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SAO-銀ノ月-

作者:蓮夜
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第二十一話

 少女店主の叫び声が店内に響き渡り、そのしかる後に静寂が訪れた。
少女店主の表情は、「やっちゃった」という文字が浮かび上がりそうな表情となっていた。

「…いいよ別に。むしろ素で話してくれた方がありがたい」

「じゃあ言わせてもらいますけどね、なんでウチのインゴットじゃダメなのよ!」

 半分フォローのつもりで、素で話して良いと言った途端、マシンガンのように文句を言われた。
……どうやら、この客商売に向かない性格が本性のようだ。

「だから、それはさっき言っただろ。お前のインゴットじゃ成功率上がんないって……」

「へぇ~……なんでそんなことアナタに分かるの? みた感じ戦闘職みたいだけど、《鑑定》スキル上げてるの?」

「ぐ……」

 少女店主の反撃に、俺は少し口ごもざるをえなかった。
《鑑定》スキルなんぞびた一文上げていないし、インゴットの質の判断基準は……まさかぶった斬ったことがあると言っても信じてくれまい……

「…なら、実際に見てみれば早い」

 腰に帯びている、日本刀《銀ノ月》を外し、インゴットが置いてある机の上に置く。
前にも言った通り、俺は日本刀《銀ノ月》の重さを全く強化しておらず、元々使ったインゴットもスピード系のために軽い。
重い剣好きのキリトの愛剣、エリュシデータとは違って他の人に持てないということは無い。

 日頃ハンマーを打つために筋力値を上げているだろう少女店主は、軽々と――むしろ拍子抜けしたように――手に持った。

「へぇ、どれどれ……うぐ」

 武器の軽さで判断したのか、勝利を確信した少女店主の笑みが引きつる。
……どうやら、俺の眼の見立て通り、こちらの日本刀《銀ノ月》の方が優秀であったようだが、若干悔しそうにしている少女店主を見ると……少しイタズラ心がわいてきた。

「で、どっちのインゴットの方が強かった?」


「ぐぬ……あんたのカタナの方が強かったわよっ!」

 机の上に日本刀《銀ノ月》を置くなり、いきなり自分の店の売り物であるインゴットをヤケクソ気味にアイテムストレージに入れ始めた。
少女店主のそんな様子が可笑しくて、笑いをこらえるのに必死になる。

「……ちょっと。なに笑ってんのよ」

 ジト目になってこちらを見る少女店主に、それは誤解だとばかりに首を振る。

「笑ってない笑ってない。……ククク」

「笑ってんじゃないのよ!」

 おっと、顔に出てたか。
もはや、隠す気も無く微笑を続ける俺を睨みつけ、少女店主はもう一度、机の上の日本刀《銀ノ月》を手に取った。
どうせ鑑定するなら最後まで見たいのか、それとも何か粗探しがしたいのか。

「固有名《銀ノ月》……うわっ。何よこの剣、本当にプレイヤーメイド……? 制作者の名前は……《ショウキ》……聞いたこと無いわね……」

「いや、それ俺だ」

 「へ?」と目を丸くしながら自身を指差す俺を見て、少女店主は俺が言わんとしていることを察したようだ。

「これ作ったの、あんたなの?」


「ああ。……と、言っても本職は鍛冶屋じゃないからな。いい加減強化とかが限界なんで、本職に頼みに来たわけだが……」

 ……駄目だったんだよなぁ、というイントネーションで言葉を切り、少女店主の悔しげな反応を見て楽しむ。

「それに固有名《銀ノ月》って事は、あんたが傭兵《銀ノ月》?」

 最後に銀ノ月を一瞥し、俺に手渡しで返してくる。
今の最前線の層は、第六十層。
中層~上層を主な活動場所としているため、47層にいる少女店主が俺のことを知っていてもおかしくない。

「ん、ああ。傭兵《銀ノ月》だ」

 武器の名前と二つ名が被っているから面倒なんだよな……全く、誰だ考えた奴。
手渡された日本刀《銀ノ月》を、いつも通りに腰に差す。

「じゃ、そんなわけで……」

「待ちなさい」

 立ち去ろうとした俺に、少女店主が控え目な声で微笑みながら呼び止める。
だけどおかしいな、何故少女店主から異様なオーラが見えるのだろう?

 ――例えるならば、この前倒した五五層のボスである、《ザ・ヘルバーナー》を前にした時の圧迫感に似たオーラが……!


「……本職の鍛冶屋じゃない奴が、私の手に負えない、最高傑作を超えてる物を作ってるなんて……!」

 フォースの暗黒面に取り込まれたかのように、負のオーラを増大させる少女店主を前にして、真剣に《縮地》で逃げることを考えたが、そこまでする必要はない。
普通に立ち去ろうとしたところ、俺の前に回り込みつつ、俺の顔の前に指を突きつけてきた。
――速い。

「言っておきますけどねぇ! 私に強化を任せてくれれば、なんでもスパスパ斬っちゃうカタナに強化出来るんだから!」

「……ほう」


 少女店主から負のオーラが四散し、明らかに無理をしている様子へと変わる。

「あっ! その目は信じてないわね……舐めないでよね、これでも鍛冶スキルはマスターしてるんですからね!」

 鍛冶スキルをマスター。
それはつまり、鍛冶スキルを最大値である1000まで上げきったということ……俺も鍛冶スキルを上げているから分かるのだが、鍛冶スキルを上げるにはかなりの時間と根性がいる。
どれだけスキル熟練度を上げても、最終的な結果は運任せ……スミスの気合いという説もあるが……なので、一級の鍛冶屋には時間・根性・運・(気合い)の三つ、あるいは四つのプレイヤースキルが必要だと言って良い。

 そして、俺の目の前にいる少女店主は、その見た目に反してこんな一等地に店を構え、あの《閃光》アスナにオススメされている。
間違いなく、一流と言っていい。

「……そうだな。じゃあ、この日本刀《銀ノ月》を必ず強化するってことで契約させてもらって良いか?」

 ニヤリと笑い、少女店主に依頼を告げる。
理由は、先程言った通りの理由と――何より、見ていて面白い。
ナイスな展開に、なりそうじゃないか……!

 俺の依頼を聞いた少女店主は少しキョトンとしていたものの、すぐに持ち直した。

「も、もちろんよ! 絶対ギャフンと言わせてやるんだから!」

 ギャフンなんて、今更言う奴いねぇよ……という突っ込みを飲み込み、少女店主の前に手を差し出した。

「さっきも言った気がするが、傭兵《銀ノ月》――ショウキだ。よろしく」

「リズベットよ。……とりあえず剣が出来るまで、よろしく」

 俺と少女店主……いや、リズベットは契約が完了したことを確認したように握手をした。
……まあ、握手にしてはちょっと痛いんだが。 
 

 
後書き
リズベット好きの自分としては、上手く書けてるかいつも以上に不安。

それと、今回リズは「鍛冶スキルをマスターした」と言っていますが、原作の6月にマスターしていないらしいので、これはただのやせ我慢です。

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