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万華鏡

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第八十話 本番その十一

「あの、先輩いいですか?」
「どうしたの?」
「いえ、先輩寮生活ですよね」
「二年目ももうすぐ終わりのね」
「じゃあ寮のことにも詳しいですよね、集団生活も」
「まあ慣れたと言えば慣れたわね」
 宇野先輩はきょとんとした顔になって琴乃に答えた。
「けれどどうして急にそんなこと聞くのよ」
「はい、さっき先生に海軍さんでは水虫とかの病気が」
「ああ、寮にあるのかって?」
「そうしたのあります?」
「私はかかってないけれど」
 琴乃の問いにだ、先輩はまず自分のことから答えた。
「それ言ったらいけないから」
「そうなんですか」
「女の子で水虫とかって言える筈ないじゃない」
 インキンは最早言葉にも出さなかった、微塵も。
「そうでしょ」
「だから言ったらいけないんですか」
「かかってる娘もいるんじゃないの?」
 よくは知らないという返事だった。
「実際に。やっぱりね」
「けれどなんですね」
「そう、見ても言わないのが暗黙の了解だから」
「女子寮ではですね」
「まあ皆病気には気をつけてるわよ」
 水虫等に限らず、というのだ。
「風邪でも何でもね」
「集団生活だから感染するんですね」
「インフルエンザなんかそれこそ一発よ」
 瞬く間に感染してしまうというのだ。
「皆かかるから」
「だから病気にはですか」
「皆気をつけてるわよ、寮全体で」
 それこそ、という口調でだ。先輩は琴乃に話した。
「私にしてもそうだし」
「病気には注意ですか」
「集団生活では特にね」
「寮って大変なんですね」
「慣れればそうでもないわよ、皆結構適当だから」
「適当ですか」
「私だって几帳面な方じゃないし」
 自分から言うのだった。
「そういうものよ」
「そうですか」
「そう、皆結構いい加減にしてるから」
「そんな苦しくないですか」
「少なくとも軍隊みたいなことはないから」
 こうも言う先輩だった。
「あの江田島みたいじゃないから」
「幹部候補生学校ですね」
「海上自衛隊のね。あんなのじゃないから」
「じゃあ普通ですか」
「普通に皆やってるわよ」
 病気には気をつけていても、とだ。先輩は琴乃に話した。
「食べて楽しくね」
「楽しくですか」
「まあこれ以上お話しないのならお風呂に行きましょう」
「寮のお風呂ですね」
「そう、そこでね」
 話の続きをしようというのだ。
「ゆっくりとしながらね」
「ええと、じゃあ」
「お願いします」
「わかったわ、こっちよ」
 宇野先輩は五人を笑顔で寮に案内した。そしてそこで寮の湯に浸かりながらだ。五人に寮の話をするのだった。


第八十話   完


                       2014・5・7 
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