起源の主張
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第二章
第二章
「あの大思想家もまた我が国の人間だ」
「これも間違いない」
「いや、それも間違いだ」
「それもはっきりしている」
今度は森山国の歴史に残る偉大な思想家を自分達の民族の生まれだと主張してきたのである。しかしこれもすぐに川山国から反論が来た。
「歴史書に彼の出生ははっきりと書かれているが」
「我が国の民族で間違いない」
「出鱈目に過ぎない」
こう論破されたのだがやはり彼等の耳に届くことはなかった。川山国の反論に耳を貸すことはなく彼等は今度は東の海の向こうにある新たな大国開山国のことについても言い出したのである。
「あの国の言葉の語源は我が国の言葉であり」
「そしてあの国の先住民達は我々をルーツに持っている」
こう主張したのである。開山国の人達もまた最初は何を言っているのかわからなかったがこのことにすぐに反論してみせたのであった。
「我が国の言葉は移民する前にいた国の言葉だ」
「その国の言葉の元は古代の帝国の言語や常に争っている国の言葉が混ざったもので」
彼等もまた歴史を出して反論する。
「そんなことは有り得ないことだ」
「何故遠く離れた貴国の言葉が元になっているのか」
彼等もまた言っていく。
「しかも先住民は何時何処から来たのかもある程度わかっているが」
「貴国の民族が来たという話は有り得ないものだ」
今度はその来たという時代の地図まで出してそれで検証し反論する彼等であった。見れば火山国から開山国に入るまでには北極からぐるりと回らなくてはならずとても無理のあるルートだったのだ。
「しかも我が国の黒人だけでなくあらゆる人種も起源は自分達と言うが」
「黒人はそもそも人類で一番古い人種だ」
彼等の今度の根拠は人類がアフリカ南部から出て来たことにある。このこともこうして論破されるがやはりそれに対する具体的な反論はないのであった。
こうやって三国にありとあらゆる起源を主張していくがここでまたしても森山国に対して起源を主張するのであった。今度の起源は。
「あの国の帝の起源は我々だ」
「我々にあるのだ」
こう言い出したのである。
「我が国の民族の血が入っている」
「だからこそ我々の国の人間だ」
「またおかしなことを言うな」
「全くだ」
森山国の人々もいい加減慣れてきていて首を傾げながらまずはこう彼等の中だけで言い合うのだった。
「帝は既に神話の頃からおられるのに」
「神話でなくともあの国にルーツがある貴族が入って来る前におられた」
「何処に根拠があるんだ?」
こう言っていぶかしんでいるとであった。彼等はさらに主張してきたのである。
「あの帝の母が我等の民族だった」
「だから我等の血が入っているのだ」
「だからこそ起源は我々にあるのだ」
血縁だからだというのである。千二百年は前の帝の話である。
森山国の人達はこの首長にも首を傾げた。呆れもしていた。何しろ千二百年も前の帝である。そもそもその帝の系列が今の帝の系列かということすら容易にはわからない状況である。それで森山国の人達はまず自分達のその帝のルーツを勉強しなおすことになった。
「今の帝は北朝だったよな」
「だよな。南北に別れた時にな」
既にここでかなり複雑なことになっていたがそこからも学ばれるのであった。
「まあそれもあったし」
「しかもな」
この国の帝室の系譜はかなり複雑なものがあった。長い歴史を持っていれば系譜もまた非常に複雑なものになることも当然のことである。
「しょっちゅう代替わりとかしてるしな」
「直系とか。あやふやなところあるな」
「まるで迷路みたいだな」
まさに迷路の如き系譜を見て話すのだった。
「それでも。その帝の母上があの国の方だとしたら」
「まずそこで血が半分だよな」
父と母で半分ずつである。血とはそういうものだ。
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