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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア

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第一部 刻の鼓動
第一章 カミーユ・ビダン
  第四節 渓谷 第五話 (通算第20話)

「そろそろの筈だ……」
 一年戦争で実戦をかいくぐってきたフラガでも、既に戦火を見なくなって久しい。訓練をしてはいるものの、あの時の感覚が薄れているのは事実だった。マニピュレーターでランバンに待機の指示を出して、ダミーの位置を確認する。遠隔操作は上手く動いているようだった。
「サラートなら気づいてもスルーするな」
 ダミーで攪乱する戦法は、モビルスーツのマニピュレーターにマルチランチャーユニットを装着させることが主流になってからの戦法であり、サラートにとっては馴染みがない。フウガはグラナダの戦力不足を鑑みるに重要な戦法になると考え、ダミーを使った作戦プランを常にシミュレートしていた。
「予測ではあと3000mといった所か…?」
 操縦桿を握り直す。汗など掻いていない。だが、訓練であっても緊張する一瞬だった。タイミングを合わせて、二機の《ジムⅡ》のメインノズルが火を噴いた。
 センサーに反応!
「もらったっ!」思わずフウガが叫んだ。ランバンも右のショルダースラスターと脚部のブースブースターを吹かして飛び出した。
「なにっ!?」
 ランバンとフウガが目にしたものは、サラートとカミーユが用意したダミーだった。
「しまったっ!?」
 ダミーは動くものという常識がフウガにはあった。サラートはそれを逆手にとって、ダミーを岩場に挟んで固定し、ブラフにしたのだ。慌ててレーダーに映し出されたダミーを拡大する。同時にスラスターを噴かして機体を機動させ、上空からの射撃ラインから逃れようとした。
――ロックオン!〈レプラコーン〉撃墜。
「ちぃっ!」
 構わずメインエンジンと全てのスラスターを全開にして機体を上空に踊らせる。機体を軋ませて、フラガの《ジムⅡ》が、跳ねるかの様に舞い上がった。しかし……。
――ロックオン。〈ライトニング〉撃墜。
 背後からのアラートが点いた。
「そんな……莫迦な?!背後だとっ?」
 フラガが撃たれたのは地上からだった。しかも、ダミーから左程はなれていない距離。撃ったのは、カミーユだった。
「マジか……ョ……」
 姿勢制御をオートに戻し、機体を着地させる。上空に浮かんでいるのは、ダミー。地上にはダミーを脱ぎかけているサラートの《ジムⅡ》がいた。発想の転換とでも言おうか、サラートには敵わないな…と改めて思わさせられたフラガであった。
「サラート、やられたよ」
「隊長、褒めるんならカミーユを褒めてやってくださいな。隊長の作戦を見抜いたんですからね。ま、さすがに作戦提案はCランクでしたけど」
 相変わらずの辛口である。しかし、カミーユの先見性は鋭い。ダミーにプレッシャーは存在しないが故に、感受性の高いパイロットはダミーを見抜くのだ。それは、もしかするとニュータイプへの足掛かりなのかもしれなかった。
「やはり、カミーユを出すか」
「それがよござんしょ。あっしは、こっちに残りますがね」
 わかったとサラートに応え、ひっくり返ったランバン機を起こすのを手伝ってやる。カミーユとサラートが整列して二人を待っていた。
「よしっ、全機帰投する。晩飯は、俺が奢ってやる」
「やったー!」
「ランバンは帰ったら腕立て百回した後でな!」
「わははははははっ」
 一番はしゃいだのは、当然ランバンだった。豪快に笑うサラート。小声で抗議をするランバンに、フラガも軽口をたたいている。フラガに悔しさはなかった。
 その間、カミーユは一言も口を利いていない。信じられないのだ、自分の感覚が。説明できないのだ、あの確信が。自分の鼓動が外から聞こえてくるかの様な、不思議な感覚。さっきまではあれほど鋭く感じられていたのに、今はもう、晴れた霧の様に何処かに失せてしまった、あの感覚。
「俺は……本当に隊長を撃墜したのか?」
 撃墜の実感が全くない。こんなことは初めてだった。
「よくやったよ、〈チャンピオン〉」
 横を見ると、サラートの《ジムⅡ》が親指を立てて笑っているように見えた。
「副長……」
 サラートがお肌のふれあい会話をしてきた。慌てて、通信を切り替える。
「隊長も承認済みだが、お前をある作戦に就かせたい。オレらとは部隊が変わっちまうが、どのみち部隊編成が変わる。」
「さく…戦?」
 唇が乾いていた。極度の緊張で、軽い脱水症状のようになっているのか、体が熱かった。バイザーを空けて、空気を吸い込む。シート後部にあるドリンクを取って喉を潤した。
「そうだ。ブレックス准将直々の差配でな。ラビアンローズへ行ってもらうことになる。」
「ラビアンローズ……」
 話には聞いているグラナダ直属の艦隊のことだろうか?噂によれば防衛大隊から艦載モビルスーツパイロットを出すとのことだった。俺が?艦隊直属?カミーユは少しだけ混乱していた。
「詳しい話は帰投してからする」
 サラートは一旦そこで話を終えた。
「帰投するぞ!」
「諒解!」
 ランバン、サラート、カミーユが唱和する。十六基のメインノズルが瞬いて、モビルスーツが月の地表を疾駆した。 
 

 
後書き
第三節まで終わりました。
第一章初めての戦闘シーンです。これは自分で戦闘シーンを描くにあたって、どこまで書けるか?どうやって書くかを考えた末に、MIAというアクションフィギュアで機体の制動をしながら、3次元ヘックスで移動や機動を考えつつ書いたものです。

まだまだ、上手く書けてはいないと思うので、その内書き直します。 
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