戦国異伝
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第百六十九話 三方ヶ原の戦いその五
「ここは」
「武田信玄の前に出るか、か」
「はい、どうされますか」
「出ぬ訳にはいくまい」
家康も顔が白くなっている、だがだった。
彼にも意地がある、それでこう本多に返すのだった。
「出て来いと敵将に言われればな」
「応じぬは臆病ですか」
「ここで臆病と思われる訳にはいかぬ」
戦を前にしている、それで主が臆病さを見せれば話にならないというのだ。
だからだ、家康は本多にはっきりと言った。
「出る」
「そうされますか」
「御主は止めるか」
「いえ、殿の思われる通りに」
止めない、本多も今はだった。
「されて下さい」
「わかった、ではな」
「我等もお供します」
こう言ってだ、徳川十六将は家康の後ろに整然と横に並んだ。そのうえで家康と共に前に出てだった。そうして。
家康は信玄の前に出た、そのうえで信玄に言ったのだった。
「呼んだか」
「ふむ、来たか」
「それがしが徳川家康だ」
信玄の威圧感と武田軍の気に何とか耐えながら信玄に名乗った。
「何か用か」
「御主に言っておくことがある」
信玄はその家康を上から、坂の頂上から見下ろしながら告げた。
「だから呼んだのだ」
「言っておくこととは」
「まずは褒めておこう」
信玄はここで意外な言葉を出してきた。
「浜松から出てここまで来たことはな」
「そのことか」
「籠城すれば命は助かった、しかしあえて追って来て我等に戦を挑んできたことは褒める」
「褒めるには及ばぬ」
家康は何とか己を保ちつつ信玄に返す。
「わしも武門の者、臆することはない」
「だからか」
「左様、ここで貴殿を倒す」
「その心意気見事、しかし」
だが、だとだ。さらに言う信玄だった。
「それはあまりにも無謀」
「わしが無謀だというのか」
「既に御主の動きは読んでおった」
このことをだ、震源はここで家康に告げた。
「そlしてここで会うこともな」
「だからだというのか」
「御主も御主の軍勢もこの場で我等に敗れる」
その敗北も告げるのだった。
「降るか、降れば命は助ける」
「そう言うか」
「戦えば死だ、ではどうするか」
「くっ、それは」
「二つに一つだ、さあどうするか」
信玄は覇者の目で家康も彼の軍勢も見下ろしている。最早勝敗は明らかだった。
「どちらを選ぶ」
「それは・・・・・・」
「殿、ここはです」
ここでだ、徳川の家臣達が家康に言ってきた。
「選ぶべくもありません」
「我等の命皆殿のものです」
「ですからここは」
「殿が望まれるままに」
「左様か。ではじゃ」
家康は彼等の言いたいことがわかっていた、それ故に。
信玄を見上げてだ、軍配を掲げ。
「進め!」
「おおーーーーーーーーーっ!!」
徳川の者達は家康の号令一下一斉に声を挙げてだった、そのうえで。
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