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共に立つ。

作者:千帆
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SAO編
  踏みしめた大地

 
前書き
拙い部分が多々ありますが、ご容赦下さい…… 

 
 赤、青、黄、緑……視界のあちらこちらで行き交うそれらがおさまったかと思えば、次に俺の網膜を焼いたのは溢れんばかりの人と、広い街。がやがやと大きい声や、野太い声がたくさん聞こえては、目の前を絶えず人が横切っていく。はじめて見るその光景は、俺の感動をいとも容易くよんだ。

「おお…これが、人ごみ……すっげぇ!!」

 生まれてかれこれ十四年。過疎化の進んだ漁村暮らしの俺が、都会なんてものはテレビの中のものだと思っていたこの俺が、たくさんの人の波の中に立っている!そう思うと、なんだ自分が格好よくなったような気さえしてきて、胸をそらして歩き出した。

 完全な《仮想現実》の実現を可能としたゲームハードである《ナーヴギア》が発売されたのは約半年前。そしてそれに対応するVRMMORPGであるこの《ソードアート・オンライン》が最近満を持して発売された──というのが友達からの熱のこもった説明の全容だ。他にもなんか色々言っていた気はするのだが、眠くなってしまったのでぼんやりとしか覚えていない。
それもそのはず。俺は、そこまでゲームに打ち込んだ試しがない。そりゃもちろん人並みに手は出してきたけども、やり込んだことなんか一度だってない。基本的にボスを攻略すればそのソフトは俺の部屋の隅っこで埃を被ることになる。
 そんなゲームたちの扱いの雑さに痺れを切らした彼が俺に「目を覚ませ!」と持ち込んできたのがその《ナーヴギア》と《ソードアート・オンライン》だった、というわけだ。そのあまりにも必死な姿に、こちらとしても開始コマンドを唱えないわけにはいかなかった。

 正直な所、どうせゲームなのだと大した期待はしてなかった。しかしどうした。これは想像以上に、良いではないか。

 ということで完全にお上りさんながらもご満悦な俺にとってオンラインゲームなんていうのは初めての経験だ。けれど勿論のこと、埃を被ったパッケージの中には基本的なRPGやアクションゲームなんかがある。勝手は分かってるぜと誰に言うでもなく拳を握ると、まずは装備を揃えてレベル上げだと意気込んで武器屋の看板を目指して足をすすめた。けれど数歩と立たないうちにとん、と前から来た人が俺の左肩にぶつかる。よろめいてしまい、謝ろうとすると今度は後ろから反対側の肩に誰かがぶつかった。

「うわっ!わりぃ!……わっ、すまん!」

 どん、と衝撃を感じては謝るという動作を一体何回繰り返したのだろう。一向に目的地に向かうことが出来ないどころか、どんどん遠ざかっていくような気さえする。なんだこれ、これが人ごみか。都会の人達は、こんなのと毎日戦ってんのか、と内心慄いていると、とうとう大通りからははずれて良く分からない裏道のような場所に出てしまった。

「うっわぁ……どこだ、ここ」

 背の高い建物に挟まれたそこは、薄く影が落とされていてどこか不気味だ。少なくとも夜にはあまり来たくないと思うようなその道の奥には、暗くてよく分からないが、なんだか小さな看板が掲げられているようにも見える。結構な距離があるのか、視力に自信のある俺でも文字は良く見えない。

「あ、これゲームだから視力関係ねーか」

 まぁ、なにはともあれこんな面白そうな場所を放っておくなんて選択肢はない。冷やかしついでに覗いてやろうじゃないかと、駆け足でその看板を目指す。けれど途中で感じたどん、という衝撃に「またかよ!」なんて叫びがこだました。

「え?あーっと、すみません」

「あ?なんだこのちっこいの」

 同じタイミングで返ってきた二つの声に、思わず後ずさる。ぼんやりと暗闇の中に浮かぶふたつ分のシルエットの迫力は満点だ。

「わりぃな!今ちょっとテンション上がっちまってて!」

「あ……ひょっとしてオメェ、ベータテスターか?」

「ん?なんだそれ」

「初心者か……」

 赤いほうのイケメンの言葉に首を傾げると、紺色のほうのイケメンが少し考えるように腕を組んだ。

「てか、ベータテスターじゃねぇんならなんでこんなとこに居るんだ?」

「ちょっと人ごみに弾き出されちゃってな。お前らは?」

「俺たちは、ほら。この先の武器屋に……」

「武器屋!?」

 紺色のほうの言葉に大げさに反応すると、びくりと二人とも驚いたように肩を震わせる。若干声がデカくなっていた自覚はあるので、意識して声のトーンを落とした。

「実は俺、こういうオンラインゲームって初めてでさ。色々教えてくれないか?」

「あ、ああ……じゃあ、武器屋行く?」

 戸惑いながらも頷いてくれた二人に、優しいな、と思ったことを告げると少し照れくさそうに笑われる。

「サンキュ!俺はポート。よろしくな!」

 差し出した手をキリトとクラインと名乗った二人は、しっかりと握り返してくれた

 互いに簡単な自己紹介をしながら武器屋へ向かう俺たちは、数時間後にシステムウィンドウからログアウトボタンが消失していることに気づき、デスゲームの始まりを宣告される事など知るはずもなかった。 
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