強さのみを
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第六章
「けれど今はな」
「その惚れた相手の為にか」
「保安官をしている、守る為にな」
戦っているというのだ。
「そこがかなり違ってきたな」
「誰かの為に戦うことか」
「昔の俺は強くなりたかった」
このことは真面目な顔でだ、アープは言った。
「ただひらすらな」
「兄貴と一緒でやんすね」
フィルダーはアープのその言葉を聞いてホープに言った。
「それなら」
「そうだな、本当に」
ホープもフィルダーのその言葉にその通りだと頷いて返す。
「俺と一緒だな」
「アープの旦那も」
「昔の俺はそうだったさ、けれどな」
また言うアープだった。
「今は違うんだよ」
「そして守るものが出来てか」
「前よりもな」
腕が上がったというのだ。
「そうなったよ」
「そうか、わかった」
その辺りの事情がだとだ、ホープはワープに答えた。
「あんたが前よりも強くなってしかも変わった理由がな」
「わかってくれたか」
「よくな、まあ俺にはな」
「そうした相手が、っていうんだな」
「縁がないからな」
「ははは、その辺りの成り行きはわからないぜ」
アープはブリキのコップの中のバーボンを飲みつつホープに言った。
「俺もここに来るまではそう思っていたからな」
「それが変わるからか」
「ああ、人と人の出会いなんて神様次第だからな」
「神様が会わせてくれるからか」
「そんなの俺達にはわからないさ」
到底、というのだ。
「そこはな」
「そういうものか」
「ああ、まああんたも縁があったらな」
「そうした相手が出来るか」
「そして俺みたいになるかもな」
守る為の強さを身に着けより強くなるかも知れないというのだ。
「そうなるかもな」
「そうなるんだな」
「ああ、じゃあ後はな」
「後は、か」
「ちょっと今からパトロールに行って来る」
こう言ってだ、アープはバーボンを飲み終えて席を立った。
そしてだ、二人にこう言った。
「また縁があればな」
「またな」
「お会いしやしょう」
こうしてだった、ホープはアープと別れた。アープは店を出るとその前に手綱を結んでいた馬に乗ってだった。
そうしてパトロールに出た、ホープは二人でまだ店の中にいたがアープがいた席を挟んで共にカウンターにいるフィルダーに言った。
「俺には縁がないがな」
「それでもでやんすね」
「ああ、それでもな」
「アープの旦那が強くなった理由がわかったでやんすね」
「前よりもな」
「じゃあ兄貴も」
「それはな」
そのことは、と言うホープだった。
「縁だな、アープの旦那が言う通り」
「そうでやんすか」
「少なくとも今のままの俺じゃ頭打ちになるな」
その強さ、銃の腕がというのだ。
「俺は俺だけで戦ってるからな」
「守るものとかがなくて」
「それじゃあ限界があるのは間違いないな」
「そうでやんすね、あっしもそれがわかりやした」
「それじゃあな」
「ええ、これからは」
「そうしたことも考えてやっていくか」
こうフィルダーに言うのだった。
「やっぱり強くなりたいからな」
「そう思うのならでやんすね」
「守る相手か、俺にも見付かればいいな」
「心からでやんすね」
「その時にどういう気持ちになるかまではわからないがな」
彼等の分のバーボンを飲みつつ言うのだった、そうしてだった。
アープはフィルダーにだ、自分のバーボンを飲み終えてからこう言った。
「じゃあこれからな」
「はい、そうした相手もでやんすね」
「探すか」
「あっしもそうしやすね」
フィルダーもこう言う、そしてだった。
二人はアープのいる町を去った、今度は獲物だけでなく花も探して。彼は強さだけを求めなくなっていたことは間違いなかった。
強さのみを 完
2014・4・28
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