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河童

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第二章


第二章

「それは」
「だから余計にだ。そうなったら大変だぞ」
「だからお池には」
「絶対に行くんじゃない」
 父の言葉がさらに強いものになった。
「まあどうしてもというのなら」
「どうしてもなら?」
「犬を連れて行くんだな」
 ここでこんなことを言うのだった。
「犬をな」
「犬を?」
「河童は犬が大嫌いなんだ」
「そうだったの」
「他には猿も嫌いなんだがな」
 これも民話にある通りである。河童は案外嫌いな生き物が多いのだ。
「だからどうしてもという時はな」
「犬をなの」
「連れて行くといい」
 父の声は確かなものになった。それは冷静なものだった。
「わかったな」
「わかったわ。それじゃあ」
「どうしてもというのなら泳げるようになって犬を連れて行くんだ。いいな」
 父のこの言葉は彼女の心に強く残ることになった。そうしてそのうえで彼女は大きくなった。彼女は泳ぎを覚えた。その時にはかなり苦労した。
 まずはスイミングスクールに行きたいと。母に話した。
「あんた泳げないのに?」
「泳げないからなのよ」
 だからだというのである。
「それでね」
「泳げる為に、なのね」
「駄目かな、それじゃあ」
 ここまで話して母に尋ねた。
「泳げるようになりたいけれど」
「それはいいけれど」
 母は少し考えてから娘に答えた。
「けれど。また急に」
「どうしたの?」
「あんたがねえ」 
 娘を見ながら首を傾げるのだった。
「急にそんなことを言うなんて」
 こう言ってまた首を傾げるのだった。左から右に。まるでメトロノームである。
「まあいいわ」
「いいの」
「できないことをできるように努力するのはいいことよ」
 それはいいというのである。
「それはね」
「それじゃあ」
「いいわ。それでね」
 ここでにこりと笑って娘に話した。
「じゃあ頑張りなさい。いいわね」
「うん。有り難う、お母さん」
 彼女はこうしてスイミングスクールに入ることになった。しかし最初はやはり。かなり苦労したものである。
 浮きものを付けてビート板を持って。そのうえでばた足からであった。
「そうよ、その調子よ」
 彼女についている先生がプールの中から彼女に言う。区切られたコーナーのそれぞれで子供達が泳いでいる。プールは五十メートルで天井は白で下は水色だ。プールの中もである。
「このままね。邑子ちゃん」
「は、はい」
 実際泳いでみるとかなりしんどかった。何しろ泳げないのにいきなりこうしてばた足だからだ。
 それを毎日やっているとだった。自然にばた足はビート板なしでできるようになった。
 先生はここで。彼女に言った。
「それじゃあ今度はね」
「今度は?」
「浮きものを外すようにしていくわ」
 そうしていくというのである。
 
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