鋼殻のレギオス 三人目の赤ん坊になりま……ゑ?
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第二章 ヨルテム編
初めての都市
シキの苦悩
前書き
えぇ、帰ってきましたよ、一年ぶりに。
書きためてたものが吹っ飛んだり、PC新調したり、大学入ったりと色々ありましたがなんとか書き上げて戻ってきました。
ではどうぞ。
拝啓、皆様、元気でしょうか。
私は元気……だと思います。身体が色々とありましたが元気です。
メンドくさい、敬語はここまで。とりあえずそっちにどのくらいで着くのか、検討が付かないから俺がいる都市には来ないように、と釘を刺しておく。
正直、帰るべきだと思うよ。みんなに心配かけて、突然失踪してさ。
俺さ、いろんな都市を見て回りたいんだ。
ゴメン、ワガママで。でも、そっちにはレイフォンがいるし、最悪師匠たちに頼めば、孤児院は大丈夫だと思う。人間的に最悪な人たちだけど、外道じゃないからさ。
天剣授受者みたいに、強い人には会ってないよ。今のところは、だけど。
今、俺がいるヨルテムって都市は、グレンダンと全然違うんだ。
綺麗だし、朝うるさくないし、汚染獣があんまり来ない。なんでも四十年くらい来てないらしいよ、グレンダンじゃ考えられないよな。
あと物価が信じられないほど安い。やっぱ、戦闘しないと金あるんだな。
……うん、ごめんなさい。姉さんや父さん、レイフォンたちには迷惑をかけたことには変わらないよね。
大丈夫、いつか帰るからさ。
その時にはもっと成長して帰ってくるから、今はワガママでいさせてください。
最後に、写真を同封します。
写っているのは、俺と向こうで仲良くなった子達です。裏に名前も書いています。
じゃあ、元気で。
そしてレイフォン、サイハーデンの当主おめでと。こんなこと頼むのは酷いと思うが、クラリーベルを弟子に取ってやってくれ。
基礎は叩き込んであるから、後は本人がサイハーデン流を習いたいと言ったら教えてやってくれ。
シキ・マーフェスより
追伸
シノーラさんって、本当に女王なのか聞いておいて。
帰ってきたら聞くから。
こんな手紙が、孤児院のポストに入っていた。
長い旅をしてきたのだろう。四隅が擦れてボロボロになっていた。
新聞を取ろうとしたリーリンはそれを読んで、声を上げて泣き出した。
物凄い形相で走ってきたレイフォンは、事情を聞いて目を見開いて、内容を読んでさらに目を見開かせた。
「生きてた、生きてた!」
「うん……そうだね」
泣きじゃくるリーリンの頭を撫でながら、レイフォンは手紙に書かれていた内容を思い出し、どうやって説明しようかと考えた。
とりあえず……今日は忙しくなる、そう確信した。
そして、ヨルテムにいるであろうシキに向かって呟いた。
「まったく、ワガママだよ、シキ」
既にあの汚染獣襲撃から二週間経っていた。
あの時の戦いで、実力を隠すことを止めたシキは開き直って、幼生体を鋼糸で切り刻んだ。
まぁ、そんなことをして目立たないわけがない。切り刻んでいる最中、バンクルトが頭を抱えたのは想像できない事ではないだろう。事実、事件後、飲み屋でやけ酒していた。
これが武芸者だけだったのなら、箝口令を引けばいいだけだったが、一般人の前でシキは戦っていた。そのため事件後、謎の『美少女武芸者』として話題になってしまった。
噂は瞬く間に広がり、誇張し、尾ひれがつき、あれよあれよとシキは英雄に祭り上げられた。ちなみに、バンクルトは噂を聞いた瞬間、飲んでいた珈琲を吹き出した。
元々、レギオスという閉鎖空間は娯楽を常に欲している。そこに、アニメーションや映画からやってきたようなシキは格好の獲物(娯楽)だ。なんでも、今回の活躍を描いた映画が作られるらしい。
こうなったらいっそのこと、シキの事を公にしよう、そう決断したバンクルトとシキは記者会見を行った。以下はその時のことである。
「年齢は?」
「十歳です」
「汚染獣を一方的に蹂躙したとはホントですか」
「まぁ、はい」
「出身都市がグレンダンとありますが、高名な武芸者の家柄で?」
「いや、孤児なんです。お金を稼ぐために訓練していただけです」
「一瞬で幼生体を倒したという報告もありますが」
「それは嘘ですよ。確かに幼生体は倒しましたが」
「空を飛んだらしいですが」
「飛んでません。跳んだだけです」
「女性なんですよね!」
「男だぁ!! ……コホン」
まぁ、こんな風に答えていたのだが、シキはヨルテムに残るのか、と言った質問が多かった。シキは都市に移住などはしないと明言し、記者会見は終わった。
数日前に会った都市長にも、永久権と生活面の保証を対価に都市に残ってくれ、と言われていた。
丁重にお断りしたのだが、シキほどの武芸者は逃がしたくなかったのだろう。わざわざ交叉騎士団を待機させていた。その時の都市長はドヤ顔でふんぞり返っていた。……団員たちの青くなった顔も見ずにだ。
バンクルトに釘を刺されていたのだろうが、欲に目がくらんだのだろう。
数分後、都市長が顔を青くしながら、ぜい肉で太くなっていた首筋に刀を突きつけられていた。床には叩きのめされた団員たちが転がっていた。
そしてシキが言ったセリフは、この一言だけだった。
「俺は旅の途中でここに立ち寄っただけです。移住する気はありません」
そして釘を刺すようにシキは、こう続けた。
「もしも、これ以上勧誘するって言うなら、この都市を破壊する。冗談抜きでな」
シキの目から、それが冗談ではないと感じ取った都市長は諦めるようにうなづいた。
後日、懲りずに勧誘しようとバンクルトに頼みに行ったのだが。
「やめておきなさい。彼は強すぎる。触らぬ神に祟りなし、関わりすぎると滅ぼされるぞ」
いつも飄々と笑っているバンクルトの真剣な表情に、都市長は渋々諦めた。
ちなみに、都市を破壊するのは嘘だが、脚の一本ほど叩き折ろうと考えていたのは事実だ。
それで騒ぎは収まるはず……そう思っていた時期がシキにもありました。
だが、シキに弟子入りしたいという武芸者が増えた。特に幼い武芸者の親がこぞってシキを訪ねてくる。数人程度なら別にいい、だが百人単位で来るのは勘弁して欲しかった。
朝、宿舎から出たら大勢の武芸者が頼み込んでくる光景は、異常と言っても良かった。
「交叉騎士団の合間でいいですから!」
「どうか、どうかウチの息子を!」
「あぁ、娘と仲良くなってもいいですよ!」
親たちの必死の形相にシキは折れた。というか、妥協した。
とりあえず入学試験のようなものを執り行い、気に入った奴を鍛えるということにしたのだ。幸いのことながら、シキは才能を見抜く力にも恵まれていた。
試験は簡単、殺す気で打ち込んでこい、というシンプルなものだった。
希望者は二百人弱、さすがに多すぎるので五十人に分けて行った。
そして二百人の子供のうち、残った十五人をシキは弟子として取った。期間は四ヶ月、ちょうど交叉騎士団との期限と重なる。
後に、この十五人の内、六人ほどがヨルテム最強の戦闘部隊サイハーデンになるのだがそれはまだまだ先の話だ。
「今日はここまで。後は各自の判断で……誰も起きちゃいねえ」
シキはため息をつきながら、床に倒れている弟子たちを見る。
その中にはもちろんナルキも含まれている。息も絶え絶えと言った様子で、活剄で身体を癒すしかない。
彼らはシキと手合わせしたのだが、武器も持たないシキに圧倒されていた。最初は嫉妬していた弟子もいたが、今ではそれもできないほどの実力差を思い知らされている。
「たく、俺の師匠なら衝剄撃たれて殺されかけるぞ」
シキの師匠と聞いて、一同はとんでもない化け物だなぁ、と想像した。まぁ合っているのだが。
あまりにスパルタなので、既に三人ほど脱走した。そして二人はシキの考え方に合わず、自分から辞めた。
シキは最初、サイハーデンの教えを弟子たちに教えた。
『いいか? 戦場に武芸者の高潔さなんていらない。いるのは、生きる努力と自分の実力だけだ』
誰もが顔を顰めたが、こんなものだろうとシキは思う。
戦場に出れば嫌でもわかるのだが、出てない彼らを責めるのはお門違いということはわかる。実際に体験してみるまでなんでもわからないものだ。
「……ま、だだッ!」
そこに立ち上がる姿があった、ナルキだ。
目の焦点が合っておらず、気力だけで立っている状態だった。それでも立てたのに、シキは驚く。
「私は、立てるぞ!」
ナルキに触発されたのか、他の弟子たちもうめき声をあげながら立ち上がろうとする。
シキは笑い声を堪えて、右手の人差し指を動かし挑発する。
「強くしてやる、かかってこい」
まず、動いたのはナルキよりも年上の少女だ。
スラリと長い腕で細剣を突き出す。踏み込みと爆発力に欠けるが、その瞬発力と勢いはシキは評価した。
身体を横に倒し、細剣を避けると刀身を握り締め、そのまま一本背負いの要領で少女を投げ飛ばし、腹に衝剄を放つ。そこで少女の意識は吹き飛んだ。
次に槍を持った二人の少年がシキを挟撃する。
一人の技量はそこまでではないのだが、連携の息がぴったりと合っているのでカウンティアとリヴァースを思い出される。だが、あの二人ほどの連携ではないので、シキは攻撃を誘う。
誘い込まれたと思わなかったのだろう。彼らの目には、体勢を崩したように見えたはずだ。そして同時に突き出された槍が、シキに突き刺さる。
「えっ!?」
が、突き刺さった瞬間、シキの身体が煙のように消え、二人の後頭部に衝剄が放たれ、意識を奪う。
「う、うあぁああああああっ!!」
絶叫しながら、剣を打ち込んでくるのは二十歳ほどの青年だ。
他の弟子たちよりも勢いも実力もあるが、少しヘタレなのが玉に瑕だ。性格のせいで実力が出しきれていない部分がある。
普通なら、直そうと努力するところだが……。
「こんの、ヘタレがァあああああああっ!!」
「嘘でしょー!?」
シキは振り抜いた拳で剣を折り砕き、そのまま青年の顔を殴った。
直すどころか、悪化するかもしれない行動をとっていた。
綺麗に吹っ飛んだ青年を押しのけて、ナルキが捕縄をシキに向かって巻き付けようとする。
シキはそれに敢えて巻き付いた。
「やった!!」
「後は任せろ!」
銃を持った少年が、シキに向けて発砲する。
身動きがとれないシキにはよけられない、そう確信した二人は喜びの感情を浮かび上がらせる。
だが、この程度で被弾するほどシキは甘くも油断もしていなかった。
「かぁッ!!」
内力系活剄の変化、戦声。
剄が込められた声は、銃弾を跳ね返す。
「え、えぇええ!?」
「反則だろ、ホント」
「まぁ、ここでナルキが化錬剄とか、お前がもうちょい威力の高い銃持ってたらよかったんだがな」
力任せにシキは捕縄を引きちぎると、手に衝剄を集めてニコリと笑いながら言った。
「とりあえず、明日から特訓メニュー倍増な」
笑顔の死刑宣告だった。
「おぉ、シキさん、ウチの野菜を買ってかないか? 安くしとくよ!」
「いい肉はいってるよー!! 買っていかないか?」
「こっちのほうが安いよ!!」
「……遠慮しておくよ」
精一杯の作り笑顔をしながら、シキは商店街を早歩きで通る。
有名になりすぎたせいか、こういった場所で買い物がしずらくなってしまった。
ちなみにメイガスの家にはもうお世話になっていない。シキがいると分かれば、あの家に大勢の人が集まるだろう。そうなれば、メイガス、アイナ、メイシェンに迷惑がかかる。
大泣きするメイシェンや大反対をするアイナに困ったシキは、トリンデン家の近所のアパートを借りることにした。
「……あー、疲れた」
部屋に帰ったシキは、布団にパタンと横になる。
肉体的疲労もそうだが、精神的な疲労が凄まじい。連日の人が訪ねてくるのだ、いくら大人びているシキでも限界はある。
だからこそ、暗い考えが頭によぎる。
「……」
もしも、と思う。
もしも、あの場にメイシェンやナルキ、ミィフィがいなかったらシキはあの都民たちを見捨てていたかもしれない。
時々、そのほうが良かったんじゃないかと思うことがある。
あの戦いで、少なからず犠牲は出た。
その遺族たちは揃ってこう言う。
『君がもっと早く戦場に出てたら、彼らは死ななかった』
馬鹿らしいと、シキは切り捨てる。
汚染獣との戦いは苛烈だ。ほんの一瞬、たった一回のミスで死ぬのが汚染獣戦だ。
どんなベテランであっても、汚染獣の一撃を受け汚染物質に身を焼かれる姿をシキは何度も見てきた。
だが、それは武芸者としてのシキの意見だ。
「……子供に何、期待してんだよ」
ズキリと胸が痛む。
家族が失われる痛みをシキはよく知ってる。
泣き叫ぶ遺族たちの姿を、シキは感情を殺して接した。そうしなければ、罪悪感で押しつぶされそうだったからだ。
そうやって思考のドツボに嵌りそうだった時、インターフォンが鳴った。
ムクリと起き上がる。
このまま居留守を使ってもいいが、一人が嫌だったシキはドアを無造作に開ける。
思わず力が入ってしまい、音を立てて勢い良く開いた扉の向こうにいたのは……。
「あう!?」
「め、メイ?」
メイシェンだった。
後書き
スランプですよ、文章が頭から出てこない。
とりあえず次回はメイシェンとシキの問答が中心、次回に回したのはそろそろ更新しないと一生更新しないと思ったから。
……では次回。
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