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優しい雄牛

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第一章


第一章

                     優しい雄牛
 プラシドは牧場で生まれました。皆生まれたばかりのプラシドを見てまずはこう言いました。
「うわ、大きいね」
「生まれたばかりなのにこんなに大きいなんて」
「これは立派だよ」
 皆そのプラシドを見て惚れ惚れとさえしています。
「これは多分ね」
「いい闘牛になるかな?」
「絶対なるよ」
 こうも話すのでした。生まれたばかりのプラシドを見て。
「じゃあ立派に育てよう」
「そうだね」
「立派な闘牛になってもらう為にね」
 皆彼を闘牛として育てるつもりでした。けれどプラシドは生まれたばかりでそんなことがわかる筈もありません。今はお母さんの傍にいるだけでした。
 そしてそれは大きくなってからもでした。お父さんやお母さん、牧場の皆の傍にいつもいて。他の牛達と喧嘩一つすることがありませんでした。
「プラシドはいつもいい子だよね」
「全くだよ」
「こんな大人しい娘知らないよ」
 牧場の牛達はそんなプラシドを見て話すのでした。
「身体はとても大きいのにな」
「喧嘩とか全然しないんだな」
「僕、そういうの嫌いだから」
 プラシド本人もこう皆に話すのでした。
「それよりもね」
「それよりも?」
「どうするの?」
「こうして皆と一緒にして」
 その大きな身体で皆に寄り添うのでした。
「それにお花を見て」
 そのうえで牧場の隅に咲いているお花を見るのでした。小さな赤いお花を見て。それで目を細めさせるのでした。
「ずっと暮らしていたいな、この牧場で」
「そうだよな。プラシドにはそれがいいよ」
「この牧場で皆とね」
「一緒にこうしていたいんだ」
 言いながらそのお花を見続けています。お花の傍に来てしゃがみ込んで。そのうえでお花を見続けるのでした。毎日こうして優しく大人しく暮らしているのでした。
 けれどその身体はとても立派で大きくて。人から見ると立派な闘牛でした。それで牧場の人達は立派な大きさになった彼を見て言い合いました。
「もういいかな」
「そうね。いいと思うわ」
「あんな立派な牛見たことないよ」
 家族全員でプラシドを見ながら話をするのでした。
「じゃあ闘牛に出そうか」
「ええ。それがいいと思うわ」
「プラシド、頑張れよ」 
 相変わらず牧場に咲いているお花をしゃがみ込んで見ているプラシドを見て言います。
「御前は立派な闘牛になれるからな」
「だからね。牧場とはもうお別れよ」
「マタドールと戦うんだよ」
 けれどプラシドはその話を全く聞いていませんでした。耳に入りませんでした。今彼は優しい目でお花を見続けています。そうしていつもと同じように暮らしていました。
 けれどこの日から暫くして彼が全然見たこともない人達が牧場にやって来て。それでプラシドに触りながら牧場の人達に対して言うのでした。
「いやあ、いい牛ですね」
「こんな立派な牛は見たことがないですよ」
「そうですか」
「はい」
 こう牧場の人達に答えるのでした。満面の笑顔で。
「身体は大きいし筋肉は見事だし」
「しかも骨もしっかりしていますね」
「こんな凄い牛は本当にはじめてですよ」
「それじゃあこれでいいですね」
「ええ、是非御願いします」
 その見たこともない人達は明るい顔で牧場の人達に答えました。
「この牛、売って下さい」
「どうか」
「わかりました。それじゃあ」
「プラシドを闘牛に使って下さい」
 こうしてプラシドは闘牛になることが決まりました。けれどこの時も彼は人間達の話を聞かずずっとお花を見続けていました。今度はその見知らぬ人達のうちの一人が胸にさしているその花を見ています。その黄色くて大きなとても目立つお花をです。
 
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