アラガミになった訳だが……どうしよう
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派遣社員になった訳だが……どうしよう
16話
あの後、残りの煙草を譲ってくれと頼みんできたリンドウにあの煙草を譲ってから、二人で飲み明かした。
アルコールも無効化するのだが味はするので、煙草と違って充分楽しめる。元々、俺は酒は酔う為ではなく味わう為に飲む人間だったからな。
ただ、リンドウは途中で酔いが回ったらしく色々な事を愚痴り始め、姉上がどうの、サクヤがどうのと延々聞かされる羽目になった。
しかも、俺の気にしている事まで言いやがった。
「あんた、幾つなんだ?背は俺より低そうだし……18とかそんなんだろ?」
「今年で33だ。それと身長に関しては言うな、低いという自覚はある」
気がつけば30越えていた事に少なからず凹んでいるんだ、この世界に来た時は20になったばかりだったのだが何だかんだと10年以上経ってしまったな。
その後、「30過ぎてクマのキグルミかよ」などと腹を抱えて笑ったリンドウを物理的に眠らせ、ソファーの上に放置してから俺はベッドに入り眠りに就いた。
後日、二日酔いのような状態のリンドウを送り出してから、昨日渡された資料に目を通す。
どうやら俺はアラガミ誘い出す原子炉から十数キロ離れた地点で待機、視界に入ったアラガミを片っ端から喰っていけばいいらしい。一応、俺の後方さらに数十キロ離れた地点にロシア支部のゴッドイーターが待機して、撃ち漏らしたアラガミを片付けるそうだ。
正直、これで完璧に周辺の街を守れるかと言えば無理だろうがやらないよりはマシだろう。そう自分を納得させるしかない、あらゆる物事にも万全ということはないのだ。
物事をどれだけ万全に近付けるかを努力といい、そしてそれに天運が加えられて結果という。
まぁ、結局のところどれだけ俺が足掻こうと全ては救えないのだから、また嫌な物を見ることになるという事だけは覚悟しなければならないだけのことだ。
故に見なければならない量を減らすことに努力を払うとしよう。
作戦開始は明後日、明日の昼にでもここを出ればいいのだが今日はどうやって時間を潰したものか?今から俺の待機地点に行ってもいいのだが、丸一日雪原過ごすのは嫌だな。
………掃除でもするか。
この作戦が終わればこの家とも当分お別れなのだから、今の内にある程度片付けておくとしよう。そうなると今まで気にしなかったが、この家には使っていない家具が多いな。
クローゼットも使っていない物は一つあるし、本棚も幾つかっていないので処分するか。そういった使わない家具を回収する日は来週だったな………まぁ大目に見てもらおう。
それにしても前の住人は一体どれだけ服を持っていたのだろうか、三つあるのだが一つ一つが大きいので正直上の服と下の服で分けることで、二つは使っているのだがスペースはあまり過ぎだ。
そもそもそこまで服を持っていない俺に、どうやって三つも使えというのだ?
今は玄関先に使わない家具は置いておいて、夜になってからゴミ捨て場に持って行こう。流石にこんなデカいクローゼットを一人で軽々担いでいるのを見られると、確実に怪しまれてしまうじゃないか。
それにしても、俺は基本的に外にばかりにいたのだが探してみると、以外と知らない内に汚れやらが溜まっていたらしく、想像以上に手間がかかるな。こういう時にアラガミの体とは便利だと感じるな、幾ら雑巾を絞っても手が痛まないんだからありがたい。
その最中にカナメから電話がかかって来た。
「マキナさん?今、大丈夫ですか?」
「ああ、別に構わんが、どうした?」
そう返事すると、カナメは少し不安そうな口調で質問してきた。
「あの、日本にはいつ頃戻られるんですか?」
ん?言っていなかったか………うん、よく考えてみれば言ってないな。
「今月中にはそっちに帰るつもりだが、どうしたんだ?フェンリルが何か言ってきたのか?」
「いえ、カノンが大人になったらゴッドイーターになると言って聞かないんですけど……どうしましょう?」
「なんでそれを俺に振るんだ?」
父と娘の語らいに部外者の俺の意見がいるんだ?
「カノンは貴方のことを兄のように慕ってるんですよ、おかげで私の意見そっちのけでマキナさんの許可を貰ったらなると、妻もマキナさんがいいと言ったら構わないと言ってるんです」
………あー、俺は完全に無罪だが言わせてもらおう。色々とすまん、今度美味い酒でも贈るから一緒に飲もう。
「俺が兄扱いって、俺の年を考えて欲しいな……カナメとそんなに変わらないだろ?」
「ええ、なんですけど。私も研究やらで最近帰れない日が多いんで、最近家庭での私の扱いが……」
「お前も色々と大変なんだな……で、カノンがゴッドイーターになるかだったな?俺は止めるつもりはないが、十八歳になってからという条件付きでの話だ」
今の時代、特に極東支部なんぞはゴッドイーター、フェンリル関係者、無職程度しか選択の自由がないんだゴッドイーターになるのはそれ程おかしな話ではない。ただし、もう少し分別のつくようになってからだ。
その適合率からカノンはフェンリルから強制されるだろうが、恐らくは彼女自身親に迷惑をかけないやら、人類を守る使命に憧れてなどの理由で志願しているんだろう。
これが俺のいた世界ならそれは十分理由だが、この世界でそんな理由では少々足りない。
ゴッドイーターは基本的に死ぬことを前提で考える職業だ、どれほどのベテランだろうが小型アラガミ程度の攻撃を頭部にくらえば即お陀仏するのが普通なんだ。
そんな職業に就いて生き残る為に必要なのは技術や経験よりも、その意思の硬さだ。何があっても生き残る、何があっても負けない、その意思が無ければ技術も経験もゴミ屑同然に成り下がる。
その意思、いや覚悟とでも言い換えるべき物は基本的に人間は自分自身の事でしか抱けない。ごく稀に滅私奉公を体現したかのような人間もいるが、そんなものは例外だ。
まぁ、簡単に言えばゴッドイーターなんぞになる理由は利己的な欲求であるべきだ、という話だ。
それが復讐であれ、自己定義の為であれ、己の内から湧き出る願望を叶える為にこそ人間は最も動くように出来ている。
「………十八ですか?」
おい、なんでそこで考え込むんだ?この世界の就労年齢は二十なのか?いやいや、ゲーム中では高校生の年齢でゴッドイーターの奴など結構いた筈だ。
「あ、ああ、何か問題があるのか?」
「……いえ、なんでもないですよ。ええ、貴方なら大丈夫とか考えてませんよ?」
まるで意味が分からんぞ?
その後、益体のない話をしてから電話を切り、家の掃除を終える頃には既に日が暮れ始めていた。
そろそろクローゼットやらを捨てに行くか、確かに近くの無駄に広いコンクリートの空き地が粗大ゴミを捨てる場所だったな。うむ、やはりというべきか見事に何もないな。
なんというか、何もないないコンクリートの空き地の壁際に木製の比較的立派なクローゼットがポツンと置いてあるのは、なんとも言えんシュールな光景だ。
子供がこれを見たら確実に隠れんぼでの格好の隠れ場所になるな……
ガムテープでクローゼットが開かないように、しっかりと固定しておこうかとも考えたが、ゴミ収集は来週だし隠れた子供がそのまま回収されるなんてことはないだろう。
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