少年と女神の物語
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第百二話
宣言と同時に俺は走りだし、アテとナーシャもその後ろについてくる。
俺が殿を務めてブリューナクを突き出し、それをヒルコが草薙の剣でガードすると同時にゲイ・ボルグを突き出し、それを肘ではさみ、防がれる。
そうして片腕を封じた状態でアテが逆側に回り込んで聖槍でしたから切りあげにかかるが、それもまた逆側の腕で防がれ・・・両腕を封じた。
「唸れ、ウコンバサラ!」
そこを狙い、ナーシャが忘れ去られた雷神の雷鎚で上から叩き潰しにかかるが・・・
「甘い、甘いぞ貴様ら!」
ヒルコはナーシャに向けてアテをロンギヌスごと叩きつけ、そのままぶっ飛ばす。
そして、俺に向けて開いた手で手刀を作って振りかぶってきたので・・・二振りを手放し、一旦距離を置く。
が、武双も攻撃をあきらめたわけでもない。
「楔となりて、我が敵を討て。ゲイ・ボルグ!」
『畏まりました、我が主』
ヒルコが押さえているゲイ・ボルグが三十七に分かれ、その全てがヒルコへと向かう。
ヒルコはそれを防ぐために草薙の剣で抑えていたブリューナクを開放し、それで弾きだしたのを見て、
「雷光を纏いて、我が敵を貫け。ブリューナク!」
『オウ!』
続けてブリューナクに命令。ブリューナクは嬉々としてその命令を受諾し、ヒルコへと向かう。
そうして体勢を崩したところで一気に二振りを回収し、ヒルコがバランスを崩した瞬間、
「英雄よ、迷妄せよ!」
アテが背後に回り込み、狂乱の権能を発動。
先ほど、自らの剣神としての属性を高めるのに蛇の属性を使っていたので、抵抗は減っているだろう。
事実、ヒルコは片手で額を抑え、ふらつく体をどうにか倒れないようにしていて、
「唸れ、ウコンバサラ!」
忘れ去られた雷神の雷鎚自身の雷に、俺が与えた加護による雷を混ぜた一撃。これをもろに食らっていた。
「クッ・・・英雄を、それも最源流の鋼ですら狂わせる狂乱の女神。中々の強敵よな!」
「俺を忘れてるんじゃねえぞ、ヒルコ」
立ち上がったヒルコの懐に入り込み、何も持っていない両手をヒルコの体に当てる。
「揺れよ、我が名のために!」
元が流動体の体。そこに対して髭大将は有効ではないかと判断してみたのだが・・・どうにも、そうでもなかったようだ。
なので、何のためらいもなく後ろに跳びながら、ふとした思いつきを実行する。
頭の中でイメージした瞬間に、虚空から太鼓の音が鳴りだす。
堅牢なる大親分、これもいけるんだ。
「十二の音は茶釜。我が敵を煮たす、茶釜の狸!」
十二階の音が鳴ると太鼓の音は止み、召喚の準備が整う。
「煮たせ、分福茶釜!」
唱え終わるのと同時に巨大な茶釜がヒルコの足下にあらわれ、そこにヒルコが落ちる。
そのまま超高音で煮たされていき・・・と、三人で合流して二人に医薬の酒を渡したところで茶釜が破壊された。
「・・・あー、うん。やっぱり駄目だよな」
「あれでどうにかなるのなら、苦労はしませんよ」
「というか、あれは明らかに悪ふざけが混ざっているだろう・・・昔話からの引用は」
む、それはいただけないな。
昔話ってのは神話に通ずるものがあるんだぞ。
まあ、思いつきでやったんだけど。
さて、こっからどうするか・・・
「武双、手を」
「ん?・・・ああ、そう言うこと。あれをやるんだな?」
「はい。まだ武双の切り札も一つ残っているようですし、いけるのではないかと。加護でつながっているパスがありますし」
まあ、試してみるだけの価値はあるだろう。
「民の知は我が知。我が知は我が知。我はこの知を用いて叡智を手にせん」
「狂乱よ、その力を私のために表し、力を狂わせよ」
俺が知に富む偉大なる者を使い、加護のパスがつながっているおかげでアテの知識も覗けるようになる。
そして、アテはアテで権能を俺に対して使い、すぐに解除する。
よし、準備はできた!そして、そのタイミングで壊れ切った茶釜の破片が吹き飛び、中からヒルコができてきた。
「中々に快適な湯浴みであったぞ、神代武双」
「そんなもんだよな・・・」
無駄だろうと予想がついていたとはいえ、ここまで何ともないと少し落ち込む。
だが、よくよく観察してみると皮膚とかが少し赤くなって・・・火傷しているのも発見し、熱は有効だという事実を再認識する。
「さて、と。こっからどうする?」
「まずは、あの武器をどうにかしたいですね」
「あれ自身が神である最源流の鋼。まず間違いなく脅威だ・・・ボクがこの中で一番、死に近い気がする・・・」
ナーシャ、この中で一番格が低いからな・・・まあでも、
「俺達はお互いにお互いを守る。だから、安心していくぞ」
「そうですよ、ナーシャ。今考えるべきなのは、どうやってヒルコを倒すのか、です」
「そうだな。では、遠慮なく二人を頼りにさせてもらおう」
ナーシャがそう言いながら忘れ去られた雷神の雷鎚を構えたのを見て、アテは聖槍を。俺はキュプロスの杖を持ち、もう片方の手に雷でできた槍を持つ。
「雷よ!」
俺がヒルコに向けて雷を放つのと同時に、ヒルコは草薙の剣でそれを切り裂きにかかり、アテとナーシャはヒルコの左右からヒルコに迫る。
「聖槍よ、孕みし狂気を解放せよ!」
アテが突き出した聖槍が草薙の剣の軌道を少しそらし、雷はヒルコの手に直接あたる。
それを確認した俺は雷を撃ち続けながらヒルコに向けて走り、
「ウコンバサラ、打ち砕け!」
その軽く痺れた状態の手を、ナーシャが横から忘れ去られた雷神の雷鎚で下から思いっきりぶったたき、草薙の剣を上に弾き飛ばす。
「ナイスだ、二人とも!で、悪いんだけど、」
「分かっている!早くこっちに来い、武双君!」
アテの権能で再び迷妄しているヒルコを無視してナーシャの元まで走り、忘れ去られた雷神の雷鎚に乗って発射してもらい、
「我は我に仇なす力を許さない。我はその力が存在することを許さない」
草薙の剣に手を伸ばしながら、俺は言霊を唱える。
「故に我はその力を破壊する。存在を許さぬが故に忌むべき力を破壊する!」
そして、草薙の剣の柄を掴むのと同時に、
「我は今ここに、草薙の剣を、破壊する!」
言霊を唱えきり、思いっきり握って粉々に破壊した。
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