銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第百八十話 同盟政府の醜悪
前書き
お待たせしました。
今回はハイネセンの様子です。
皆さん勘違いしているようですが、将兵の下賜金は好まざる資金として全額収集されますが、将兵が向こうで労働によって得た金銭はその対象外です。所謂皇帝から見舞金の名目の金銭が没収の対象です。
市民に関しては、所得税として57%、その他として23%ほどが納税義務に成ります。その結果税率80パーセントと言う事に、市民に残る金額は平均で2400万円程になります。
考え様によって同盟は開闢以来戦時経済ですからこの程度まで増税されていてもおかしくない気がするのですよ。その分を福祉に廻せば、スエーデン式福祉社会ですが、それも出来ずにいる訳です。
更に通常の所得税ならパーセンテージももう少し低いですが、この場合は一時所得ですから、最高税率がかかる訳です。
宇宙暦794年12月26日
■自由惑星同盟首都星ハイネセン最高評議会ビル
最高評議会では、イゼルローン要塞からの初の生中継の立体TVで拉致被害者や捕虜が口々に皇帝の慈悲の心と厚遇に感謝すると言う発言に出席者が苦虫を噛み潰したようの顔で画面の眺めていた。
「此は不味いですな」
「確かに不味すぎる」
「民主共和制の敵である皇帝を賛美するとは」
各委員長がてんでバラバラにそれぞれの意見を言うが為に評議会は荒れに荒れる。
「それもあるが、彼等が持ってくるディナールをどうするかだ」
「200万人が平均60万ディナールだ」
「それだけでも、1.2兆ディナール(240兆円)に成る上に、捕虜の分も合わせれば1.4兆ディナール(280兆円)だ」
財務委員長が額に青筋を見せながら資料を捲り話す。
「今年度の国家予算が21兆ディナール(4200兆円)だ。その15分の1が一気に市場に流れることになる」
「此は由々しき事態だ」
「財務委員長、概算で良いのでどうなるか判るかね?」
「無理だな、想像も付かんよ。確かに紙幣発行額はこのご時世で既に1000兆ディナール(200京円)越えだ」
「既にインフレ気味なことも判るが」
「その上で、ダゴン以前からの国債残高も1000兆ディナールだぞ。利息払いだけでも溜息が出る思いだ」
「そうは言っても、彼等から資金を没収する訳にも行くまい」
「そうだな、人的資源委員会としては、彼等の再就職と職業支援も考え無ければ成らない所なのだが」
「偽札と言う事は無いだろうか?帝国が1.4兆ディナールもの現金を用意できるとは思えないのだが」
「いや、その辺は数年前から、帝国がフェザーンでディナールを多数入手していると、弁務官事務所から報告が来ている」
「国防委員長、それは何時のことだね?」
「私の所に上がってきたのが、半月前だよ」
「たるんでいるのではないね?」
「情報部の話だと、資金を集めているのは同盟内のスパイや協力者に資金を送る為だと分析して、敵に気取られない為に敢えて報告を遅らせていたとの事だ」
「それが、こう言う結果をもたらしたんだぞ!」
「そんな事より、不味いのは軍人の方だろう、彼等の給料は新兵で月額600ディナール(12万円)程度、ベテランの曹長でも1800ディナール(36万円)だ、年間にしても夏冬の賞与4ヶ月を含めても兵で9600ディナール(192万円)、曹長で28800ディナール(576万円)だ。それが捕虜になれば兵でさえ20万ディナール(4000万円)の支給だ」
「このままでは戦わずに降伏する連中が増える可能性が有るという訳か」
「そんな事は有りませんわ!憎っくきルドルフの悪魔の囁くに勇猛なる同盟軍人が耳を貸す訳が無いのですから!」
「情報交通委員長、そうは言っても士気の低下が起こる可能性は高い」
「それならば、兵に命ずればいいのではありませんか、降伏したら家族からも見捨てられる卑怯者だと」
「何を馬鹿なことを、兵に死ねと言うのか!」
「悪逆非道な簒奪者共に勝つ為には多少の犠牲はつきものですわ。その戦いで死ねば子々孫々名誉となり、逃げれば子々孫々迫害させる、そうなれば皆喜んで死んでくれますわよ」
「このキチガイが!」
「なんですって!!!!」
結局の所、各委員長の罵り合いに発展しそうな雰囲気になった為、アンダーソン議長が休憩を告げた。
「暫く休憩にしよう」
結局の所、その日はまともな話に成らず。議長宣言で“翌日までに資料等を集め各委員会で検討するように”と決定し閉会した。
翌27日、やっと落ち着いた中で、議会が再開されたが、その間に各官僚からの報告が上がりその報告に皆が眉をしかめた。それには1.4兆ディナールが市場に流れるという話だけで、株価の下落がはじまったという報告や、普段働かない財務官僚が緊急で製作してきた経済への影響などが書かれていたからである。
「既に株価が下落しているというのかね?」
呼ばれた財務官僚が答える。
「はい、国家予算の15分の1の資金が一気に流れ込めば、インフレに成るのではないかと危ぶむ投資家が早々と株を売却し、下落しにくいフェザーンマルクや貴金属に変える動きがここ数時間で目に見える範囲で始まっています」
その答えに、議会の皆も俺も早く株を売らなければと焦り始める。
「何とか成らないのかね?」
そう言われた財務官僚が次のレポートを示す。
「財務委員会で検討した結果ですが、帰還してくる拉致被害者は、拉致以来、所得税、住民税、社会保険料、年金資金などが未納状態です。財務委員会としては無一文ならば救済処置を執らなければならないと臨時予算に関して検討を続けて来ましたが、一人頭60万ディナール(1.2億円)もの大金を持ってくる以上は、それら資金を一時所得として課税を行い同時に住民税、社会保険料、年金資金等未納金の納付を行って貰いたいと考えております。そうしない場合、同盟市民間の不公平感が増す事に成ります」
「確かにそうだな」
アンダーソン議長の言葉に皆が頷く。
次に帰還兵の資金について国防委員会から報告が上がる。
「帰還兵へ帝国から渡された資金に関しては彼等は捕虜と成っていた期間も休職中として給料の半額が出ていた訳であり、国家公務員として奉仕している以上、それ以外のアルバイト等副業における副収入の禁止、公務員は利益供与の恩恵に与っては行けないという、同盟憲章第207条、109条に違反するとして、全額没収が正当だとの国防委員会では結論が出ましたが、議長はどうお考えでしょうか?」
「正当と考えるが、各委員長は如何ですかな?」
この点も全ての委員長が異議を出さずにアッサリ決まった。
「今回の件は一時所得税だけで、1.2兆ディナールの57%の6840億ディナール(136兆8000億円)、兵からの没収金が2000億ディナール、総額8840億ディナール(176兆8000億円)にもなる」
「おお」
「それだけあれば、フェザーンから償還期限の切れた国債を買い戻すことも出来、国債の下落も留まりますな」
「今年度の未償還が5000億ディナール(100兆円)ですから、十分な原資となりますな」
「流石に、財務委員会も鬼ではないので、住民税、社会保険料、年金資金などの延滞による超過金徴収は行わない方が良い結論づけています」
「そうですな、納税は国民の義務ですからな、帰国した以上はそのルールを護って貰いませんと、他の国民に不公平感を感じさせますからな」
「兵からの没収金2000億だがそれは当然、軍に廻して貰えるんだろうね?」
「何を言うのかね国防委員長、資金は須く財務委員会に一旦臨時予算として入れてから決めるのが筋というものだろう」
「何を言うやら、財務委員会の元に入れたら最後、何だかんだと屁理屈を捏ねて予算処置を却下するだろうが、只でさえ今の軍は金が足りないのだからな」
「何を言うとはこっちのセリフだ、捕虜60万人の生活費が全てカットできるのだから、それだけでも十分な増額だと思うが」
「戦艦一隻が1億ディナール(100億円)だ、単純に計算すれば2000億有れば2000隻の戦艦が新造できるざっと正規艦隊一艦隊分の戦艦戦力だ。そう簡単には譲れんよ」
「全ては予算処置だ」
「そこを何とかするのが其方の手腕だろうが」
こうして思わぬ臨時予算に各委員会が血眼になって予算の配分を争う中、当の拉致被害者達は何も知らずに迎えの輸送艦に詰め込まれて一路ハイネセンへと向かっていくのである。まさか真の意味で自分達と仲間の血と汗と命の結晶である一時金を奪い取られるなど夢にも思わなかったのである。
宇宙暦794年
■自由惑星同盟領各地
この所数年、自由惑星同盟では弱者救済と地球奪還をスローガンにしている地球教という宗教団体が次第に力を付けつつあったが、その地球教以上に社会的経済的弱者、亡命者、捕虜交換で帰国した者などに浸透している新興宗教団体が有り頓に存在感を増してきていた。
その名は、太陽会と言い、教祖はアルナカーラと呼ばれる青みがかった黒髪の美人である。太陽会は“太陽こそ生命の源、その太陽の木漏れ日のような優しさで困ってる人を助ける”と称して、金をばら撒いては人を集めている。そして入信するだけでお金がもらえるという夢のような教団なのである。
同盟政府は自由自立自尊自治の精神から宗教に関しては大変大らかで規制等も殆ど存在しない状態で有るが故に太陽会の意図に全く気付くこともなく信者が爆発的に増えていくのである。
地球教に比べ、教義やお祈り等の堅苦しいことが全く無く、教義であるのは“決断は自身によってのみなされ、その責任や結果は自身に還る。ゆえに法や道徳等の慣習に盲従してはならない。何よりも精神の自由こそが尊い”と説き、信者達に“汝の為したい様に為すがよい”との神託を述べるに留まるからである。
しかし、無闇矢鱈に金を信者へばらまいていて、この宗教の資金源はどうなって居るのかと気になるゴシップ記者もいたが、彼等が調べた結果はあまりにも面白みのない結果で有った。教祖自身が同盟で有数の大企業に近年急成長した総合商社ファラリスのオーナー令嬢であり、幹部の多くも同盟では新興であるが近年頓に力を付けてきた企業の令嬢や令息だったからである。
彼等は数代前にフェザーンから移民してきた商人の子孫であり、彼等の肉親はフェザーン系同盟人としては珍しい“企業だけが儲かっても駄目だ、市民に還元する事こそ肝要だ”との発言で代々の当主が各地の孤児院などに多額に寄付をしてた事も知られており。それに感化された令嬢令息が太陽会を立ち上げたと取材陣に答えたのであるから、報道を聞いた同盟市民からも好意を持って迎えられたのである。それに因り更に多くの信者が集まり、地球教への入信者が激減して行くのであった。
その上、見舞金を没収された帰還兵や目が飛び出るほどの高額の納税を命じられた拉致被害者などが、こぞって太陽会へ入会する事に成り、後に焦った地球教が隠れ蓑である憂国騎士団による太陽会集会襲撃を激化させるのであるが、警察などの司法関係は憂国騎士団を庇いだてするだけで有った為に、一般市民からも政府に対する不満が続出し軍内部にも政府批判が蔓延ることと成る。
後書き
血と汗と涙と親族の死の結晶を奪い取られた市民がどう思うかは想像出来ないほどの事に、テレーゼの作らせた太陽会は同盟内部に巣くって次第に凄い事に。
ファラリスは某ソードワールドの邪神から、お金の下りはレインボーマンのおたふく会からです。M作戦ですね。
地球教より遙かに楽な宗教ですから、信者もうなぎ登りですね。
ページ上へ戻る