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暇にかまけて

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第一章


第一章

                      暇にかまけて
 優木早紀は結婚して数年経つ。二十歳で結婚して今は五年経つ。つまり二十五歳である。
 女の盛りであり彼女自身かなりの美人である。吊り目でありその目ははっきりとしている。眉は細く見事に上を向いている。口元も引き締まっていて鼻も高い。背は一六〇程度でそれ程高くはないがすらりとしている。黒いロングヘアである。しかし彼女はその女盛りの状況をもてあましていた。
「暇よ」
 夫の航平に対しても言う。
「正直暇よ」
「だからパートに出てるんじゃないのか?」
 夫は夜ビールを飲みながら妻に返す。もう夕食も片付けも終わってそれで一息というわけだ。なお彼の職業はバイオリニストである。アーモンドに似た形のはっきりとした光を放つ目に薄い眉、髪は黒である。それを伸ばしている。そして口はいつも自信ありげな微笑みをたたえている。
「それで」
「ああ、それね」
 夫の言葉に思い出したようにして返す。
「ピアノの先生ね」
「それがパートって言えるのかどうか俺は知らないがな」
「やってるわよ」
 それはちゃんとしているというのである。実は彼女も夫と同じで音楽センスがある。二人共音楽大学を出ている。夫はオーケストラに入り妻はピアノの先生なのである。
「ちゃんとね」
「じゃあ暇じゃないだろ」
「それでも暇なのよ」
 しかし彼女はふてくされた顔でこう返すのだった。立派なマンションの中でこう言ってふてくれさる様子はあまり絵にはなっていなかった。
「最近不況でしょ」
「あの何もしない財務大臣は辞めたけれどな」
「内閣自体が駄目だけれどね」
 何気に今の政権の批判もする。
「鳩だか何だか知らないけれど」
「どう見ても胡散臭い奴だしな」
「能力なんてないのはわかってるわ」
 それはもう言うまでもないという。
「けれどね。今はね」
「そういう問題じゃないんだな」
「そうよ。元々不況だし」
「あの内閣がどうしようもなくそれを悪化させているけれどな」
「まあそのせいではあるのよ」
 話はいささか矛盾していた。早紀がそうさせていた。ふてくされて何かに八つ当たりしている感じであった。そうした言葉ではあった。
「とにかくね。不況でね」
「生徒が減ったか」
「そうなのよ。それで暇なのよ」
「じゃあ他のパートもしてみたらどうだ?」
 航平は何となく妻に述べた。
「ピアノでな」
「あるかしら」
「探せばあるだろ」
 ビールを飲みながら素っ気無く話す。
「ピアノの調整とかな」
「あったらいいけれど」
「それか趣味を作ったらどうだ?」 
 今度はこんなことを言ってきた。
「何かな」
「趣味?」
「そうだよ。何かあるだろ」
「じゃあ家で一人でできるのがいいわね」
 早紀は少し考えながら述べた。夫と向かい合ってソファーに座って話すがビールは飲んでいない。彼女は酒は飲まないのである。
「それだと」
「そうだな。ゲームでもしてみたらどうだ?」
「ゲーム?」
「プレイステーションとかウィルとかな」
 そういったものを進めるのだった。
「そういうのはどうだ?」
「ゲームね」
「まず一人でもできる」
 彼は最初にこのポイントを言った。
 
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