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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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姫君-アンリエッタ-

 
前書き
おかしな点があったら言ってください。今後の話の参考にさせてもらいます。

 

 
 シュウのいた世界を、仮に『ネクサスワールド』と呼称しよう。その地球の黒部ダム地下の湖の下に存在する基地『フォートレスフリーダム』の作戦参謀室。その日もイラストレーターこと吉良沢優がいた。未来の一部を見ることができる能力を持つ彼は、その日見ることとなった。
 この世界でもかつてそうだったように、再び闇の巨人ダークファウストと、ナイトレイダーたちが共に戦友として戦ったウルトラマンネクサスの交戦する姿が。
「ファウストが、なぜ…?」
 ファウストは、『冥王』が作り出した存在。その冥王がこの世界の一年前に、ウルトラマンの手によって宇宙の塵となった。にも関わらず、自分の予知の中にその存在を示したことに彼は奇妙なものを覚える。
「この目で確かめることができたら、どんなに面白かったかな」
 でも、もうこの世界にウルトラマンはいない。この地球ではないどこかの世界だろう。直接見ることはできないことを残念に思う。
 …いや、自分はここでやらなくてはならない仕事が山積みだ。そちらの方に集中しよう。優はそう心に決めて、コンピュータのディスプレイ画面と再び睨みあった。



 浮遊大陸、アルビオン。
 この国は、以前にも言っていたと思うが王室を倒して新たな政権を築こうとしている組織『レコンキスタ』による反乱が起きていた。レコンキスタはハルケギニアにおいて神として崇められし者『ブリミル』の降り立ったとされる地、『聖地』の奪還を目的とし、その足がかりのためにハルケギニアの統一を掲げて、やがて人間に敵対するエルフに戦いを仕掛けるつもりでいた。だが、これは決してほめられたことではない。王政に対する謀反など恩知らずと言う見方も取れる上、昨日まで平和に生きていた人々から見れば迷惑行為でしかなかった。少なくともレコンキスタが乱を起こすまでの間、アルビオンは少なくとも平和だったし、民たちからも決して失望されるほど腐ってはいなかった。
 にも拘らず、レコンキスタの長である男『オリバー・クロムウェル』はこともあろうか、自らが失われし伝説の系統『虚無』の担い手、始祖の意思を受け継ぎし選ばれし者と称して王政に反抗したのである。これを王党派が見逃すはずもない。始祖の名をかたり、無用な戦を起こす不届きな輩の蛮行を許すわけにはいかなかった。
「全軍突撃せよ!あの身の程知らずのレコンキスタに始祖のご加護を受けし我らの正義の鉄槌を下すのだ!!」
 ある平原でついに本格的にぶつかり合った王党派軍と、貴族派ことレコンキスタ軍。最初のレコンキスタはまだ起こったばかりの弱小軍団だった。しかし、負けていたのは最初の内だけだった。
「た、大変です!第13部隊のド・グランツ元帥が変心!!こちらに攻撃を仕掛けています!」
 伝令兵がこの時の闘いの前線指揮を務めた王党派貴族に知らせた。
「グランツ殿が離反しただと!?馬鹿な、あの方は王党派への忠誠心が人一倍高かった方ではないか!」
 レコンキスタとの戦いが続く中、原因不明の味方の離反が続いたのである。それも、王国に忠誠心の高い義理堅い将までレコンキスタが急に寝返るということまで多発したのだ。しかも、問題はそれだけじゃない。
「グオオオオオ!!!」
 なんと、レコンキスタはどういうわけか、人間にはとても御することができるとは思えない存在を王党派との戦いに投入したのである。
「な、なんだあのモンスターは!!?」「あ、あ…ああああああああ!!!!」
 もうお分かりかもしれないが言おう。『怪獣』である。
 この時、王党派を攻撃しているのは『古代怪獣ゴメス』。ウルトラマンが地球に出現する前、地球に初めて出現し人類に怪獣の脅威を知らしめた怪獣だった。その巨大な姿に王党派軍は恐れ慄いた。魔法を次々と撃ちこむ王党派軍だが、怪獣ゴメスはびくともしない。ゴメスは雄叫びを挙げながら王党派軍を踏みつぶし、蹴り飛ばすなど蹂躙していく。
 あまり時間も経たないうちに、王党派軍は散り散りになっていた。これはもう、戦なんて言葉で飾れるものじゃなかった。周囲は王党派軍の死体の山が積み上がりはじめ、惨劇と言うにふさわしい光景だった。
「く、くそ!退却!!退却!!」
て このままではいたずらに兵を失うだけだ。指揮を務めた王党派貴族は退却命令を出したが、この時すでにゴメスが上から彼を見下ろしていた。
「あ、ああ……」
 ゴメスはその大きな足を振り上げ、彼を踏みつぶそうと足を下ろしてきた。
「うあああああああああああ!!!」
 だが、その時だった。突如空の彼方から甲高い声が聞こえてきたのだった。


「ファイヤあああああああああああああああああ!!!!」


 その熱さを秘めた声が轟くと同時にゴメスは吹っ飛ばされた。指揮官は、一体何が起こったのかわからず顔を上げると、目に飛び込んできた異形の存在に腰を抜かした。
「な…!」
 彼の前に立っていたのは、オレンジ色の体に炎をそのまま擬人化させたような姿をした巨人だった。そしてその傍らの宙に浮いていたのは、王党派が所持している戦艦にも匹敵する大きさを誇る、炎に身を包んだ戦艦だった。
 ネクサスがウェールズを救ってから間もない時期の事だった。




 トリステイン魔法学院。精霊の涙を手に入れ、モンモランシーの手でようやく惚れ薬の解除薬を作り出したことで、それを呑んだルイズもようやく元に戻ってくれた。…のはよかったのだが…。
「ななななななんてこと!!きき、貴族の私がこんない、いいいい犬に…ああああんなことやこんなことを!!!??」
 元に戻った途端、蒸気を出すほど顔を真っ赤にしたルイズの癇癪が轟いた。惚れ薬の効力がある間の記憶を、ルイズはつゆほども忘れなかったのである。あまりにも恥ずかしくはしたない。もし記憶を消すことのできる魔法やセクションがあったら、間違いなく彼女はそれに頼りたがるに違いない。
ルイズは先ほどまでの自分を抹消したがっていた。そして浮かんだアイデアは…サイトの頭をぶっ叩きまくって無理やり記憶を消し去るという手だった。…もとい八つ当たりである。サイトに罰を下すためだけに買ってきた鞭を振り回しながら襲い掛かってくるルイズから逃げながらサイトは抗議した。
「俺に当たるなよ!悪いのはモンモンと、薬を飲んだお前だろ!」
「お黙り!!大人しくご主人様の罰を受けなさい!」
「そんな理不尽な!!」
 しかし、そんなサイトの嘆きはリミット状態のルイズに聞き届くはずもなかった。
「そう言えばあの時、湖に現れた彼は一体何者だっただろうか!?サイトよ、何か知らないのかい?」
「え?彼って…」
 彼って…ラグドリアン湖で自分たちの姿に姿を見せたあの…黒崎修という男のことだろうか。いや、それ以外に誰がいる。
 サイトは非常に興味があった。変な意味ではない。自分と同じウルトラマンの力を持つ地球人、この異世界でこれほどイレギュラーな奴はいない。一体彼が何者なのか、どこから来たのか、結局尋ねることができなかった。我に返ってルイズもシュウのことを思い出した。
「あの時、ちゃんとあいつに問い詰めればよかったわ。どうしてフーケなんかを助けたのか…」
 そうだ、さんざん貴族になめ腐ったことをしでかして頭を悩ませてきたかの悪名高い盗賊フーケを助けるような奴が、どうしてウルトラマンなのか不思議だった。
「案外、彼はフーケを捕まえて、その懸賞金で路銀を集めようとしていたのかもしれないわね」
「そうだといいけどね」
 実はフーケを生かした状態で捕まえに来たから姿を現した、と予測したモンモランシーにルイズは相槌を入れるが、サイトはそれについて違うと否定した。
「いや、それはない。あいつはウルトラマンだ。そんな人間臭い俗なことをあの姿でやるとは思えない」
「でも可能性はないわけじゃないでしょう?私たちはそもそもウルトラマンのことなんてほとんど知らないもの。何があったっておかしいとは思えないわ。現に、私たちを襲ってきた黒いウルトラマンのことだってあるじゃない」
「…」
 サイトはそう言われて、押し黙る。黒いウルトラマン…あのファウストと名乗る黒い巨人のことを思い出していた。姿かたちは非常にウルトラマンに似ていると言える。しかし、その奥に隠れたどす黒いオーラを、肌でじかに感じ取った。
「サイト、あんたはあのファウストっていう黒いウルトラマンのことを知らないの?」
「何度も言ってんだけど…はっきり言って見たこともない。それも、根本的に悪のウルトラマンだなんて、俺は聞いたことがない」
「でも、その悪者のウルトラマンまで現れたってことは、ウルトラマンも私たちの味方でいてくれるほど都合がいい存在じゃないということね…」
 モンモランシーもあのファウストという強烈な存在のせいか、ウルトラマンと言う存在について懐疑的な思いを抱く。サイトはそれを見てあのファウストという奴に、怒りを覚えた。サイトにとってウルトラマンとは憧れのヒーロー。それを穢すようなババルウ星人やザラブ星人のような侵略者は大嫌いだった。ましてや、ファウストも彼らとは違って本物のウルトラマンだが、そんなウルトラマンの面汚し同前のことをしたあいつを許し難く思っていた。
 今回、シュウの変身したウルトラマン…自分が『ネクサス』と命名した彼に負けて逃げて行ったが、次に会ったら絶対に倒してやる!
『サイト、お前が戦うわけじゃないんだぜ。やるのはあくまで「俺!」だからな』
 サイトが今何を思っているのかを読み取ったゼロが勘違いするなと言わんばかりに言ってきた。…確かに、結局変身しているときは主にゼロの意思で体が動いてるから、器である自分はただ見ているだけが基本。いくら同化していると言っても、俺はゼロ自身じゃない。…なんか情けなく思えてきた。思えば、俺は結局何もしていない。最初からずっとゼロに戦闘を任せてきた。俺の手で守ってきた命って、あっただろうか…。サイトは自身の左手に刻まれたガンダールヴのルーンを眺める。
「そういや…あいつのルーン…」
 ふと、デルフが鞘から顔を出してきた。何かを憂いているのか、声にあまりいつものお調子者臭い感じが漂わない。ルーンと言えば、確かにシュウ=ウルトラマンネクサスの胸のエナジーコアの上に、紅色のルーンが輝いていた。それも、自分の持つガンダールヴのルーンを、非常によく似ていたこともかなり気になる。
「デルフ、何か知ってるのか?」
「…」
 サイトに尋ねられたデルフだが、なぜかここに来て、ただの物のように黙り込んた。
「デルフ?」
「あ、ああ…いや、わかんねえ…俺っちも万能じゃねえからな」
 相棒に名前を呼ばれ、我に返ったデルフはそう言ってごまかすように返答した。
「何よ、思わせぶりなこと言ってる割に何もないなんて」
ルイズがそんなデルフにため息を漏らす。
主人公とよく似た能力を持つ謎の男…なんて漫画ではよくありそうな展開だろうと、非現実的なパターンに呆れつつも、サイトはシュウのことを思い出す。
(…多分、また会うことになるのは間違いないな。寧ろ会わないままになるのがおかしいくらいに…)
 モンモランシーがふと、サイトの首筋に赤い何かが刻まれているのを見つけた。
「あ、首筋にキスマーク…」
 ルイズはそれを聞いた途端、急に血相を変えてサイトを無理やり引っ張って首筋を見る。目元に影を作ってわなわなと震え始めた。やばい…肌でサイトははっきり思った。まだ惚れ薬の効果があった夜、このキスマークはルイズに深く刻みつけられたものだ。
 結局、サイトの数十分間にも及ぶ絶叫が魔法学院中に轟いたのだった。



しばらくお待ちください…。(鉄琴の音)



「気は…済んだかい?」
 ルイズの罰と言う名の暴力フィーバーが終わったところでギーシュが恐る恐る、呼吸を荒げながら横で体中に痣を作ってうつぶせに倒れているサイトを見下ろすルイズに話しかける。
「はぁーっ、はぁーっ…」
 ギロリ!と肉食猛獣のような目で睨み返してきたルイズに、ギーシュは思わずひっ!と悲鳴を上げた。
「る、ルイズ…流石にやりすぎじゃない?」
 モンモランシーも正直、あのゼロのルイズ呼ばわりされていた彼女とは打って変った恐ろしさに恐れを抱いていたが、これでは同じ貴族としてもクラスメートとしても目も当てられない展開になりかねない予感がしたので、その辺で打ち止めにすることを勧めた。
 だが、ルイズはどうも機嫌が直っているように見えない。何かの拍子でいつ炊きつくのかもわからないほど。まさに歩く爆弾である。と、ここでギーシュが一つある機転を見せた。
「そうだ!明日はアンリエッタ姫様がこの魔法学院に来訪なさると言う話ではないか!今日はもう部屋に戻って休むとしよう!」
 アンリエッタ、と聞いてルイズがピクッと反応を示した。彼女の纏うドス黒い瘴気も霧散している。モンモランシーはそのギーシュの発言に対して、思わず感心してしまった。ギーシュの癖にナイスなことをしでかしたと。
「そ、そうだったわ!明日はアンリエッタ様が学院に来られる日だったのよ!私としたことがすっかり忘れてたわ!」
 ルイズはそのことをすっかり思い出すと、さっきまでかなり逆上しきっていた顔は消え去り、すっかりかわいげのある慌てっぷりを見せていた。しかし、それでもサイトへの接し方は相変わらずだった。
「ほら馬鹿犬!いつまで寝てるの!さっさと部屋にもどって明日の姫殿下のご来訪に備えるのよ!」
 ずるずると、サイトのパーカーの帽子を掴んで倒れたままのサイトを引きずって行った。
「…心配ね」
 モンモランシーが困り顔で、去りゆく二人を見てそう呟いた。
 人間がウルトラマンに変身した、そして黒いウルトラマンが現れ、自分たちを襲った。ルイズが惚れ薬の効力を消した途端の暴走。
 二人はこの日は驚くことばかりですごく疲れた。明日はこの国の象徴たる存在、アンリエッタ姫の記念すべき来訪。早く寝て明日に備えるとしよう。そう思ってギーシュはモンモランシーの部屋から出ようとドアノブに手をかけると、モンモランシーが引き留めてきた。
「ギーシュ」
「…?なんだい、モンモランシー」
「その…」
 モンモランシーは妙に頬を染めながらギーシュから視線をそらしつつ、恥ずかしそうにしながらも言った。
「ありがとう」
「え?」
 キョトンとするギーシュ。すると、彼女はギーシュにお礼を言った理由を告げた。
「あの黒いウルトラマンが襲ってきた時、あなたは逃げずに私をかばったじゃない。だから…」
「はは!当然じゃないか。言っただろう、僕は君のナイトなんだ」
 最後までキザったらしかった。だが、その時のギーシュは見かけだけじゃなく、下心なく大切に思った者を守る真のナイトだった。
 思わずドキッとしてしまったモンモランシー。しかし一方で…。
(…だったらこうなる前に浮気なんてしないでよ、馬鹿…)
などと心の中で呟いていた。




 翌日の魔法学院。サイトの朝はルイズよりも早くなくてはならない。寝る時だけ血圧の低いせいか、ルイズは誰かに起こしてもらわないと寝起きする時間が遅くなる傾向にある。だからサイトが慣れない早起きを繰り返しては起こしてもらう。ルイズ曰く、従者が主を起こすのは当たり前だというが…使い魔はあくまでパートナー的存在。ルイズがご主人様なのは確かだが、早起きくらいは自分でできるようになってほしいものだ。そう思いながらもサイトは、ルイズの溜めた洗濯物を届けに向かった。
 この日は、このトリステイン王国の姫君『アンリエッタ王女』が来訪すると言う。だからその日の授業は全て中止となり、学院の生徒・教員総出で出迎えることになった。
「お姫様かぁ…」
 一体どんな人なのだろうか。何となくサイトは、ゼロに聞いてみた。
「なあゼロ、お姫様ってどんな人だと思うよ?」
『なんで俺に聞くんだよ』
「なんとなく」
『…敢えて言うなら、姫ってのはお淑やかなのが普通だろうが、意外と行動派な奴とかいるんじゃないのか?ユリアンみたいに』
 ユリアンという単語を聞いて、サイトは幼いころに見た子供向けのウルトラマンの特集冊子の内容を思い出してみる。
「ユリアンって確か、80と一緒に戦った、ウルトラの母以外では初めての女性ウルトラマンだったな…って、ユリアンって光の国の王女だったの!?」
『知らねえのか?』
 地球人はウルトラマンについて強い関心があるから知っていると思ったのか、ゼロは意外とこぼした。
「いやいや聞いたことないし」
「聞いたことないって…サイトさん、アンリエッタ様のことを知らないんですか?」
 サイトは声をかけられ、振り返ってみる。そこには、惚れ薬を服用したルイズから甘えられて以来、口を利いてくれなかったシエスタがそこにいた。
「あの…すみません、昨日は冷たくしちゃって…」
 自分から突っ放すようなことを言っておきながら気軽に話しかけた自分を恥じて、彼女はサイトに頭を下げた。
「昨日、サイトさんのことがどうも気になってミスタ・グラモンにお尋ねしたら、惚れ薬のこと、本当だったんですね。なのに…」
「あ、いいんだよ。ご禁制だって話だったもんな。それだったら信じられなくても仕方ないよ」
 だから気にしないでくれとサイトはシエスタに言った。惚れ薬のことを信じ、そして謝ってくれた。ルイズだって無事に元に戻ってくれたし、それで十分だった。
「でも、それでも私の気が…」
「そんなに気にやまなくたっていいんだよシエスタ。それよりちょっと聞きたいことがあるんだけど…」
「は、はい。私にお応えできる範囲なら何でも」
 二人は学院の廊下を歩きながら話した。たった一日ぶりなのに、一度でも突っぱねたせいか、シエスタにはサイトと会話しなかった其の一日が長く感じた。
「アンリエッタ姫って、一体どんな人なんだ?」
「美人で気品のある方で、なおかつ平民や貴族に対しても分け隔てなく接するお方で、貴族平民関係なしに国民の皆からとても人気があるんです。はぁ、私も一度お目にかかりたいなぁ…」
 シエスタはため息を漏らしながら、今話したアンリエッタと言う姫への憧れを漏らす。
「へえ…」
 やっぱりお姫様なだけあって美人でたくさんの人たちから好かれるような魅力の持ち主のようだ。そこらへんはファンタジーらしいな、とサイトは思った。




 一方、学院へと向かう馬車があった。馬車にはトリステイン王家の紋章が刻まれ、周囲にはその馬車を守るために、たくさんの衛士たちがグリフォンや馬に乗って厳重な警戒体制をとっている。
 RPGなどでその存在を見せることのある、角を生やした馬の姿をした幻獣ユニコーンに引っ張られるその馬車の中で、ゲルマニアから帰国中の王女アンリエッタが座っていた。
 白いドレスに上品な紫のマントを羽織り、上品なティアラや装飾品を身に着け、指には青い宝石のはまった指輪をつけている。それらは、すでにアンリエッタが持っている高貴な気配をさらに底上げしていた。そんな彼女の手には先に水石の水晶の杖が握られている。王族であるが故当然彼女もメイジ…それも水のトライアングルメイジである。
「ここは静かなのね。小鳥のさえずりが聞こえてくる。
まぁ!美しい花も咲いているわ!川の水もとっても綺麗」
 対して彼女の隣に座っている壮年の白髪の男は、現在この国の政治を一手に握るマザリーニ枢機卿。堅苦しい表情を、出発時からずっとぶっ通している。
「姫殿下。カーテンを下ろして奥へお座りください、身を乗り出すなど王女のすることではございません。常に国と政治を頭に入れておいていただきたい。そのようなお姿を嫁ぎ先のゲルマニア皇帝にお見せしたらどう思われることか…」
 アンリエッタの父である先王が亡くなり、威張るだけの貴族が国費を削って贅沢を繰り返すことが目立ち、それ故に平民や下級貴族たちの生活が苦しくなる国。そんな国を滅ぼさせないために老骨に鞭を打ち続けるマザリーニ枢機卿。自分はお飾りなだけの存在だとアンリエッタは自覚していた。そんな事を考えていたら憂鬱な想いが溜め息となって彼女の口からこぼれた。
「ゲルマニア皇帝との…はぁ…わたくしの知らないところで話がどんどん進んでいくのね」
 その行為が王女としてあるべき姿ではないということでよほど不満なのか、マザリーニは咳払いをして注意する。
「姫殿下ともあるうお方が臣下の前で溜め息など…。本日14回目ですぞ」
「いいじゃない。ゲルマニアでは大人しくしていたのですし!あなたの言う通り……ゲルマニアに嫁ぐことになるのですから」
 国のためとはいえ、自分がゲルマニアに嫁ぐことにアンリエッタはとても乗り気じゃなかった。憂い顔で今の言葉を言ったのがその証拠だ。
「…仕方ありますまい。このトリステインにとってゲルマニアとの同盟はなくてはならないことなのですから。殿下もご承知のはず。このトリステインに、例の怪獣なる存在の脅威は無視できないもの。しかもその上、現在のアルビオンでは王政に反対する阿保共の革命の魔の手も及ぼうとしているのです」
「ええ、この国を破滅させようとした怪獣はもちろん、私もあの『レコンキスタ』なる者共の存在を許せません。例え始祖がお許しになっても私は許しません。
こんな時こそ、私たち各国の貴族も国内の貴族も、そして平民たちも力を合わせてこれらの危機を乗り越えなくてはならないと言うのに…はぁ」
 再びため息を漏らしてしまうアンリエッタに、マザリーニは困ったように言った。
 現在トリステインでは、対怪獣対策会議を幾度か執り行った。しかし、結果は望ましいものではない。国費が足りなくなったために軍の増強は望めない上に、『私には自分の領土の民たちが心配ですから…』と領内の平民たちを守るという名目の下、遠回しに自分が怪獣との戦いに出ることを避ける者が数多くいたのだ。これではいずれ自分たちが怪獣たちの餌食となるのを待つだけじゃないか。ならば他国からの助力を借りようと思ったのだが…アンリエッタのこの様子だと望んだ結果は残せなかったようだ。
「これで15回目ですぞ」
 これでは自分までため息を漏らしたくなってしまう。王女は国民たちの象徴、だから他者のテンションを下げるようなそぶりを見せるようなことは控えなくてはならない。作り笑いだろうが、常に笑顔を見せることで国民たちを元気づけることも必要だった。自分の幸せなど、そっちのけにすることになっても…。
「もう止めましょう…マザリーニ」
 そう言って首を横に振るアンリエッタは先ほどの沈んだ表情から一転して、嬉しそうな顔をして窓の外を眺めながら呟いた。
「今日は懐かしき友に会えるのですから。私の懐かしき心のお友達…」




 魔法学院の歓迎式典はやはり盛大におこなわれた。
「トリステイン王国王女アンリエッタ様のおな~り~!!!」
 お出迎えの言葉と共に、ユニコーンが引く白い豪華でありながら清楚なつくりをした馬車の扉を侍女が開く。中から先導して出てきたマザリーニ枢機卿に手を引かれながら、アンリエッタは地面に降り立ち、同時に歓声が生徒・教師たちから湧きあがった。
「アンリエッタ王女万歳!トリステイン王国万歳!!」
 地面に降り立ったアンリエッタは、護衛と思われる帽子とマントを纏った貴族に手を取られながら歩いていく。その途中で出迎えた学院の者達へ向かって、彼女は微笑みながら優雅に手を振った。その姿に皆心奪われた。当然のごとくギーシュもまた、その美しさに目を奪われている。
「姫殿下!なんと可憐な…!すらりとした気品ある顔立ちにバラのような笑顔!優雅なお姿と神々しい気高さ!!まさにトリステインの可憐な花」
「あれがこの国の王女?あたしの方が綺麗じゃない。そう思わないタバサ」
「さあ」
 自分の美貌に自信があるそキュルケと、特に興味を持たずどうでもよさげなタバサのやり取りを見たギーシュが食って掛かった。
「失礼だぞキュルケ、タバサ!!」
 ギーシュを無視し、先ほどと同じ態度のキュルケにモンモランシーが話しかける。
「トリステインとあなたの祖国たるゲルマニアって同盟を結ぶんでしょ?そんな態度…」
「あたしが気になるのはそこよ」
モンモランシーの言葉をキュルケがさえぎる。
「あなた達の言う美しい姫殿下だって『ゲルマニアの貴族らは成り上がり』って見下してるんじゃない?」
 キュルケの祖国ゲルマニアは強大な軍事力と国力を備えた国。しかし、このトリステインやアルビオン・ガリアと違い始祖ブリミルの血を持たない皇帝の存在や、他国とは違って貴族と平民の壁が薄く、身分で人生のすべてを決めつけられるわけじゃないと言う自由を兼ね備えている分、トリステインのような気位の高い国の貴族たちからは野蛮だの、成り上がりだのと罵倒されてもいたのだ。もしかしたら、地球のあらゆる国を見せても、ゲルマニアと同類だと酷いコメントを吐くことだって不思議じゃない。
「まさか。これから同盟を結ぶ相手なのよ」
 それはないだろうと、モンモランシーは苦笑したが、キュルケは続ける。
「同盟を結ぶために私の国の皇帝と政略結婚。いい印象を持たれてるとは思えないのよね」
「王族や大貴族の結婚って大体そんなものじゃないの?姫様だってそれくらい心得て……」
「甘いわねモンモランシー!自分の気持ちは無視されて周りが勝手に決めるのよ!?知らない国の知らない男と結婚するなんて普通冗談じゃないでしょ!!!」
「な、何かあったのかい?」
ものすごい剣幕で語るキュルケに、思わず尋ねるギーシュ。
「ええあったわよ!向こうで好き勝手やって前の学校辞めさせられてぶらぶらしてたら『そんな事では対面にかかわる』とか言われて無理結婚させられそうになったのよ!しかも相手は爺さんよ、じーさん!!冗談じゃないわ!!」
 それはあなたの自業自得じゃないですか……。キュルケのはやばやとした口調で語られた体験談を聞き、皆呆れて同じ事を思ったが口には出さなかった。
 モンモランシーは憂いを帯びた目でアンリエッタを見た。
「お国の為とはいえ、おかわいそうな姫殿下……。やっぱりあの枢機卿が政治を仕切ってるのね」
「街で流行ってる小唄の内容どおりかい?モンモランシー」
アンリエッタの隣を歩く枢機卿を見ながら、内容を確認するかのように話すギーシュ。
「唄?唄ってどんな?」
「い、いや僕の口からは…とても…」
サイトに尋ねられて口ごもるギーシュだったが、代わりにタバサが歌詞の内容を口に出した。
「トリステインの王家には美貌はあっても杖がない、杖を握るは枢機卿。灰色帽子の鳥の骨」
「バ、バカ歌うな!聞こえたらどうするんだ!!」
聞かれたら不敬罪に問われてしまいかねない。ギーシュはタバサに黙るように言う。
「姫殿下もあの笑顔の下でその事をお悩みになられてるのかしら」
モンモランシーが独り言のように呟く。場に流れる沈んだ空気。もっともそれはキュルケが話題を変える事で解決する。
「ま、そんな事はどうでもいいわよ。やっぱりあたしの方が綺麗よねダーリン♪」
 自分から話ふっといてそのコメントですか!内心で二度目の突っ込みを入れるサイトたちであった。
 一方でサイトはルイズの顔を見た。彼女の視線はアンリエッタへと真直ぐに向いていた。しかし肝心のルイズはまったくの無視。昨日あれだけ明日の姫様のご来訪の際粗相のないようにだの、早く寝ていつでも出迎えるようにしろと言っていたくせに、サイトの存在にさえ気づいてもいなかった。その時、彼はルイズの表情が変化したのを見逃さなかった。
 一瞬はっとすると、次の瞬間には頬を赤く染めていた。その変化に違和感を感じたサイトはギーシュに尋ねた。
「どうしたんだルイズ。何か気になるものでもあんのか?」
 そう言って恐る恐るルイズの視線を追う。そこには、逞しく口髭が凛々しい、つばの広い羽帽子を被り幻獣の刺繍の入った黒いマントを羽織った貴族がいた。彼はアンリエッタの手を取って共に歩いている。誰だろう?なんか目つきがいい具合に鋭いし逞しくって男らしいって言うか、すっごくカッコよくないか?そこまで考えて妙な敗北感を感じたサイトは、その男が誰なのか周りに聞かずにはいられなかった。
 もう忘れている人がいるかもしれないが、ディノゾールが出現した際、他の貴族たちよりも表立って奮戦したメイジ、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドである。
「なあギーシュ!お前あの男知ってるか?」
「え、あ、ああ…彼は」
すると、遮るようにモンモランシーが解説を引き継いだ。
「あの人はね、閃光の二つ名を持つワルド子爵様よ。グリフォン隊隊長で強力な風の魔法を操る、畏怖と憧れの象徴たる人物。貴族の鑑のような立派な方だわ」
 そこまで説明するとジト目になり、後ろにいるギーシュに聞こえるように呟く。
「グラモン元帥の息子にも見習ってもらいたいものねぇ。そう、例えば…昨日ラグドリアン湖で会ったあの人みたいにストイックでクールなら…」
「ひ、酷い……」
 あの人…とはシュウのことだろう。昨日はちゃんと照れながらも可愛らしく褒めてくれた割に、解説役を取った上にキツイ物言いをするモンモランシに対して落ち込むギーシュであった。
「あのワルドって人が乗っている生き物ってグリフォンかしら?ってことは彼、風系統のメイジってことね」
「風の使い魔の代表格」
タバサがキュルケの一言にそう答えた。
キュルケの問いに答えるかのようにタバサは口髭の男=ワルドの正体を口にする。
「あの男のマントにグリフォンの刺繍があった。彼はグリフォン隊の魔法衛士」
「グリフォン隊って、たしか王宮直属の幻獣を騎乗する『グリフォン隊』『マンティコア隊』『ヒポグリフ隊』と三つある魔法衛士隊の中でも、特に選りすぐりの貴族で構成された部隊よ」
モンモランシーも最後にそう説明してくれた。
「ワルド様ねえ…なかなか素敵な方じゃない!お髭がとてもセクシーだわ!」
サイトにぞっこんなセリフを吐く割に、あっさりと乗り換える。キュルケらしいと言えばそうだが、正直悪い意味でしか伝わらない。いつの間にか女子生徒たちから熱のこもった声でワルドコールが響く辺り、仕方ないのかもしれないが。
サイトは気になる人物の説明を聞き、相手の正体は判ったが、心なしか気持ちは落ち込んだ。
(ルイズってばあんな男が好みだったのか?)
もう一度ルイズの顔を見ると、先ほどの騒動すらまるで気づいていないようで、ワルド子爵を見ながら未だに顔を染めている。まるで恋する乙女の顔だ。
『なんだよサイト、お前やきもちか?』
「な!?」
急にゼロが、サイトをからかってきた。
「ちっげーよ!なんで俺がこんな爆弾岩みたいな奴を!」
 思わずサイトは大声でわめいてしまった。いきなりの大声に周りの生徒たちが驚くと、真っ黒でどす黒いオーラがほとばしった。
「だ、だ~~れが爆弾岩ですってええええええ!!!」
 流石にサイトの今の悪口が、聞き捨てならなかったようだ。杖を構えて髪をゆらゆらとメデューサのように靡かせながらひきつった笑みで腰を抜かしたサイトを見下ろした。
「爆弾もそうだし、岩ってどういう意味!?ままま、まさか、私の胸のことを遠回しに言ってるんじゃないでしょうねええええ!!!!??」
「い、今のは言葉のあやで…!!」
「待ちたまえルイズ!今は姫様の御前なんだぞ!」
 ギーシュが慌てて今の状況を教えて、ビビるサイトに天誅を下そうとするルイズを止めようとしたその時、グリフォンが彼らの前に急降下して二人を威嚇した。
「ひい!」
ルイズはびっくりして悲鳴を上げてしまう。
「こらそこ!大声を出すなど無礼だぞ!」
「す、すみません…」
 ルイズとサイトは衛士に怒られてぺこぺこと頭を下げ続けた。ふと、顔を上げたルイズの目にワルドの顔がうつる。今の騒ぎでルイズの存在に気づいたようだ。すると、ワルドはふ…と微笑んでルイズにウィンクする。見られていた…ルイズは恥ずかしくなって顔を真っ赤にした。せっかく毅然とした態度で姫を出迎えようとしたのだが、思わずサイトの悪口でいつものボロを出したルイズは大恥をかいたのだった。
『大声出しすぎだろ。相変わらず騒がしいなお前ら』
『…お前が変なこと言うからだろ』
 サイトは、表立った姿を見せないことをいいことに他人事みたいに言うゼロに恨み節を一晩中言いたくなった。




「もう!あんたのせいで姫様の前で恥を掻いちゃったじゃない!しかも子爵様にまで…」
「ンなこと言っても…」
 その夜のルイズはお怒りだった。それもそのはずだが、実際悪口の一つも聞き流せないルイズが狭い心を御せなかったことも原因だが、こればかりは性格を直さないといけないので仕方ない。
「ったく、国の王女様の前で痴話喧嘩たあ、おめえら図太えな」
「「何が痴話喧嘩だ/よ!」」
声をそろえてデルフに怒鳴る二人。行きぴったりなせいで、痴話喧嘩と言う言葉に信憑性が余計に増してしまう。
「おお怖」
デルフは全く怖くなさそうに言いながらも、鞘に顔を引っ込めた。これ以上は導火線無視で爆発しかねないのでこの辺りで手を打つことにしたのだ。
すると、部屋の扉がコンコンとノックされた。
「誰だ?」
 サイトが呟くのと、ルイズがハッっとなり、立ち上がってドアを開けた。入ってきたのは顔全体を覆う紫の頭巾を被った人物だった。手には杖があるようで、メイジだと言うことがうかがえる。
「あの、あなたは?」
ルイズが尋ねるが、その人は答える代わりに杖を振り上げると短く呪文を唱えた。杖から光の粉が舞い散る。ルイズは、この黒頭巾の人物が使った魔法が、以前タバサがフーケの小屋で使用した探知魔法と同じであると認識し魔法名を呟く。
「ディテクト・マジック?」
「ええ、どこに目や耳があるや知れませんからね」
すると顔を覆っていた頭巾を脱ぐメイジ。メイジは女性であった。彼女は頭巾を脱ぎ去ると、大変うれしそうに同時にルイズに抱きついた。
「久しぶりね、ルイズ・フランソワーズ!」
「姫様!?」
その正体は本日の来訪者にしてこの国の姫、アンリエッタであった。 
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