アラガミになった訳だが……どうしよう
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
派遣社員になった訳だが……どうしよう
17話
作戦は開始されたようだな。
さて、俺の仕事はもう少し後なんだが……そんな事より酷い吹雪だ。時間としては昼間なのだが、夜と見間違えるような雲の厚さと豪雪にウンザリしてしまう。
いい加減この手の吹雪には慣れてきたが、苦手な事には変わりはない。それ以前に吹雪が好きなやつなどいるのか?
アニメPVでもこんな天気だったので、ゲーム通り進んでいることは結構だが……一体どの程度のアラガミがここに来るのかは全くの未知数だな。
可能な限り多くのアラガミがこちらに来てくれると、食料的にも人助け的にも助かる。
基本的に他人の事などどうでもいいが、無理をせずに助けられる範囲でなら助ける程度の良心はあるのだ。
ふむ…そろそろ戦闘が始まったようだな。吹雪の音に混じって銃声やらアラガミの叫びが聞こえ、こちらも両手両足を具足に変化させる。改良を重ねた結果、硬度が上がった具足は鈍い銀から黒へと、噴き出す炎は火力が上がって青い炎に変わった新たな具足だ。
マントは色こそ変わりないが、こちらの面積を多少狭めることで硬度も上がり、装備としての性能は以前より格段に上がっている。
そして、一番充実したのは銃火器系統だろうな。サカキから送られてきた銃型神機の予備パーツを喰らい続けたおかげでレールガン、ショットガン、グレネード、マシンガンと何でもござれの武器庫状態だ。
ただ、銃はオラクル細胞を消費するので可能な限り無駄な浪費は抑えたいな、幾ら補充が可能とはいえ乱射は控えるとしよう。
とりあえず、準備は整ったのだがアラガミが来ないので待ち惚け状態だな……雪だるまでも作るか……
気が付けば雪だるまファミリーができたぞ?いい加減来てもいい頃だろ、流石に遅いぞっ!?
雪だるまファミリーもろともに俺は突然の衝撃に吹き飛ばされ、雪の中に頭から突っ込むハメになった。
どうやら、原子炉を臨界まで稼働させて爆発させた衝撃の余波がここまで来たらしく、空を覆っていた雲も根こそぎ吹き飛ばされて一面の青空に変わっている。
む?雪だるまファミリーの子供だけが残ったな……ああ、親が盾になったのか。
いや、そんな事はどうだっていい。
そろそろ、爆発で周囲に吹き飛んだアラガミがこの辺りに来るはずだ。その証拠に目に入るだけでサリエル五体、クアドリガ二体、ヴァジュラ三体にオウガテイル十数体がこちらに向かってきている。
両肩を銃に変形させ、周囲に極限まで圧縮した気体を封じ込めたオラクル細胞の針のような弾丸を無造作にアラガミにばら撒く。
何発かは当たったが、半分は雪の中に埋れる。
当然、それが狙いなのだから別段何の問題もない。そして、外れた弾が埋まっている地点にアラガミ達が乗った瞬間を見計らって、電撃をアラガミ達に放つ。
その瞬間、地面に埋まった弾丸、アラガミに突き刺さった弾丸が大爆発を起こした。
理屈としては簡単な話だが、威力は折り紙つきだ。
金属に近い性質に変化させたオラクル細胞の弾丸の中に、水を電気分解して生み出した水素と酸素を封じ込めておいたのだ。そこに電撃を放つことで弾丸は避雷針のように電撃を集め帯電、内部の気体が爆発したという話だ。
結果はオウガテイルは全滅、ヴァジュラは手足が使い物にならないレベルに崩壊、サリエルは当分は浮遊できないレベルのダメージ、クアドリガは動きこそ鈍くなっているが耐え切ったようだな。
流石にクアドリガは戦車やらを喰いまくったアラガミだけあって、爆発やらなんやらには強い。
もっとも、それに対する対策は当然準備しているんだがな。
両肩の二つの銃身を上下に割れるように変化させて、その間に極細の弾丸をセットする。そして、割れた銃身と弾丸に電流を流し込み、レールガンの原理で弾丸を放つ。
俺のいた世界では電力的な問題、レールの強度などで実用化が難しかったが、アラガミの力を持ってすれば実用は容易い。
音速の五倍以上の速度をもった針のような弾丸はクアドリガの体を抵抗なく貫き、弾丸の纏ったソニックブームがクアドリガを着弾箇所から爆散させる。
連射性能はかなり低いものの、破壊力は十分すぎる程のものであり、硬度の高いアラガミを倒すのに適している銃だ。加えて反動もないので、次の行動への支障も少ない。
後からそれこそ一面の銀世界改め、一面のアラガミが来ているのだ。流石にその全てをマントと具足で倒すのは無理だという判断はできる、その為に可能な限りこの距離で数を減らしておくことが重要だ。
キリが無いとはこの事か。
倒した数が五十を超えてから数えるのをやめたが、一向に数が減らないぞ?一体一体はさしたる問題はないのだが、この数は厄介極まりない。
どうやら、ゲーム中は一つ一つの個体は強力だったようだが、共食いやらで数自体は減っていたのだな。
いや、そんな推測はどうだっていい、死ぬ要素はないが数に押し負けて既に何匹かは後ろに抜けてしまった。
ロシア支部の腕を信じるしかないんだが、どうにも嫌な予感がするな。
こいつら切っても殴っても構わずに突っ込んでくる……一体なんだ、これは?
アラガミの知能は高が知れているものの、本能的にはある程度撤退という選択肢を選ぶことは可能な筈だ。
しかし、こいつらはそれを選ばない。どう考えてもこいつらの戦力では、俺に勝てないということは分かっている筈だが……
俺以上の脅威が奴らの後ろにいて、それから逃げているのか?
キュウビは大分前に住処を変えたらしくロシアからいなくなったのでないだろう、となるとゴッドイーターになるが今の時点では基地にいる三人よりは強いという自信はある。
ならば一体何だ?
ん?何だ?
アラガミが減った?
いや、違う!!
地面の下に引き摺り込まれているのか!?
しかも、凄まじい速度でこっちに近付いている。マントにサリエルの能力を追加し、一旦空中へ逃げるとしよう。
上に逃げてよく分かったのだが、地面から大量の黒い手がアラガミ達を次々と捕らえて引き摺り込んでいく。
正直、悪質なホラー映画のような光景だが、生憎とああいた現象はアラガミで見慣れている。が、あんな人間の腕そのもののような腕を攻撃として使うアラガミなど知らんぞ?
正体は分からんが、腕の持ち主はここのアラガミを喰う事に集中しているようで、当分ここから動きそうにない。正体を確かめたい所だが、今は後ろに抜けたアラガミを追うことを優先したい。
圧縮空気を放出して、抜けたアラガミを追うために一気に加速する。
その背後で静かに、だが確かに俺の耳に声が聞こえた。
「ミツケタ…」
俺がロシア支部の連中がいるであろう地点に辿り着いた時には、ゴッドイーター達は何匹かを逃がしてしまったようで何人かが後ろに走って行くのが見えた。
この先には街が点々とであれ数はあるので俺も追いかけたいのだが、下手に動けば俺の存在がフェンリル側にバレる。
いや、バレずとも今、この段階で人型のアラガミがいるという事を表沙汰にするのはマズイ。
くそっ!!
今ほど好きに動けない事を呪ったことはないぞ!!
その後、俺はゴッドイーターとは別の方向から大きく迂回して近くの街に侵入したアラガミを倒し、何人もの死体を見るハメになる。
生きながら喰われ、助けた時には手の施しようがない状態の人間に何度も縋られるハメになった。
先ほどから何人もの死に行く人にせめてもの慈悲としてトドメを刺し続けている、俺に出来たのはたったそれだけだった。
分かってはいた、俺一人で全ては救えない。何度も覚悟していたし、理解もしていた。
だが、いざそれを目の前にすると、心を引き裂かれるような痛みが俺を襲う。人の死は今までも見てきたが、それは助けることがそもそも出来なかった人の死だ。
そして、今回は俺にもっと力さえあればば助けるができた筈の人の死だ。救えるという可能性はあったのだ、それがあったにも拘らず救えなかったというのは理屈では無茶だと分かっていても、かなりこたえる。
二つ程街を周りアラガミを殲滅し終えた時、作戦用に渡された無線機から連絡が入った。
俺はそれの応答用のスイッチを無造作に入れて、誰からかの連絡に耳を傾ける。
「マキナだな」
どうやら、リンドウからのようだ。
悪いが、今は返事をするのも億劫なんだ。……連絡なら後にして欲しいな。
「言い辛いんだが……あんたの住んでいた街は、生存者1名だったよ」
その時、俺はやっと理解した。
俺は人の死に対して納得も理解もしていなかった、ただ他人事として傍観者ぶって深く考えないようにしていただけだった。
死とは途方もない喪失感を死んだ者に関わった全てに与える、理不尽なものなんだ。
ただ、それを知った時には既にあの家族は死んで、俺は……結局…何もできなかった………
ああ、アラガミの体でも…涙は……流れるんだな。
ページ上へ戻る