戦国異伝
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第百六十九話 三方ヶ原の戦いその三
「十勇士が徳川さんの首を狙って来るのならな」
「それならか」
「ここは」
「ああ、後詰は徳川の誰かがやってくれるさ」
そちらの仕事はというのだ。
「だからここは術を使ってだ」
「忍の術で」
「徳川殿を」
「わし等にはわし等の出来ることがあるだろ」
こう言う煉獄だった。
「だからここはいいな」
「よし、そうだな」
「ここは」
飛騨者の者達も応える、こうしてだった。
彼等は今は忍として働くことにした。そうしてだった。
徳川の軍勢はひたすら武田を追った、そして遂にだった。
武田のその後陣が見えた、彼等はというと。
「坂をに入っていますな」
「うむ、そうじゃな」
家康は赤い大軍を指差す井伊の言葉に応えた。
「まさにな」
「この分でいけばです」
「武田が坂を全て昇り終えたところでな」
「追いつきます」
そして攻められるというのだ、井伊は。
「そうなりますぞ」
「そうじゃな。それではな」
「殿、ここは」
また言う井伊は。
「このまま進みましょうぞ」
「追いつけばすぐに戦になる」
それでだった、家康が言うことは。
「全軍鶴翼の陣じゃ」
「鶴翼ですか」
「それですか」
「一気に攻めて潰す」
敵軍をというのだ。
「そうするぞ、よいな」
「はい、それでは」
「すぐに鶴翼になり」
「そのうえでこのまま突き進みじゃ」
そして追いついて攻めるというのだ。
「ではよいな」
「わかり申した」
皆即座に答えた、反対する者は誰もいなかった。
徳川の軍勢は鶴翼の陣を駆けながら敷いた、動きながら整然とした陣を敷いたことは見事だった、だが。
信玄はその徳川の軍勢を見ていた、後ろからひたすら進んで来る彼等を見つつ笑みを浮かべて信繁に言った。
「見よ、徳川の軍勢を」
「こちらの読み通り動いてきますな」
「そうじゃ。ではな」
「手筈通りですな」
「攻める、しかしじゃ」
「しかし?」
「駆けながらすぐにあそこまでの陣を敷くとはな」
このことからだ、信玄はこう言うのだった。
「徳川家康、やはりな」
「御館様の見込まれた通りですか」
「見事な男じゃ」
家康の資質をだ、このことからも見抜いたのだった。
「やはりあの者もな」
「家臣にされますか」
「天下に人は必要じゃ」
それ故にというのだ。
「あの者も加えるとしようぞ」
「はい、それでは」
「今はな」
こう言ってだ、そしてだった。
武田は信玄の采配通りに進む、そうして坂を全て昇った、そして。
坂をひらすら昇りはじめた徳川軍の目の間でだ、整然としてだった。
動いた、これまでの横隊から。
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