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兵隊の集め方

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第三章


第三章

「金で雇われていますから相手にそれより多額の報酬を提示されれば」
「それに惹かれて向こうにつくこともか」
「過去幾らでもあったことです」
 今度は歴史から話されることであった。
「カルタゴもそれでローマに破れているではありませんか」
「カルタゴか」
「はい、カルタゴです」
 かつて海運貿易で発展した都市国家である。ローマと激しい戦いを三度に渡って繰り広げその結果滅亡した。それは歴史にある通りである。
「あの国はヌミディア人の傭兵を使っていましたが」
「その彼等をローマに買収されてだな」
「そうです」 
 そうして彼等も敵に回してだ。結果としてそれでローマに敗れたのである。
「ですから。傭兵は」
「駄目か」
「おまけに軍律も悪いです」
 大臣はこのことも話した。
「外国人部隊にも言えることですが」
「軍律か」
「三十年戦争では特に酷かったですが」
 大臣はまた歴史のことを話した。
「その時傭兵達はドイツ中で暴れ回り略奪に虐殺を繰り返しました」
「冗談ではないぞ」
 首相は真剣な顔で返した。政治家としての顔である。
「そんな奴等だと普通に基地にいても何をするかわからんぞ」
「そうです。ですから傭兵も駄目です」
「ううむ、両方駄目か」
 外国人部隊と傭兵はこれで没になった。しかしそれでも兵士は必要だ。それで首相は古典的なある方法を考え出したのであった。
「それでは」
「何をされるのですか?」
「徴兵制にするか」
 彼が出したのはこれであった。
「徴兵制を導入するか」
「徴兵制ですか」
「これはどうかな」
「そうですな」
 大臣はそれを聞いてだった。まずは腕を組んだ。そのうえで言うのだった。
「今我が国は志願制ですが」
「しかし徴兵制にすれば一定の兵士を確保できる」
 彼は言った。徴兵制のメリットは彼もよくわかっているのだった。だからこそここで徴兵制を大臣に対して話したのである。そういうことなのだ。
「これはどうかな」
「議会で言ってみますか」
 まずはそうしようかと言う大臣だった。
「いえ、その前に閣議で」
「そうだな。私が主催する閣議でだ」
 王の前での御前会議ではない。彼が開く閣議において話すというのである。
 その話においてである。彼は実際にこの徴兵制を提案した。するとだった。
「それはどうかと」
「駄目だと思います」
 閣僚達は難しい顔をして異議を呈してきたのであった。
「徴兵制をすれば国民が反発します」
「支持率にも悪影響が出ます」
「支持率にか」
 それを聞いた首相の顔が青くなった。政治家にとって支持率とはまさに命である。それが落ちては政治家にとって死ぬのに等しいからだ。
 だからこそ首相の顔が青くなった。そうしてその中で言うのであった。
「それはまずいな」
「はい、まずいです」
「それにです」
「それに?」
「徴兵されるのは若い人材ですが」
 これは絶対にである。兵士は若い人材がなるものだ。若いとそれだけ頑健でよく動けるからである。その確保の為の徴兵制である。しかしなのだ。
「その人材を持って行かれると」
「産業にも影響が出ます」
「産業にか。では駄目だな」
 それに影響が出ては話にもならない。そういうことだった。
 
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