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東方攻勢録

作者:ユーミー
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最終章前半
  第一話

 あれから二日後、衣玖の言った通り最終決戦の作戦会議が行われた。
「まずは天界の状況からね。基地はどのような感じになっているのかしら?」
「そうね……あまり中を移動していないから分からないけど、確か中央には大きな塔みたいになった建物があるわ。その周辺は三階建の建物がならんでたわね……」
 天子の話を簡潔にまとめると、どうやら中心にある塔が一番重要な建物らしい。その周辺にある建物のほとんどは、捕まえた捕虜たちを収容する施設と武器を保管する保管庫になっており、天子達も普段はそこに収容されていたそうだ。脱走を図った際には塔の中に入っているが、十階ほどある建物内をすべて見た訳ではないらしく、せいぜい三階までしか覚えていないと言っている。
「つまり塔に入る組とそれ以外の建物をまわる組が必要ね……」
「どうしますか? あまり時間をかけすぎると、捕虜に危害が加わる可能性も……」
 妖夢の言うとおり、捕虜を人質にとられる可能性も少なくはない。そなってしまえば確実に手出しができなくなるだろう。だからと言って捕虜の解放だけに時間をかけてしまえば、上条達を逃してしまう可能性も高くなる。
 しかし問題はそれだけではない。
「あとは能力持ちだな……おそらく最後の戦いでは牧野さんと宮下さんも敵としてくるだろうし、それ以外にも能力持ちはいる。戦力を分散するのも気をつけないと……」
 革命軍が保持している能力もちの兵士の数も分からない今、へたに戦力を分けてしまえばどうなるかわからない。特に宮下の能力は幽香や紫を苦しめたこともある。一筋縄ではいきそうにない。
 それ以外にも宮下が言っていたタイプCのチップも脅威になるだろう。おそらく脱走に失敗した人達が、それをつけて目の前に現れるのも避けられそうにない。内部工作さえできれば無力化できるかもしれないが、情報が少ない今リスクが大きすぎる。
 これと言った良い案が出ないまま、時間だけが過ぎて行った。
「……どうせだったら、徐々に制圧した方がいいんじゃないか?」
 そう提案したのは俊司だった。
「でも、そんなことして逃げられたら――」
「逃げられたところで有利不利は変わらないだろ? 捕虜を解放すれば、あいつらに盾として使われる心配もなくなる。へたに捕虜を人質に捕られて捕まるよりもマシだ」
「……それもそうね」
「決まりだな。日時は明後日にしよう。各自準備があると思うし……俺も少しやっておきたいことがあるし」
「やっておきたいこと?」
「ちょっとしたことだよ」
 そう言ったものの、俊司は一人真剣な顔つきをしていた。
 その後とりあえず解散することになり、各自部屋へと戻っていく。そんな中、俊司は文と鈴仙・にとりの三人を別室に呼びだしていた。
「話しとは何でしょうか」
「ああ、ちょっと頼みごとでさ」
 俊司は持っていた手帳に何かを書き込むと、そこから三ページ分切り取って文に手渡した。
「文、これをある人達に届けてほしい」
「これ……ああ、そういうことですか。分かりました。すぐに届けてきます」
 文はそれだけ言い残すと、足早に部屋を去って行った。
「それでだ……鈴仙とにとりには別の頼みごとがあるんだ」
「別の……頼みごと?」
「ああ……俺達よりも先にでて、内部工作をしてきてほしい」
「ふっ……二人でですか!?」
 驚きを隠せない二人に俊司はそうだと返す。確かに鈴仙は能力で敵の目を欺く事が出来るし、にとりは機械をハッキングするなどして内部工作をするのは容易い。だがどう考えてもリスクが高すぎる。
「いくらなんでも……二人はきついと思うなぁ」
「それは俺も分かってる、だから助っ人も頼んでるよ」
「助っ人……ですか?」
「ああ。当日になればわかるよ。それで内部工作の内容なんだけど、とりあえず俺達が突入できるチャンスを作ること。あと、捕虜を捕えてる施設の数を数えてほしいんだ」
 俊司は今言った内容を書いたメモを手渡す。その後具体的な工作の例を伝えて、作戦を細かく決めていった。
「じゃあこれでよろしく」
「わかりました。ですが皆さんに伝えなくても良いのですか?」
「あとで伝えておく……というかもう聞いてるだろうな」
 そう言って俊司が溜息をついた瞬間、彼の背後に見覚えのあるスキマが現れた。中から出てきたのはもちろん彼女だ。
「まったく……あの場で話せばいいじゃない」
「まあいいだろ紫。とりあえず今言った通りだ。どうせみんなにも聞こえるようにしてたんだろ?」
「あたりまえよ……別に異論はないわ。それで行きましょう」
「ああ、よろしく頼む」
 俊司はそう言った後、自室へと帰っていった。

「さて……どうしようか」
 自室に戻ってくるなり机の上にあるカードを出した俊司は、かれこれ二十分ほどカードとにらめっこをしていた。
 地霊殿を出る際に白紙のスペルカードを二枚受け取っていた俊司だが、一枚だけ白紙のまま使っていないカードがあった。最終決戦に向けてカードの中身を決めようとしていたのだが、これというスペルカードが思い浮かばず頭を悩ませている。それに衣玖に言われた通り、得体のしれないスペルカードを作ることもできない。自分の身を余計に傷つけるだけだ。
「うーん……だめだ」
 その場で横になり、今度は天井とにらめっこを始める俊司。なにもしゃべず時間だけが過ぎていた。
(悩み過ぎだぞ少年。老けるぞ)
「うわっ!?」
 急に聞き覚えのある声が頭の中を駆け巡る。思わず飛び起きた俊司は、膝を思いっきり机にぶつけていた。
「いって……急すぎるよあんたはいつも……」
(毎度のことだろう……で、何か思いついたか)
「思いつくわけないですよ……」
(やれやれ……仕方あるまい)
「何を言って……え?」
 机の上に置いていた白紙のスペルカードは、急に緑色の光を発し始めていた。別に俊司が何か思いついてカードに内容を込めている訳ではない。それに俊司の場合だと青白い光を放つだろう。
 やがて光が静まったかとおもうと、スペルカードは白紙ではなくなっていた。どうやら声の主が勝手につくったのだろう。手にとって確認してみると、そこには『確率変動』と書かれていた。
「確率変動……」
(我の力を少し貸してやろう。それを使えば物事の成功率などを操ることができる。ただし一日一回という制限つきだがな)
「一日一回……」
(使い方に気をつけろ。そのカードは有利不利を一気に変えることができる切り札のようなものだ。いいな?)
「わかった……ありがとう」
 俊司が礼を返した後、例の声は聞こえてくることはなかった。
 しばらく無言のままカードを見ていた俊司だったが、軽く溜息をついた後、懐にカードをしまってその場に転がり込む。
「最終決戦……勝ては幻想郷はもとに戻るはず。その時俺は……」
 小声でそんなことを呟きながら、俊司は静かに眠りにつくのだった。
 
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