アラガミになった訳だが……どうしよう
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アラガミになった訳だが……どうしよう
9話
確かに1歳児から見ればおれはおじさんかもしれんが、20でおじさん呼ばわりは少々………いや、正直な話として結構傷付いた。
まぁ、そんなこんなで傷も癒え、ヴァジュラの能力を得たことで電気を操れるようになったのだが、一つ嬉しい誤算があった。以前迂闊にも直撃した雷撃のせいでついにタオルケットのほとんどが消し炭になり、ほぼ上半身裸という不愉快極まりない格好だったのだが、ヴァジュラを喰らったおかげでヴァジュラのマントが作れるようになったのだ。
それもある程度の頑丈さもあり防具としても機能する、電気を流せば鎧にような硬度にもなるという優れもので使い勝手も非常にいい。色は少々派手すぎるが、まぁその程度は我慢できるし肌触りも悪くはないので、プラスかマイナスかといえばプラス要素の方が多いので別段困ったこともない。
他には、特にやることもなかったので街を彷徨いていると、割としっかりした布団やら家具が出てきたのだ。おかげで部屋も随分と人間らしい部屋になり、食事もコンゴウやヴァジュラが出るようになったので大分いい具合になっている。
ヴァジュラは以前喰らった影響で電気が効かない、または効きにくくなったおかげで以前より遥かに楽に倒せるようになった。それに何冊か本を見つけ、娯楽の面も充実し始め俺の生活は素晴らしいものなっている。
さて、現実逃避はやめよう。
いや、全部本当のことなんだ、つい一時間前までは俺のテンションは最高だったんだ。だが、カナメから渡された無線から今地球上で聞きたくない声のトップ2の片方から伝言が入った、いずれ逆探知なりなんなりでバレると予想はしていたが………一回も連絡が来ていないのにバレるとはどういうことだ?
一瞬、カナメを疑ったがどうやら違うらしい。
単純にカナメがヴァジュラのコアを取り出した連絡手段を持っているだろうと考えて、独自に考えられる手段を試しまくっているうちに無線という手段に行き着き、考えられる周波数を探り続けた結果引き当てたようだ。
「いやー随分と手間取ったよ。私はペイラー サカキと言ってね、アラガミを研究している者だ」
………本当に最悪だ。こいつにだけは絶対に関わりたくなかったのだが、カナメと連絡も取れない状態ではどうしようもない。とりあえず、俺の正体だけはバレないように…
「不躾な質問で済まないが、君はアラガミだね?」
………なんなんだ、コイツ?エスパーか?
「カナメ君がヴァジュラのコアを持ち帰って来た時は驚いたよ。あそこまで損傷の少ない、しかも大型のアラガミのコアなんて今の我々人間ではどうやっても手に入らないからね。
それに彼の持って行った装甲だけでは到底ここまで辿り着けないだろうし、誰かの手助けがあったとは思ったのだけれど………ヴァジュラを倒す手段は今のところ我々人間は持ち合わせていない。となると、人間以外でアラガミを倒せる存在、つまりアラガミという訳だ。どうかな?」
つまり、ヴァジュラはやりすぎたということか………昨日の俺を今すぐぶちのめしたい。カナメの言う通りオウガテイルのコアで済ませておけば、まだ幾分か誤魔化せただろうに!!
「正解だ」
「おお、人間の言葉を理解しているのかい!?実に興味深い……まぁ、それは置いておくとして、だ。一つ質問をしてもいいだろうか?」
どうせ拒否しても意味がないだろうし、いいだろう。
「構わない」
「ありがとう。単刀直入に聞かせてもらうけれど、君は人類の味方かい?」
「違う、ヒトの味方だ。人類の未来に"しか"興味のない人間には味方するつもりなどない」
「………そうか。君は随分と人間らしい考え方だね、それも随分とロマンチストのようだ」
「そりゃどうも、で。あんたは一体俺に何の用だ?回りくどいのは嫌いなんだ」
知恵比べで勝てる相手ではないのだから、可能な限り会話は抑えて此方の情報の漏れを防ぎたいのだ。
「すまないね。私は今のところ表立って動けないんだ、そこで頼みがあるんだ」
「アラガミの素材集めか?」
「察しがよくて助かるよ、報酬を求めるならば勿論私にできる範囲でならなんでもするよ」
………こいつはゲーム中でも悪人ではなかったし、思考もまぁ……比較的…ある程度……多分、マトモだ。確かに今の所こいつはカナメが逃げ出した原因の事件の影響で、若干フェンリルから遠ざかっていた筈だ、支部長との会話からしてそんな感じだったと記憶している。
さて、素材集めは別段問題はない。露骨に世界のバランスを壊すような要求でなければ問題はない、それに報酬もこいつがゲーム中のようなある程度権力のある立場になってから貰えばいい。
例えば俺の存在の隠蔽やらを頼むにはうってつけの人材だ、それに2以降もこいつとの関係があれば上手く立ち回れる。今後の展開を考えるとこの要望は受けるべきだな。
「いいだろう、そこまでの無茶な要求でないなら受けるぞ」
「本当かい!?ありがとう、助かるよ」
願わくばこれが悪魔との契約でない事を祈るばかりだ。
その後、アラガミの素材の受け渡し手段やサカキとの連絡手段などを打ち合わせ、話の区切りをつけてから無線を切った。直後、カナメから連絡がありサカキに俺の事がバレたことを涙ながらに謝られるハメになり、なんとか落ち着かせてからカナメ達の立場がどうなったかを聞いた。
どうやら、一家全員お咎め無しでフェンリルの配給やらなんやらもある程度優遇されるような、割といい扱いになったらしいがカナメは研究員として働かなければならなくなったらしい。
まぁ、それがフェンリル側から下した逃亡に対する罰なのだろうが、どうやらカナメ以外にも人体実験に難色示した技術者は多かったらしくフェンリル側もやむを得ない場合を除いて人体実験、それも子供を使ったものは原則禁止とした。もっとも、原作でも子供の実験はフェンリルは表立ってはやっていなかったし、ゲーム中で描写されたのも2の車椅子の孤児院だけだったはずだ。
それとカナメはフェンリルに対しては頑なに俺の正体の開示を拒んだらしい、とはいえ完全に俺をフェンリルと関わらせないようにするのは不可能だったらしく、依頼という形でのみ俺と繋ぎをつげるということで妥協したらしい。やはり、サカキが異常だっただけで普通はこの無線機の周波数を特定するなど不可能らしく、サカキ以外はカナメにしか繋がらないようにはなっているそうだ。
で、フェンリル側が俺に依頼してきたのは月に5つアラガミのコアを大小問わず渡して欲しい、報酬は俺の欲するあらゆる情報の提供とカナメが付け加えた俺の一切の行動に対する干渉、調査を行わない事だそうだ。
随分とカナメが働いてくれているが、ここまで来るとあいつの立場は大丈夫なのかと心配になるな。
まぁ、ここまでの要求が通ったというのもアラガミのコアを手に入れることのできる俺の力があるからなのだろう、だからこそ俺がフェンリルの要求に応えられないとなるとカナメ達もかなり危険になるということだ。その辺りは一蓮托生ということでフェンリルに見限られない程度にそれなりの真面目さで働き、その気になればフェンリルを潰せるという恐怖心を与えるとしよう。
その為にも今のままの力に妥協するつもりはない、さっそくフェンリルに連絡を取ってアラガミの居場所を教えてもらうとしよう。サカキの素材集めもその片手間にやらせてもらおう。
いやはや、明確な目的があってその上で守るものがあるとは、これは随分と楽しくなってきたじゃないか。
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