「わかったわよ。だから」
「そう。じゃあ悪いわね」
「ええ、悪いわ」
こうも言い返す。
「全く。けれどいいわ」
それでもいいと言うのが恵理子の本心だった。うっかりと出してしまった。
「明日学校でね」
「真美子ちゃんのミニスカート」
そのことにやけに嬉しそうな文哉であった。少し間違えれば完全にスケベ親父であるがその屈託のない笑顔がそれを打ち消してしまっていた。
「楽しみにしておくからね」
「ええ、期待していて」
こう言われてその笑顔を見せられると弱い。恵理子も苦笑いになるのだった。
「それじゃあね」
「うん」
こうして次の日ミニスカートを履いてくる。素足に高校生が履くようなふわっとした感じの赤いミニスカートだ。それを履いて学校で文哉のところに出るのだった。それで彼に問う。
「どうかしら」
「うん、凄く似合うよ」
満面の笑顔で彼女に答える。
「似合うね、本当に」
「だったらいいけれど」
「明日はタイトスカートがいいな」
そのうえでしっかりと明日のことも言うのだった。
「ほら、OLの人とかが着るみたいな感じで」
「タイトスカート!?」
「そう、タイト」
またにこやかな屈託のない笑みを見せての言葉だった。
「御願いできる?絶対に恵理子ちゃんに似合うと思うし」
「今日は普通のミニだったのに」
「それとストッキング」
段々話がマニアックになってきていた。
「今見て思ったんだ。恵理子ちゃんって足奇麗だし」
「あら、そうかしら」
そう言われると悪い気はしない。実のところ恵理子も人がいいのだ。いいことを言われるとついつい乗り気になってしまう娘なのである。
「そうだよ。だから黒いストッキングも似合うと思うんだ」
「確かに」
今の自分の足を見てから答える。見てみれば自分でも結構奇麗だと思える足だ。それを見て彼女自身乗り気にもなるのだった。
「それじゃあ。明日はそれね」
「うん。真美子ちゃん何でも似合うから」
好きだという。そう語るその顔が実に無邪気で子供っぽい。同じ歳の大学生には思えない時がある。恵理子も彼のそんな子供っぽさが好きだったりする。
「御願いね。本当に」
「わかってるわよ。絶対に着てくるから」
「うん。じゃあさ」
ここでやっと大学生らしい話になるのだった。
「授業に行こう」
「ええ。今日は確か」
「太宰の話だよ」
二人は同じ文学部だ。それが縁で知り合った仲なのだ。今ではそうしたはじめての縁なぞ全く考えられない付き合いになってしまっているが。
そんな二人だがそれでも仲良く付き合っていた。恵理子にメロメロといった感じの文哉だが恵理子もそんなふうに見られて悪い気はしない。そうした二人であった。
「確かね」
「そう、太宰なの」
「出るよね」
実は授業は真面目に出る主義の文哉であった。
「どうするの?」
「出るわ」
にこりと笑って文哉に答える恵理子であった。
「じゃあ行きましょう」
「うん」
真美子のその奇麗な素足を見ながら答える。そうして彼女にくっついて授業に向かうのであった。とにかくエリこなしでは考えられない文哉でそんな文哉を何だかんだで笑顔で受け入れている恵理子、そんな二人であった。
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