普通だった少年の憑依&転移転生物語
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ゼロ魔編
029 馬車から出たらラ・ヴァリエール
SIDE ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール
ある日を境に、ユーノとサイトの距離が物凄く近くなった──物理的にはあまり変化を見せて無かったが、精神的には顕著にその変化は顕れていた。……間違い無くこの〝感じ〟は気のせいでは無いので、私の勘を信じてユーノに単刀直入に訊いてみた。
……曰く、サイトと関係を持ったとの事。ユーノにその話を聞いて、直ぐ様サイトの居る所に直行した。
「サイト、ユーノから話を聞いたわ。……判ってるわよね? さぁ、話を聞かせてもらいましょうか」
「OK。とりあえず落ち着いてくれ。最初から話してやるから」
サイトの話を聞いて、私の言いたい事の全てが頭の中から消し飛んだ。……それくらいサイトの言った事は私にとって──いや、ラ・ヴァリエールにとっては寝耳に水で夢物語のようだった。
……何故なら、サイトは不治の病を患っているちぃ姉様──カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌお姉様の病気を治そうと言うのだから……
SIDE END
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
SIDE 平賀 才人
(……どうしてこうなった…)
ハルケギニアに来て、もう何度目になるか判らないセリフを心の中でごちる。……俺──平賀 才人改め、サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガはルイズに連れられ、ラ・ヴァリエール行きの馬車に揺られていた。
「サイト、ラ・ヴァリエールに入ったわ。屋敷まで後半日よ。……フフフ、これでちぃ姉様の病気が……」
俺をそんな馬車に乗せたのは、俺の主(仮)であるルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。……そんなルイズはルイズで、その双眸を爛々と輝かせながらトリップしていた。狭い馬車の中でそんなルイズと2人っきりなので、身の毛が弥立つ気分だ。
(……確かに治すとは言ったが…)
俺の予定では夏期休暇に入ってからルイズのお姉さんを治そうと思っていたが、よもやその日の明日明後日の内にラ・ヴァリエールに行くことになるとは思わなかった。……予定は未定、取らぬ狸の皮算用…先人はよくこんな巧い事を言ったとは思う。
ルイズは俺が治せると知ると否や、直ぐ様実家であるラ・ヴァリエールに鷹便を飛ばし、そのままの足取りでオールド・オスマンへと休学届を取りに言った。オールド・オスマンには〝最近休み過ぎ〟との諫言を頂いたが、ラ・ヴァリエールの次女を治しに行くことを伝えたら、オールド・オスマンもラ・ヴァリエールの次女の病気の事を知っているのか、納得してくれた。
「さ、着いたわよ」
「あ、ああ」
(〝家〟? バかな、〝城〟の間違いだろ)
つらつらとこれまでの事を頭の中で整理していたら、いつの間にやらルイズの実家に到着していた。……やはり公爵家と云うべきか家が──ヴァリエール邸の大きさが最早〝城〟の範疇に思えたのは仕方ない事だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「待たせたね」
「いえ、大して待っては居ませんよ」
ルイズとは別に、俺一人だけが客間っぽいところに通されて、そこで待機させられる事数分。金色の髪と髭を拵えてモノクルを掛けた壮年の男性が、ルイズと同じピンクの髪を頭頂部ところで丸め纏めている妙齢の女性を連れ立って入室してきた。
(ルイズの両親か…?)
俺の所感では二人は夫婦で、そしてルイズの両親だと思われる。
「さて、まずは自己紹介としようか。私はこのラ・ヴァリエールの領地を治めさせもらっている領主で、ルイズの父親だ。……そして、こちらは妻のカリーヌだ」
「夫の紹介に与りました、カリーヌ・デジレ・ド・マイヤール。ルイズの母親です」
(あれ? ルイズの母親って──カットカット。今は関係ない)
あの時──アルビオンから帰った日の事、城の兵の口振りからルイズの母親が昔、マンティコア隊に居たらしい事を思い出したが、今は全然関係無い事なので別に逸れた思考をカットする。
「これはこれは、ご丁寧にどうも。……僕の名前は今春からルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢の使い魔を務めさせて戴いて居ります、サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガと申します」
「おお、君のアルビオンでの──この度の戦争での活躍は政から、半ば退いた私の耳にも届いて居るよ。レコン・キスタとやらの魔の手がトリステイン伸びる前に抑え込んだらしな」
「ええ、何やら〝聖地〟の奪還を楯に、アルビオン転覆を狙うレコン・キスタの恥知らず共を鎧袖一触、十把一絡げに打ち倒したと聞いています」
(何をどうやったてアンリエッタ姫に伝えたらこうなるんだ、ウェールズ!)
誇大報告も良いところの宮廷での俺に関する噂に、今俺の頭の中で華麗なイケメンスマイルで、これまた無駄にカッコいいサムズアッブをしている、どこぞの皇太子殿下な親友に一言二言だけでも良いから、とりあえず忠言を申し立てたくなってきた。
「……時にサイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ殿。少し訊いていいですか?」
「はい、公爵夫人。僕に答えられる事なら何卒」
(……ついに来たか…)
ウェールズと次会った時の為に、ウェールズへの忠言をサブの思考で考えながら、ヴァリエール公爵と──ヴァリエール公爵夫人も交えて四方山話を2、3しているとヴァリエール公爵夫人は何かを探る様に訊いてくる。……内容は十中八九、次女の病気の事だと判っている
「ルイズからの書簡では次女カトレアの病気を治せる手立てが有るとの事ですが……」
「ええ、件のカトレア嬢のお身体を診てみない限りは判りかねますが、治せる公算は高いかと思います」
「随分と自信が有る様だ。……一体どの様な根拠で私達のカトレアを治せると判断したんだ?」
「アナタ、落ち着いて下さい。……ごめんなさいね、ヒラガ殿」
ヴァリエール公爵が剣呑──とはいかないまでも、少しトゲを含ませた態度で訊いてくる。
(あ、心配なのか)
俺は漸くヴァリエール公爵の瞳の中に有る感情が理解出来た。……一体、どれほどの水メイジに匙を投げられただろうか? ──一体、どれほどの水メイジに期待を寄せたのか? ……それは俺には判らない事だし、心配しているのは公爵だけでは無く、お腹を痛めてカトレア嬢を産んだ公爵夫人もそうだが……
「いえ、大丈夫です。……でも、ヴァリエール公爵がどれだけご息女を心配しているかが判りました。……もちろん公爵夫人にもそれは該当する様ですが」
「むぅ」
「ほぅ」
公爵が唸り、公爵夫人が感心した様な息を漏らす。
「まぁ、確かにポッと出の僕が理由も無しに〝貴方達の娘さんの不治の病を治療しましょう〟とか言っても信じられないでしょう。……その為に2人のご息女を治せる根拠の一端を披露しましょう」
「〝根拠〟とな?」
幾らか先程よりトゲが取れたヴァリエール公爵は、俺の言葉を鸚鵡返しにする。
「はい。ですが、その為には〝耳〟潰すのと〝目〟を改めさせて貰っても宜しいでしょうか? ……こればっかりは僕の満足でして、決してこのヴァリエール邸の不備を不審に思っている訳ではありません」
「……いいだろう」
ヴァリエール公爵から許可を貰い、この客間の隅々に“ディティクト・マジック”を掛けて、何も無いのを確認すると“サイレント”の魔法を掛ける。
「そこまで重要な事なのかね?」
「ええ。……とりあえず、大前提としておく事があります。それは今から僕が語る事は他言無用という事です」
「もし破ったら?」
「カトレア嬢は治しますよ? ですが、二度とカトレア嬢〝達〟の前に僕が姿を現す事は無くなるでしょう。……ルイズ嬢の為にもそんな事はしたく有りませんので、どうかご内密に」
ルイズが俺に向ける気持ちに気付いているであろう二人に言い放つ。……尤も、そんな事──ルイズの前から姿を消すくらいなら、ヴァリエール公爵と公爵夫人には文字通り〝忘れて〟貰うだけだ。
だが、〝もし〟だ。……もし、このハルケギニアでどんな不治の病を治せる方法──スキルの存在が露見すれば、その後は少し想像すればどうなるかは判る。……最初は持て囃されるだけだろう。だが、その内に魔法でないスキルの存在が証明されたら、それ即ち〝異端〟となる可能が有る。
……そうなれば、ガッツリ関係を持ってしまったユーノとバレッタさんを“ワールド・ドア”で彼方側に──地球に連れていく事になって、どこか一夫多妻が認められているような国で退廃的な余生を過ごす事になるだろう。
……この時の俺には〝ブリミル教──ひいてはロマリアを徹底的に潰す〟と云う選択肢は毛頭無かった。
閑話休題。
(あれ? 意外に悪くない? 退廃的な〝性〟活──って、カットカット)
またサブの思考が別に逸れていたのでカットする。
「判った。いいだろう」
「ルイズの好意を楯にしたの赦しませんけど、とりあえずは許しましょう」
「ご英断を感謝いたします」
そうして、幾つかの禍根は残ったが、カトレア嬢を治す方法──俺が持つスキルについて話すのだった。
SIDE END
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