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暇にかまけて

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第七章


第七章

「それだけでな」
「だったらいいけれど。じゃあこの試合が終わったらね」
「寝るんだな」
「ビールばかり飲んだら駄目よ」
 くすりと笑って夫の顔を見て言う。
「コレステロール溜まりやすいから」
「じゃあ何を飲めばいいんだ?」
「ワインよ」
 それだというのである。
「ワインがいいのよ。身体にはね」
「そうか。じゃあ今度からそれにするか」
「それがいいわ。それじゃあね」
「ああ、寝るか」
 夫婦仲は円満であった。そうして彼女は次の日もその次の日もゲームに没頭してである。遂にはこんなことまでしたのである。
「サイトか」
「ええ、立ち上げたのよ」
 ネットで自分のサイトも持つようになったのである。
「それをね」
「御前がサイトをか」
「何か意外?」
「ああ、意外だな」
 そのことを実際に言う彼だった。この日も二人向かい合って夕食を食べている。コンサートの後で随分と遅い夕食になっているがそれでも二人一緒に食べている。今日は鶏のささみを焼いてそれとシーフードサラダである。玉葱と人参のスープもある。
「御前ネットはするけれど見ているだけだったよな」
「面白くなったからね」
「面白くなった?」
「そうなのよ。ゲームをしていくのが」
 そうだというのである。
「それにサイトを見て攻略していくじゃない」
「ああ」
「そういうサイトを見ていたら自分でも持ってみたくなったのよ」
「それでか」
「ええ、それでなのよ」
 こう夫に話すのである。ササミで御飯を食べながらである。
「それでね。私もね」
「それでどんなサイトなんだ?」
「ゲームの攻略サイトよ」
 それだという。
「私が今までクリアしたゲームの攻略について細かく書くサイトなのよ」
「勘然にゲーム用なんだな」
「ブログも掲示板も置いてね」
 そうしたものもというのである。
「それにね」
「それに?まだあるのか」
「後は改造コードについても載せるし」
「それもなのか」
「どうかしら、これで」
 ここまで話してあらためて夫に問う。
「いいと思うかしら」
「悪くないんじゃないか?」
 これが夫である航平の返答だった。
「それもな」
「そう。じゃあこのまま作っていくわね」
「無理さえしなかったらいいさ」
 彼がこのことについて妻に対して言うことはこれだけだった。
「それでな」
「そう。それだったらね」
「何か凄いことになったな」
 夫は自分の夕食を食べながらしみじみとした言葉を出した。
「本当にな」
「本当にって?」
「いや、ゲームをするだけじゃなくなってきたからな」
「そうね」
 そのことを言われて微笑む早紀だった。確かにその通りである。
「それはね。本当にね」
「サイトもか。何かどんどん凄くなっていくな」
「今じゃ完全に生活の一部よ」
「暇潰しにってはじめたのがな」
「サイトも凄いものにしていくわよ」
 意気あがる調子で言う彼女だった。
「もうね。やるからにはね」
「ああ、頑張れ」
 その妻に対してエールを送る。
「そのサイト俺も見させてもらうからな」
「そうして。それじゃあね」
「ああ」
「これからも。ゲームしていくわよ」
 早紀は夫に対して満面の笑みで言う。彼女が開いたサイトはそのゲームの種類の多さと攻略の細かさ、それにその充実ぶりで評判となった。彼女は暇ではなくなった。それは生活にも出ていて夫との関係もさらにいいものになった。早紀にとっては何もかもがいいことになっていったのである。ゲームをすることによって。


暇にかまけて   完


               2010・1・21
 
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