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アラガミになった訳だが……どうしよう

作者:アルビス
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アラガミになった訳だが……どうしよう
  5話

一週間経ったわけだが、とりあえず左腕腕は治った。
治ったのだが…何故手の甲にウロヴォロスの目が付いているんだ?特に腕を変化させようとはしていないのだが、基本的な人の腕の状態でもこの目が消えないのだ。
付いているのは手の甲なので別段困るようなことはないのだが、なんというか不気味すぎるぞ。
常に薄い紫の光を放ちながら、時々勝手に動くのだから気味の悪いことこの上ない。
実害はないんだがな……まぁいい、兎に角早いところここを出てからグボログボロを喰らって海を渡らなければ。
今が具体的に何年なのかが分からないからこそ、最悪の事態を考えて力を溜め込んでおかなければらんのだ。
神機が出回り始めてからはアラガミの進化の速度も跳ね上がるからな、せめてそうなる前に強くはなりたい。
だからこそ今がアラガミが現れ始めた2050年の辺りなのか、はたまた神機が開発され始めた2056年近くなのかはかなり重要なのだ。
少なくともここまでただの一度もゴッドイーターと出会わなかったのだから神機の開発はまだされておらず、今のところオラクル細胞の研究初期と言ったところだろう。
しかし、ピストル型神機が出来てからの神機の開発はそう時間は掛からないだろう。ピストル型に対応するために進化したアラガミ程度はそこまでの脅威ではない、しかし第一世代神機が開発されたとなると話は変わってくる。
俺が散々にやられたウロヴォロスを単独討伐するような輩が出てくるのだ、アラガミもそれに対応するかのように馬鹿げた強さに進化した。
そうなると今の力程度では生き残れないのは言うまでもない、となるとゴッドイーターが本格的に活動を始める前にその進化に対応できるレベルの力を持たなければならない。
そして、今の内ならば殆どのアラガミは原作よりも弱く、今の段階でならば殆どのアラガミの能力を手に入れることができる。
ただ、それは今が2050年辺りである場合の話だ。
もしも、神機開発までにそう時間がない場合考えてのこの旅であり、その為のシユウ狩りによる麻痺能力の獲得だ。
できればその道中にでも今が何年なのかが分かれば儲け物なのだが、この体では人に聞くなど実験室経由ホルマリン漬け行き確定だ、当然話にならん。
となると、何処かでまだ動いている時計でも運良く見つけるしかないか…
随分と当てのない方法だがこれしかないのだから仕方が無い、それ以外の方法など今のところ思いつきもしないのだからな。
そんな事を考えながら俺は寺を後にして、一路北へ海を目指して歩みを進める。
道中何匹か小型アラガミと出会ったが別段問題なく喰らう事はでき、左腕の目以外は完全に元通りだ。
いや、元通りではないな、左腕の目の影響なのだろうが左腕を変化させた武器が全て紫の光を薄く放ち、威力が通常のものよりも強力になっている。
どうやらレーザーは出力が上がり、刃は表面に薄くレーザーのようなものが張り巡らされ切れ味をあげているようだ。
どうやらウロヴォロスの顔を喰らった時に得られた僅かな能力を、体が再構築された左腕に可能な限り有効活用する方法を考えた結果なのだろう。
手に入れた量が少なかった分左腕だけという形になったのだろうが、もしも十分な量が手に入った場合全身目玉まみれになったのか?
………断固、拒否させてもらおう。
ある程度進むとほのかに潮の匂いが鼻をくすぐった、視界に海は全く見えないのだがアラガミの嗅覚は随分と遠くの匂いを嗅ぎ取ったらしい。
さて、あとはグボログボロがいることを願うばかりだ、ここまで来て無駄足だったというオチは勘弁願いたい。
そして、ここからもう一度引き返すことはもっと嫌だ。
下手をすればあのウロヴォロスともう一度鉢合わせなど、例え死んでも絶対に拒否させてもらう。

さて、その後も何の問題もなく浜辺に辿り着けたのだが……いやはや驚いた、小さな漁村があったのだ。
最初はどうせ廃村だろうと思って近づいたのだが、よくよく見てみると焚き火の跡や洗濯物やらを見つけ、少々離れた位置からグボログボロを探すついでに観察していると5名程だが生存者を見つけた。
赤ん坊が1人、成人しているであろう男女が1組のおそらく家族なのだろう。
だが、ここで疑問が浮かんだ。
あの家族はアラガミに襲われないのか?こんな世界だ程度に差こそあれ、アラガミがいないなどということがあり得るのか?
少々危険だが、どうにも気になって仕方が無い……もっとも最初に近づいた時に付けてしまった足跡で俺の存在は気づかれているらしいがな。
まぁ、ここならばフェンリルに連絡されてどうこいといったことはないだろう、単なる願望に過ぎないがそう自分に言い聞かせて彼らに近づく。



案の定、かなり警戒されているな。
赤ん坊と女性は家の中へ隠れ、男はこちらに銛のようなものを向けている。
「どなたか存じませんが、どうかお引き取りを」
一応、こちらが旅の者であり危害を加える気は無いことを説明し、持ち物を全て彼に晒すと少しだけだが警戒を緩めてくれた。
マントと甚平の下だけしか持っていない人間に、武器を持った人間がそこまで警戒するかと言われるとおそらくそこまでではないだろう。
加えて自分で言うのもなんだが俺の体格はどちらかと言うと貧相なものというのもあり、目の前の男より随分弱そうに見えるのもあるだろう。
とりあえず疑問に感じていた事を幾つか聞いてみようと思う、まず何故こんな辺鄙な所に家族だけで暮らしているかだ。見たところ衣服はそこまで質の悪いものではなく、ごくごく一般的な服装で困窮してここに来たという訳ではないだろう?
「…ええ、都市部はアラガミに重点的に襲われ、仕方なく浜辺の実家に逃げて来ました。もっとも、私達が来た時にはkのザマでしたけどね」
なるほどな、喰える物が少ない方に逃げたというのは正解かもしれんな。
それに彼らがここに来た時には既に喰い尽くされた後だったというのも手伝って、些かばかりアラガミの集まりが悪いのだろう。
が、ここにいる間に襲われなかったのか?少なくとも二、三匹は来るだろう?
「いいえ、何故かここにはアラガミが来ないんですよ。我々も不思議には思っているんですが、この幸運には感謝しています」
うん?来ないだと?
ちょっと待て、おかしいにも程があるぞ。
アラガミが来た場合の逃げ道でもあって、それを非常時に使ってどうにかしてるものと考えたが……どういうことだ?アラガミが来ない、つまりアラガミが寄り付かない………嫌な予感がする。
すまない、一つおかしな事を聞くが……今、何年だ?
「えっと、2053年ですけど?」
OK、予感的中だ。
あのマッドサイエンティストが耐アラガミ装甲の試作型が完成してる年だ、となるとこいつはフェンリルの関係者か?
アラガミの始末なら何の抵抗もないが、流石に生きた人間を始末するのは出来れば控えたい。
こんなウロヴォロスに引き続き人殺しのトラウマなど御免被る。
だが、この日本でフェンリル関係となるとマッドサイエンティストかまだなってはいないだろうが支部長か、どちら側の人間だろうと厄介なことこの上ない。
仕方ない、ここは一つ聞いてみるとするか。
この時点での人間の反撃はさして恐ろしくはない、それに反撃されれば自衛という自己満足でしかないが理由がある分、精神的にも幾分か楽になるだろう。
「お前、フェンリル関係者か?」
「っ!?」
どうやら図星らしいな、さて少々追い詰めるか。
「耐アラガミ装甲、どうだ?使い勝手はいいだろう?」
「どこで…それを?」
「そんな事はどうでもいいだろ?盗んだか、はたまた製作関係者だったかなんだっていいが、どうして逃げ出した?」
「言えば…見逃して貰えますか?」
「見逃すも何も俺は聞いているだけ、お前は答えるだけ、それ以上に何がある?」
「……分かりました、話します。ですから、妻と娘は………どうか」
「いいだろう」
どうにもフェンリルの関係者か何かと間違えられているようだが、まぁ話してくれるならそれで構わない。
それにフェンリルとはあまり良い関係ではないようだし、いきなり連絡されるということもないだろう。
「私はサカキ博士の下でアラガミの研究をしていました。自分で言うのもなんですが、人類の未来の為の研究ということもありやりがいの感じていましたし、世界トップクラスの研究機関で働いていると誇らしくもありました。
ですが、去年、他の部署の奴が私に教えてくれたんです。もうすぐ人類の切り札が誕生するって……その時は神機開発の目処が立ったのだと思い喜びました。
実際はそんな生易しいものではありませんでした、あれは狂気の産物ですよ……胎児に偏食因子を組み込むなんて」
なるほど支部長が自分の息子を弄くってゴッドイーターにした計画だな、そこからあの支部長はどうにもペシミストになったようだったからな。
となると、そろそろアーク計画の原案ができたあたりだろうか?
「確かに科学に犠牲はつきものですが、それは未来ある者の為に払う犠牲であって赤ん坊を犠牲にするなんて間違っています」
「お前の科学の持論などどうでもいい、俺が聞いているのは何故逃げたかだ」
「……娘です」
ん?娘だったのか、あの赤ん坊は……で、それがどうしたのだ?
「娘は偏食因子への適合率が非常に高いと簡易検査で判明したんです。私はすぐに検査結果を処分して、フェンリルから逃げ出しました。
あのままでは娘も実験に使われるのではないかという恐怖心から、私はサカキ博士の下で作成した耐アラガミ装甲の試作型を幾つか盗み、ここまで逃げてきました。
この辺りは調査で比較的アラガミが少ないと出ていましたし、試作型でも十分な効果はありますからね」
確かに神機の開発もままならん状態なのだから、子供の命でアラガミへの何かしらの対抗策が見つかるのならば安い物だろう。
それに今のアラガミ程度ならば試作型で十分というのは正解だろうし、確かにこの辺りは比較的アラガミが少ないというのも恐らくその通りだ。
寺の辺りでは多かったアラガミもこの辺りでは極少数しか出会うこともなく、些かばかり空腹状態ではあるのだ。
ただ、もう数年すればこの辺りもアラガミで溢れかえるだろうし、それより前に試作型程度では何の役にも立たなくなるだろうしな。
………ここで見捨てるのが俺の存在がバレる可能性ある分最善なんだろうが、そればかりは寝覚めが悪いどころの話ではない。
体はアラガミでも心は残念ながら人間だからな。
非常に不本意だが助けてやるとしよう、重ねて言うが不本意極まりない。それにフェンリル関係者という事はアラガミの生息地にも詳しいだろうし、後々の役にも立つだろう。
ああ、そういえば大事なことを聞き忘れていた。
「お前、名前はなんて言うんだ?」
「名乗ってませんでしたか…台場カナメです」
全速力で回れ右して帰るべきだったな…










 
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