機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア
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第一部 刻の鼓動
第一章 カミーユ・ビダン
第三節 月陰 第二話 (通算第12話)
「どちらかというと連邦軍の物量作戦の賜物じゃないのか?」
カミーユがエレカのルーフを閉めた。風が煩わしく髪を撫で、癖の強い髪が舞うのが嫌だったのだ。
「そうでもないさ。公式記録じゃ水増しされてるって話だからな」
実際、《ジム》の生産機数は三二〇機で、《ジムキャノン》に至っては五九機しか生産されていない。チェンバロ、星一号の両作戦に参加したRX-MSは六〇〇機余りが本当の数字であるという。
「ほとんどボールだってことか」
「あとはコアブースターとセイバーフィッシュさ」
そうランバンがうそぶく。これも事実である。ビンソン計画で建造された艦艇の内、モビルスーツデッキを備えた艦はなく、ミサイル格納庫を改修しただけの積載スペースでしかなかったのだ。アンティターム級改装母艦が中継母艦として機能したが、それとて二十四隻しかなく、モビルスーツ運用は地球連邦軍にとってはまだ未確立であった。
それでもレビル、ティアンムの両大将は、再建なった宇宙艦隊をルナツーで再編し、第一連合宇宙艦隊をレビル大将が、第二連合宇宙艦隊をティアンム大将が率いルナツーから進軍した。連邦の動きが掴めぬままジオン公国軍はソロモン、グラナダ、ア・バオア・クーを絶対防衛線としてこれを迎え討つ構えをみせた。十二月十四日、《ホワイトベース》を筆頭とする独立機動部隊を囮とし、『チェンバロ作戦』が開始される。十二月二十四日、ウォルフガング・ワッケイン中将率いるルナツー防衛艦隊である第三艦隊が陽動を仕掛け、ティアンム大将率いる本隊が宇宙要塞ソロモンを〈ソーラーシステム〉で焼き尽くした。艦隊と機動歩兵師団の連携を断たれたドズル・ザビ大将は要塞放棄を決定、残存部隊の撤退時間を稼ぐため巨大モビルアーマー《ビグザム》で特攻し、ティアンム大将が座乗する旗艦マゼラン級宇宙戦艦《タイタン》と〈ソーラーシステム〉を道連れに壮絶な戦死を遂げた。
「コアブースターだってそんなに数はないんじゃ?」
「ほとんどはティンコッドのブースター付きだったらしいけど」
宇宙軍の次期主力航宙機として開発されていた《ティンコッド》は《コアファイター》のベース機となった程構造が似ていたため、ブースターを増設して《コアブースターイージー》として戦線に参列していた。可変機能を持つ《コアファイター》はコストが高く、生産性が低かったからだ。
「その航宙機もいまでは宇宙を飛んでやしない」
「宇宙じゃ機動性が高くなきゃ意味をなさないから、仕方ないだろ」
カミーユの言いようはミノフスキー粒子の撒布下が前提である。レーダーや電子機器が有効ならモビルスーツよりも航宙機の方が優れている面もある。平時のミノフスキー粒子撒布は禁止されたが、いざ戦闘状態になれば、ミノフスキー粒子が撒布されるのだから、どちらにも対応できるモビルスーツが優先されるのは当然だった。
「ま、ソロモン戦やア・バオア・クー戦みたいにビーム攪乱幕を張るんならモビルスーツよりは有効だろうけどさ」
これは《パブリク》のことだ。ソロモン戦でもア・バオア・クー戦でも、モビルスーツは戦場の主役たりえなかった。モビルスーツは艦隊戦を制するための機動兵器であり、要塞防御や要塞攻撃には不向きだったからである。事実、一年戦争最後の戦いと呼ばれるア・バオア・クーで活躍したのはモビルスーツではなく、艦載機でもなく、宇宙突撃艇《パブリク》であった。《パブリク》のパイロットたちは、命を的に突撃を繰り返し、ビーム攪乱幕によって要塞砲を封じ込めたのだ。
接収した〈ソロモン〉を〈コンペイトウ〉と改名し、自らの拠点とした第二連合宇宙艦隊は、残存艦艇を再編成するため、終結ポイントへの合流が遅れることとなった。このことが、第二連合宇宙艦隊の残存艦艇を〈コロニーレーザー〉の光から救うこととなった。先行していたレビル大将率いる第一連合宇宙艦隊は直撃を受け、レビル大将が座乗する旗艦マゼラン級宇宙戦艦《フェーベ》以下実に半数近くにもおよぶ戦力を失ったのである。この中に、和平交渉を持ちかけようと投降してきたデギン公王の座乗艦グワジン級大型戦艦《グレートデギン》もあった。
この二つの戦いで、地球連邦軍は、艦艇数こそ多いものの、ジオン公国軍を圧倒するだけの兵力を保持しえなかった。通常、攻城戦や要塞戦は守備兵力の三倍から五倍を最低限必要とするとされる。しかし、両連合艦隊の残存兵力はア・バオア・クー守備隊を上回る程度であった。
「でもさ、よく勝てたよな?」
「レビル元帥のお導き……ってか?ベーダー大将じゃないんだから」
残存艦艇にはレビル大将の同期であった、第六宇宙艦隊司令官ダグラス・ベーダー中将がいた。闘将と渾名される将官であり、レビル将軍の弔い合戦であると星一号作戦の継続を声高に叫び、残存艦艇をまとめると十二月三十一日ア・バオア・クー宙域に突進した。命令はたった一つ「全艦突撃」のみであったという。
ギレン・ザビ総帥とキシリア・ザビ中将の確執によって、ギレン・ザビ総帥が暗殺され、司令部に動揺が走る。その一瞬、命令系統に混乱が生じた間隙を突いて、要であったドロス級大型機動母艦《ドロス》、《ドロワ》を撃沈させ、地球連邦軍は宙域を制圧した。その機を逃さずベーダー中将は旗艦《ヒペリオン》を着底させ味方の血路を拓いて、上陸作戦を展開させる。これを受けて乱戦のうちに離脱を試みたキシリア・ザビ中将が戦死した後、ア・バオア・クーは要塞としての機能を停止、残存艦艇は撤退を開始する。司令部からの任意撤退命令であった。だが、司令部が降伏してもなお、要塞内部における白兵戦は終わりをみせようとはしなかった。
司令部降伏の六時間後、未だ戦火の止まぬ中、ダルシア・バハロ首相により招集された公国議会は共和制への移行を承認、サイド6を通じて休戦協定を申し入れる。地球連邦も二度の要塞戦のために残存兵力は乏しく、休戦協定に応じる以外に選択肢を持ち得なかった。こうして一年戦争は終結する。
明けて宇宙世紀〇〇八〇年一月一日、ジオン共和国と地球連邦政府の間に終戦協定が結ばれた――
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