道を外した陰陽師
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第三十一話
で、今の状態になっているわけだ。
「ラッちゃん、せめて耳と尻尾は戻せない?」
「・・・多分、もう大丈夫」
そう言うと、これまで出ていた耳と尻尾が消えた。
「はぁ・・・ったく、そんなになるならやらなければよかったのに」
「うっさい、バカ」
そう言ってから一つため息をつくと、ラッちゃんは完全に元に戻っていた。
「それより、何でカズは反応薄いのよ」
「そう見えるんなら、隠せてはいるんだな内心では多分、ラッちゃんと大差ねえよ」
「そう・・・ならいいわ」
「何がだよ。・・・ってか、ラッちゃんは本当に変わってないよな」
軽く腕をつねられたが、まあ気にしないで話を続ける。
「こう・・・やってる最中も恥ずかしいのにやめないで、終わってからむちゃくちゃ恥ずかしがるところとか」
「色々思い出しちゃうから、それ以上は言わないで」
思い出させて弄る予定だったんだけど、先に言われたら仕方ない。
自然教室でのこととか、色々と作っておいた弾を撃つのはやめておくとしよう。
「それを言い出したら、あんただって色々とやらかしてることで有名だったじゃない。何か一つくらいこっちにもネタが・・・」
「そこまでのネタがないことくらい、ラッちゃんが一番知ってるんじゃないか?」
俺がやらかしたことと言えば、まあ色々とあるし、そのたびに教師からの呼び出しを喰らっていた。
たとえば、小学一年の時に蜂の巣を遊び半分で刺激したり(「お前がどうにかできるのか!」と言われたので、その巣の蜂を含めた校内の蜂全てを一人で駆除した)。
暇つぶしにピッキングして屋上に入ったり(俺がそれをやるたびに屋上のカギが変わり、大体一年に五回は変わった)。
修学旅行中に妖怪退治に向かったり(さすが京都、それなりに強いのがそれなりにいた)。
まあ、俺が色々と呼び出されていた件については、せいぜいそんなもんだ。
「・・・・・・うん、あんまりだった」
「だろ?俺はそんなもんなんだって」
「何でこんなやつがモテたのか・・・理解に苦しむわ」
「あれは・・・そう言うのじゃないだろ。ただ珍しかっただけじゃないか?」
鬼道が名門だった、ってのも間違いなく要因の一つだろうし。
そう言ったら、明らかにあきれた表情をとられた。
「あんたねえ・・・自分が何をしてたのか、覚えてる?」
「毎日面白おかしく、やりたい放題に暮らしてた」
「いや、確かにそればっかりだったけど・・・」
他のことは・・・特になかった気がする。
あの頃は今みたいに色々と面倒に縛られてたわけでもないし、それはもう自由に過ごしてたんだけど・・・
「それでも、何人助けたのかとか覚えてない?」
「あー・・・それは、結果的にそうなった、ってだけなんだけど」
「助けられた側としては、そんなことは関係ないのよ。ただ、自分がピンチだった時に助けられた。それしか分かってないんだから」
そんなもんなのかねぇ・・・
まあ、だとしてもそれは。
「それは、憧れとか感謝とかを勘違いしただけだろ。少なくとも、長く付き合えば俺がそんな人間じゃないことくらいは分かるだろうし」
「そうね。アンタは基本、自分が気に入らない物を叩き潰すか、気まぐれで動くことだらけだもの」
さすがは幼馴染。よく分かっていらっしゃる。
「それと、アンタと深く付き合ってれば分かってくることはもう一つあるわ」
「そんなもんがあるのか。自覚すらしてなかった」
他に何かあるのかね?
俺の人間性なんて、問題児の一言で済むものだと思うんだけど。
「自覚がないのは分かってたけど、アンタは優しいのよ」
「・・・それ、どこまでも俺に似合わなくないか?」
少なくとも、優しい人間は気に入らない、というだけで人に攻撃しないし、殺しもしない。
だが、俺はその辺りが容赦なく出来てしまうんだよな・・・
「身内に、っていう限定がつくけどね」
「身内・・・?」
「ええ、身内。アンタが身近なヒトって認識してる相手には、どこまでも優しいわ」
「それこそ、過大評価じゃないか?」
「じゃあ、質問。もしもあたしだとか土御門さん、雪姫さんが危険な状態でアンタが命をかけないと助けられないとしたら?」
「命をかける」
無意識のうちにこたえていた。
「アンタはそれを本当にやれるから、身内には優しいのよ。助けられれば、後のことは考えないし」
「・・・反論したいが、いくつか実例を思い出したから何も言えない」
最近なら、命の危機ではなかったが何回か無茶してるし。
昔なら、まだあれをうまく使えなかったから何回か死にかけたこともあったなぁ・・・死ななかったけど。なんだかんだ、しぶとく生き残ってるなぁ・・・
「あ、そうだ。ずっと聞きたかったこと聞いてもいい?」
と、ゲームセンターに入ったところでラッちゃんに言われた。
すぐそばにあったアニメグッズのクレーンゲームに百円を投入しながら、「何だ?」と返事をする。
「アンタ、あの二人とはどういう経緯で知り合ったの?」
「どういう経緯、か・・・」
一発ででかいのを一個とりながら、もう考え慣れた返事を返す。
「まず雪姫は、俺と同じやつ・・・光也を後見人にしてる関係で、だな。さすがにあいつに汚い仕事を任せるつもりはないみたいで、俺の秘書をするってことで色々と援助を受けれてるんだ」
「ああ・・・そう言うこと。それで、アンタが自由にしていられるのは?」
「そこに、あいつが関わってくるんだよ」
実名を出しても面倒になりかねないので、そこはぼかすことにした。
「俺は、あいつのパートナー兼監視役兼護衛役をするって条件で自由にさせてもらってる」
「監視役兼護衛役って・・・」
「アイツの立場は、結構微妙な感じだからなぁ・・・本来なら、家柄も何にも関係なく、優遇されないといけない立場なのに」
家のごたごたが原因で、光也はに常々監視をつけるようにと土御門家から圧力がかかっていた。
ついでに、光也としても護衛が欲しかったことと、新しいイレギュラーな席組みの近くに一人置いておきたかったので、俺をあてがった、というわけだ。
「とまあ、知り合った経緯はそんな感じだよ。上の方でおきた面倒事を都合のいいガキに押し付けた、ってわけだ」
「ふぅん・・・なんだか大変なのね」
「本来なら、そんな思いはしなくていいはずなんだけどな。少なくともアイツは。・・・よし、これで全部」
今いるクレーンゲームの中身合計十個を、一回百円で千円を使って手に入れた。
次のをどれにしようか悩んでいたらラッちゃんからリクエストが入ったので、言われた物をとる。
「ずいぶん器用ね」
「そうでもない。・・・ちょっとズルしてるしな」
「・・・?あ、まさか・・・」
「あ、念のために言っておくと能力使ってるわけじゃないぞ」
そう言ってから、次のクレーンに移動する。
「じゃあ、何してるのよ?」
「機械のシステムに侵入して、規定値以下のクレーンの力のしかないやつを元に戻してる」
「・・・これ、規定値なんてあるんだ」
「正確には、中にある物をとれるはずもないやつ、だけどな。最低限そこまで上げれば、後は俺の方でどうとでもなる」
そう言いながら、また次の物をとる。
懐かしいなー・・・昔はよくこうしてクレーンの中身を総取りして、
「すいません、お客様・・・」
店長が、申し訳なさそうに出てきたもんだ。
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