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第六章


第六章

「それにそういう態度をしてると」
「人が見てくれるのね」
「それだけじゃないわ」
 プラスアルファだというのである。
「自然と仕事も身に着くし態度もよくなるものなのよ」
「そうなの」
「そういうこと。だから二重にいいのよ」
 こう話すのだった。
「そうしたら余計に人にも相手にもいい評価を得られるわ」
「結局はそうなるのね」
「わざと悪い評判受けても仕方ないじゃない」
 こうしたふうにも言う。
「そうでしょ?だったらね」
「仕事は真面目に礼儀正しくね」
「何でも言えるけれどね。あとは」
 さらに言葉を続けるのだった。
「向こうがもう砕けてでいいって言ってきたけれどね」
「それね」
「これも読み通りね」
 このことについてはかなり笑っていた。まさに作戦が成功した時の参謀の笑みであった。
「いい感じね。もうこう言ってくるなんてね」
「これもよかったの」
「そうよ。絶対に言って来るって思ったわ」
 これについても読み通りであるというのだ。智代の読みは何処までも深くそして確かなものであった。
「上等舶来ね。これで親しくなれるわよ」
「親しくね」
「同じお店にいて周りの評判もよくて砕けて」
 この三つを指摘してきた。わざと里香に対して見せるように言ってみせてきたのである。
「もう完璧よ。流れは完全にできたわよ」
「完全になのね」
「そうよ。後はね」
 さらに言う智代であった。
「さりげなくよ」
「さりげなくね」
「マニュアルにも書いてあったけれど」
 その顔をぐい、と前にやって里香に対して言う。丁度朝のホームルームがはじまる前に里香の机のところで向かい合って話をしているのである。
「そこでどしなところも見せるのよ」
「どじなところね」
「そうね。お皿割ったらお店に迷惑かけて評判に関わるし」
 そこまで考えているのであった。
「お掃除の時ね。バケツでもひっくり返して」
「バケツね」
「彼の前でね」
 ここを強調してきた。
「わざとよ。それですぐに処理にかかるのよ」
「すぐに」
「これでいいわ。さらにいいことになるから」
 今度は策を仕掛ける顔であった。何処までも深く読んでそのうえで親友に告げるのであった。
「わかったわね」
「ええ。それじゃあ」
 今度は言われた通りあえて潤の前でバケツをひっくり返した。それも掃除の時間にだ。それからすぐに処理にかかるとであった。
「待って」
「えっ」
「僕も手伝うから」
 こう言ってきたのだった。智代の言った通りである。
「里香ちゃん一人ですることないよ」
「けれどこれは」
 自分がやってしまったことだからと言おうとした。勿論これも智代の授けた策である。こうしたところまで読んでいる彼女なのであった。
「私が」
「いいって。誰にでもミスはあるじゃない」
 優しい笑みを浮かべて里香に言ってきたのだった。
「だからね」
「そうなの」
「一人は皆の為に皆は一人の為にって言うじゃない」
 その優しい笑みでの言葉であった。
「だからね」
「そうなの。だからなの」
「僕だって里香ちゃんにいつも助けてもらってるし」
 自分のことも言うのだった。
「だからね」
「有り難う」
 これは演技ではなかった。心からの言葉だった。潤のそうした優しさを知ってそれで心から出た言葉であったのである。
 
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