万華鏡
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第八十一話 寮生活その三
「観なくても実際困らないから」
「だから寮でもですね」
「テレビは」
「観ないわよ」
娯楽室にあっても、というのだ。
「私も皆もね」
「まあ私達も」
「テレビ番組は観ないですね」
五人もこう言うのだった。
「ゲームをする時に使いますけれど」
「それでも」
「そうでしょ、だからね」
先輩はまた言うのだった。
「私も入学してからテレビ見向きもしてないわ」
「極論すればあれですよね」
里香が言う、ここでは。
「パソコンさえあれば」
「何とでもなるでしょ」
「はい、何かと」
「まあパソコンはあるから」
だから、というのだった。
「別に何でもないわ」
「テレビはいらないですか」
「ええ、そうした生活よ」
「わかりました、寮では特にですね」
「本当に寮にいたら何かとあるからね」
忙しいというのだ。
「来年私達もだけれど今三年の人達大忙しだし」
「卒業だからですね」
「そのせいで」
「そう、あとうちの寮六時起きだから」
起床時間についても話が為された。
「四時半起きとか無茶なことはないから」
「四時半は普通じゃないですか」
景子が目を瞬かせて言った、先輩のそのl起床時間の説明について。
「神社だと」
「あっ、景子ちゃんのお家は神社だったわね」
「はい、朝早いんで」
「お寺とか神社は朝早いわよね」
「ですから」
「いや、うちは学校の寮だから」
「だからですか」
「そう、朝はそこまで早くはないわよ」
神社やお寺とは違い、というのだ。
「六時だから」
「自衛隊と一緒ですね」
「そう、とはいっても総員起こし五分前とか号令はかからないから」
それはないというのだ。
「別にね」
「そうしたことはないですが」
「号令は」
「そう、それにラッパも鳴らないから」
自衛隊のそれもないというのだ。
「朝はこうもりがかかるのよ?」
「こうもり?」
「こうもりっていいますと」
「あっ、これ通称で」
そのこうもりという名前は、というのだ。
「ヨハン=シュトラウス二世の歌劇『こうもり』の序曲なのよ」
「そのこうもりですか」
「こうもりの序曲なんですね」
「そう、その曲が朝にかかってね」
それで、というのだ。
「皆起きるのよ」
「クラシックなんですね」
里香がその話を聞いてしみじみと呟く様に言った。
「朝は」
「ちなみ男子寮はワーグナーよ」
こちらだというのだ、男の方は。
「ワルキューレの騎行で起きるらしいわ」
「ワーグナーってあれですよね」
「地獄の黙示録の」
「あの曲を朝からですか、男の人の方は」
「また凄いですね」
「あっちは朝からハイテンションよ」
しかも無意識にまで語り掛けて来る、ワーグナーの音楽にはそうした恐ろしさもあるのだ。
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