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久遠の神話

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第百八話 最後の戦いその七

「是非な」
「僕とはそこが違いますね」
「君は闘いは、だな」
「僕の剣道は活人剣ですから」
 それ故にというのだ。
「そうしたことは」
「興味がないか」
「そうです、本当に」
「ならいい、俺は俺で楽しむ」
 つまりだ、自分だけで舞うというのだ。
「そうさせてもらう」
「けれどもう」
「ああ、俺も君もな」
「二人共、ですね」
「そろそろ限界だな」
 力が尽きる、そうなるというのだ。
「お互い全力で闘っているからな」
「では」
「そろそろな」
「はい、決めましょう」
「この一撃でだ」
 加藤は剣を構えた、全身にこれまでより遥かに強い魔が宿った。そして上城もそれは同じだった。
 その全身に水の気を放つ、そうしてそれぞれ。
 正面から一撃を繰り出した、一見するとどちらもただの剣擊だ。
 しかしそこにあるものは違っていた、どちらも一撃でどの様な怪物も、それこそ神々ですら倒せる一撃だった。その一撃を。
 二人は同時に放った、上城は無心で。
 しかし加藤は微かに、ほんの微かにではあった。
 この闘いを終わらせたくはないと心の何処かで思った、確かに。
 それは彼とても気付かないものだった、無意識の中でほんの少しだけ思ったことだ。闘いを楽しみたいという彼のその考えである。
 しかしそのほんの僅かなものがだった、影響した。
 加藤の技に一毛でも加わった、九割九分九厘九毛、いやそれよりもさらに二つ程小さな桁であってもだ。
 技に影響した、無心で完全に力を出した上城に対して出した技に。
 それでだった、その僅かな差が。
 激突した二つの力に影響した、水と魔は最初は拮抗していた。
 だが次第にだ、上城の水が押して。
 加藤jは吹き飛ばされた、それでだった。
 最後に立っているのは上城だった、上城は技を放ってから宙に浮かんだまま言った。
「勝った、のかな」
「はい」
 その彼にだ、声が告げた。
「貴方は今です」
「勝ったんですね」
「確かに」
「加藤さんは」
 その相手のこともだ、彼は声に尋ねた。
「ご無事ですか?」
「ああ、この通りな」
 その本人の声がしてきた、下からだ。
 見れば加藤はそこにいた、グラウンドに降りていた。それも無事着地していた。
「負けた、しかしな」
「ご無事なんですね」
「この通りな、着地出来た」
「そうですか、よかったです」
「俺は敵だったがな」
「敵だったにしても」
 それでもと言う上城だった。
「ご無事なら何よりです」
「そうか、それが君だったな」
「はい、本当によかったです」
「俺は闘いに負けた」
 ここでは素っ気なく言った加藤だった。
「それならだ」
「それなら、ですか」
「もう俺はこの戦いから降りる」
 剣士の戦い、それからだというのだ。
「最早な」
「そうされますか」
「ではだ」
 それではと言ってだ、そしてだ。
 加藤はだ、剣を己の足元に置いて。
 戦いから降りることを宣言した、それと共に剣が消えて。 
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