少年と女神の物語
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第九十九話
前書き
注意
今回の話からしばらくの間、作者による神話に対する独自解釈が含まれてきます。
宣言した瞬間に、大量の神獣が・・・水死体同然の神獣が現れた。
そして、それと同時に大量の流動体の矢が・・・
「フルバースト!」
すぐ後ろでリズ姉がそう言いながら両手を打ち、リズ姉が使える攻撃系の術が全て発動。そのまま矢を撃ち落とした。
「・・・この加護、一体どれだけのものなんだ?神相手の攻撃を防ぎきったぞ」
「多分、お互いの信頼度で変わってきてるんだと思う」
「なるほど、どうりで強いわけだ」
納得した様子のリズ姉はその場に座り、色々な道具を召喚しながら術式を編んでいく。
そして、再び放たれた流動体の矢を、リズ姉は再び撃ち落とす。
「私がここに残ってサポートをする。よく分からん矢については任せろ」
「なら、私もここかな~。相手がヒルコなら、私はサポートに回った方がよさそうだし!」
確かに、ビアンカの言うとおりだ。
相手がヒルコである以上、その方が圧倒的に助かる。
「んじゃ、残りのメンバーで行きますか!」
そう言ってから走り出すと、リズ姉とビアンカ以外も一緒に走りだす。
その間にも流動体の矢は飛んできたが、全て撃ち落とされるか運良く外れる。
かなり水面が揺れるが、それでもどうにか走り・・・今度は、次々と神獣が向かってくる。が、止まることなく走りぬけようとする。
段取りは、全体でうまいこといける。
「御巫の八神よ。和合の鎮めに応えて、静謐を顕し給え・・・!」
まず、立夏が四体を『御霊鎮めの法』で抑え、そのまま相手をする。
「科戸の風の天の八重雲を吹き放つ事の如く、朝の御霧夕の御霧を朝風夕風の如き拂う事の如く!」
氷柱がそう詠いながら神楽鈴を鳴らすと、風が吹き荒れて神獣を吹き飛ばし、それを氷柱が飛翔の術で追っていく。
そして、向かってきた神獣が一旦消えたことで油断したすきに何人かが流動体で包まれ・・・林姉が、それを全て救い出す。
「そのまま行って!」
「OK。林姉も気をつけて!」
林姉がその場に残って魚の水死体の神獣の相手をしているが、どうしようもないので走る。
そして、揺れる水面をオオナマズの権能で揺らしなおして相殺し・・・運悪く現れた津波が、しかし運よく神獣を盾にして消える。
「ほう・・・」
「やっぱり、何回か会った不運はお前の仕業か、ヒルコ」
感心したような声を上げるヒルコにそう言いながら、俺とアテ、ナーシャの三人・・・人間でない三人だけが止まる。
そして、各々が神獣に向かっていくのを見ながら、口を動かす。
「お前は骨のない、とても奇妙な姿をした神であり、同時に海へと捨てられることで海へと深いかかわりを持つようになった神だ」
「よいのか、神殺し。オマエの家族がオレの神獣と戦っているぞ?」
「なめんなよ。うちの家族が、お前の神獣程度にやられるわけねえだろ」
事実、皆は神獣を複数相手にしながらも圧倒している。
加護の力もあるだろうけど、元々才能がある人の集まり。
数を出している神獣相手に、そこまでの苦戦をする要素はない。
「・・・そして、海に関わりの深い神であるお前は、ある二柱の海の神の信仰を取り入れた。その一柱は、コトシロヌシ。託宣の神であり、海で釣りをしている姿で親しまれた存在だ」
とはいえ、この神とのつながりはとても薄い。
ただ海にいる、というだけで同一視されてしまったのだから。
だが・・・
「狂乱せよ!」
「唸れ、ウコンバサラ!」
と、そのタイミングで攻撃されていたが、アテとナーシャの二人が全て撃ち落としてくれる。
「そして、もう一柱の神はコトシロヌシよりもつながりの深い神だ。その名はエビス。七福神の一つにも数えられる神だ。俺達に対して放たれた不運は、この権能だな?」
「うむ、我が名の一つより得られた権能である!」
うん、予想通りだった。
そして、なぜ幸運を司る神が相手に不幸を与えることができているのか。
「幸運を司る者は、同時に不幸を司る。幸運と不幸の絶対量が決まっているという考えからできたもの。日本にも様々な形で存在する考えだ」
「そう、オレはその力で不幸を与えたのだ!」
「そして、それはビアンカが俺たちに与えてくれる幸運でかき消された。運勢に対抗できるのは運勢だけだからな」
日本において幸運を司る者が同時に不幸を司る例として一番有名なものは、座敷童子だろう。
座敷童子。これは日本でもかなり有名な妖怪で、家の守護霊的存在であり、その姿を見れたなら幸運が待っているという。
だがしかし、この妖怪は同時に貧乏神の化身、死神の化身としての属性も持つ。
このように、幸運を与える存在は同時に不幸を与える存在ともなるのだ。
「だからこそ、お前は俺達に不幸を与えることができた。では、なぜヒルコはエビスと深いつながりを持つようになったのか。それは、エビスという神の信仰にある」
そう言っている間も、二人が俺を守護する。
悪いとは思うけど、それでも必要なので頑張ってもらおう。
「そもそも、エビスの信仰は日本の沿岸部で、未知の彼方からやってきた漂流物を祀ることで生まれた信仰だ。福神漬け、これが元々は浜辺で拾い集めた様々な具材をまとめて漬け込んだものであったことからも、漂流物が福の神としての信仰を受けていたことは明らか」
と、そこで久しぶりに俺は槍を振るい、飛んできた流動体の矢を打ち落とす。
「そして、漂流物の中でも最も大きな衝撃を与えるのが、水死体。異形なまでに変形した死体は人々にこの世のものではない印象を与え、最も強く副神として・・・エビスの化身としてまつられた。ここで、水死体同然の姿をしているヒルコと混同されるのは、自然な流れだ!」
「いかにも!オレが最も嫌う忌むべき姿は、オレに力を与えた!全く、皮肉なものよな!」
だが、とヒルコは続ける。
「それがどうしたのだ、神殺しよ!オレの経歴を解いたところで、俺を殺すことは出来ぬぞ!」
「ああ、俺は護堂とは違うから無理だろうな。だが、気を引くことくらいはできるんじゃないか?」
「むう?」
さて、配置につけることも出来たし。
「わが内にありしは天空の雷撃。社会を守る、秩序の一撃である!今ここに、我が身に宿れ!」
掌を前に向け、雷を放つ。
とうぜんながら、ヒルコは流動体を使って簡単に防ぐが・・・
「ぬう!?」
背後からの攻撃で、一気にドームの形がゆがむ。
「神殺し、一体何を・・・」
「俺がゼウスから簒奪した権能。この中には、ゼウスの雷を届ける役目を担うペガサスもいてな。そいつに任せたんだよ」
そう言っていると、ヒルコの背後からペガサスが駆けてくる。
駆けてきたペガサスにそのまま他の家族のサポートを命じながら、超高出力の雷を喰らったことで形がなかなか定まらないすきに三人で走る。
「小賢しい真似をしてくれたな!」
「ああ、小賢しいさ!だが、それも戦術だろう!」
「いかにも!オレも少々小賢しい手を使うとしようか!」
そうヒルコが言った瞬間に、海面を割って巨大なクジラの水死体が現れた。
クジラ。水死体の中でも、かなりトップクラスの信仰を受けた存在。
これまでの神獣とは比べ物にならない強さを誇るであろうそれを・・・空から降ってきた二人の人間が、再び海の中に押し戻した。
「今の状況は!?」
「ナーシャは助け出した。後は、ヒルコを殺すだけだ」
「うん、よかったわ。ナーシャちゃんが無事で」
俺はたった今登場した二人・・・父さんと母さんの背に触れ、芝右衛門狸の権能とゼウスの加護を流し込む。
「じゃあ、そのクジラは任せた」
「ああ、こいつは俺達が引き受けた」
「だから、三人はあっちをお願いね?」
「おう!」
「「はい!」」
そして、そのままクジラを二人に任せて走る。
あと、少し・・・!
「っ、武双!」
「悪いアテ、任せた!」
と、そのタイミングでクジラと同じくらいの信仰を受けていた水死体、サメの水死体の神獣が現れた。
完全に肉食の相手。それをアテに任せ、俺とナーシャはサメを踏み台にして飛びあがり・・・そこで、大量の神獣が現れた。
「これでどうだ、神殺し!オレの元までたどり着けるか!」
「この、小賢しい手を・・・」
「いや、最初につかったのは武双君だからな?」
ごもっともである。
さて、とはいえどうしたものか・・・
「行くぞ、武双君」
「は・・・?って、ちょい待て」
「待たない!」
と、ナーシャはそのままウコンバサラを振りかぶったので、俺は聖槍を構えながら足をウコンバサラの方に向けて、
「いってきたまえ!」
「やっぱそうなんだよな!」
思いっきり打ちつけられるのに合わせてウコンバサラを蹴り、一気に跳ばされる。
「ハッハッハ!面白い手を使うな、神殺しよ!」
「使ったんじゃなく、使わされたんだよ!聖槍よ、孕みし狂気を解放せよ!」
そうして神獣の間を紙一重で超え、ドームに聖槍を突き付けて中への侵入を果たした。
後書き
読者の皆さんにご質問でございます。
ある読者の方から『クトゥルフ神話で書いてほしい』というリクエストがありました。
自分としては書きたいのですが、どうにもクトゥルフ神話についての知識が足りません。そもそも、神話として定義していいのかからの問題でございます。知識がなさすぎますね、本当に。
そういうわけですので、ご意見をいただきたいです。
内容としては、今回、クトゥルフ神話を神話として、その神を殺す話を書いてもいいかどうか、です。
どうぞ、よろしくお願いします。
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