機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第一部 刻の鼓動
第一章 カミーユ・ビダン
第二節 配属 第五話 (通算第10話)
「やっぱりジオン公国軍のやったことは虐殺だろ?」
「一部の外人部隊の暴走だって発表しているけど、嘘だな」
暴走であることは一部事実であるかもしれない。しかし、GGガスを用意していたことが、虐殺が計画的なものであったことを裏付ける。外人部隊単独でそんなものを用意することなどできる筈がないからだ。これは同じ軍人として看過できない問題だった。しかし、上官に命じられたとして、自分はそれに歯向かえるか?と尋ねられれば二人とも、無言にならざるをえない。軍というのはそういうところだからだ。
その上、ジオン公国軍は前代未聞の作戦を実行した。『ブリティッシュ作戦』と呼ばれるコロニー落としである。サイド2〈ハッテ〉8バンチコロニー〈イフリッシュ〉を地球最大の軍事拠点であるジャブローに落下させようというのだ。直径六・四キロメートル、全長三〇キロメートルにも及ぶ大質量兵器である。ジオン公国総帥ギレン・ザビをして《メギドの火》と言わせた大量殺戮兵器と化したスペースコロニーの使用法である。グラナダから出発した第七機動歩兵師団とキリング・ダニンガン中将麾下の第三機動艦隊がコロニーを護衛、グラナダの軌道間輸送レーザーによって増設された核パルスエンジンに点火された〈イフリッシュ〉は地球落下軌道に乗った。
ジオン公国軍の企図を察した地球連邦軍はマクファティー・ティアンム中将率いる第四宇宙艦隊を中心にコロニー破壊作戦を展開、公国軍の第三機動艦隊と交戦、七〇%にも及ぶ被害を受けて撤退した。地球連邦軍は落下阻止には失敗したものの、傷ついたコロニーは落下中に崩壊、三つに分かれたそれは、オーストラリア、北米、太平洋上に落下。地球上の二億人が死亡したという。さらにこれによって起こった津波や台風、異常気象による二次災害による被害者は五億人以上になると言われている。一月十日、ダニンガン中将は作戦の失敗を確認して撤退した。この一連の戦いは一年戦争でもその熾烈な殺戮から特に『一週間戦争』と呼ばれた。
「……しかし、モビルスーツってのは凄いよな?」
「あぁ……中世期の第二次世界大戦の航空機と同じさ」
「無敵と言われた連邦軍宇宙艦隊も全く歯が立たないんだからな」
「無敵ったって、戦いもしないでの話だろ?まったく政府のお偉方ときたら現場の苦労なんて知りもしないんだからさっ……」
カミーユの言う通りではある。その連邦軍上層部がモビルスーツの有用性を確実に認識するにはもう一つの戦いを経なければならなかった。人類最大の宇宙艦隊戦と言われる『ルウム戦役』である。
ジオン公国軍は、ブリティッシュ作戦の失敗をとりかえすべく、ヘルムート・ライオブルグ中将の第二機動艦隊にサイド5〈ルウム〉宙域を制圧させ、11バンチコロニー〈ワトホート〉を『第二次ブリティッシュ作戦』の対象としたのである。監視網を強化し、ジオン公国軍の動きを察知した地球連邦軍はヨハン・イブラヒム・レビル中将率いる第三宇宙艦隊を中核とした連合宇宙艦隊を派遣した。ジオン公国軍はドズル・ザビ大将率いる第一・第三機動艦隊を主力としてこれを迎撃したが、ドズル大将は三倍にも及ぶ敵直前での核パルスエンジンの取り付けは被害を出すだけであると中止させ、第二機動艦隊も戦場に投入した。このため、地球連邦軍は艦隊の五〇%以上を喪失した上に、司令長官たるレビル中将を捕虜にされた。ここに地球連邦軍は、宇宙艦隊と制宙権を失って敗北した。
この二つの戦勝を以て、ジオン公国は地球連邦政府に対し休戦協定を突きつける。これは事実上の降伏勧告だった。地球連邦軍の敗色は濃厚であり、連邦政府首脳は降伏を受諾しようとしていた。まさにその時、捕虜となっていたレビル中将が奇跡の生還を遂げ、全世界に向けて放送された「ジオンに兵無し」の演説によって、首脳部は徹底抗戦を決議し、NBC兵器や大質量兵器の使用禁止およびコロニーへの攻撃の禁止を謳った戦時条約の締結に留めることとなった。両軍はこれにより、戦争は終結のタイミングを失った。
「結局、レビル元帥が戦争をしたかったってことなんじゃねぇか?」
「そうでもないさ。レビル元帥はザビ家内部の不協和音を知っていたって噂もあるし」
「それ、根も葉もない噂だろ?」
ランバンは首を振って、最後のカツサンドを口に放り込んだ。
一説には戦争の長期化を危ぶんだデギン公王がレビル中将を逃亡させたという話もあるにはある。デギン対ギレン、ギレン対キシリアの政治的駆け引きが首脳部の不協和音の原因になっていたのは事実だ。
「ま、思惑はどうあれ、結局戦争は続いちまった訳だけどさ」
「一度始まった戦争は、終わりの時がくるまで終わらないんだ……」
戦争終結ができなかったジオン公国軍はかねてより計画していた地球侵攻作戦を実施、二月七日に第一次地球降下作戦を開始した。第一次降下部隊が旧ロシア連邦ウラル地方の資源地帯を制圧、第二次降下部隊は二方面作戦によりカリフォルニア基地と首都ニューヨークを制圧。第三次降下部隊はオセアニアの資源地帯を制圧、続く補充降下部隊でアフリカを制圧した。そして、地球降下作戦の本隊がオデッサに進駐することで、地球降下作戦は成功に終わった。抵抗らしい抵抗を受けなかったとも言われる地球降下作戦は、ミノフスキー粒子によるレーダー攪乱と、コロニー落としによって地上戦力の半数以上が破壊されたことによって、組織的抵抗が不可能になったからであるといわれる。
だが、ジオン公国軍の快進撃もそこまでだった。
支配地域を拡げ過ぎたジオン公国軍は延び切った補給線と慣れない地球の環境、日ごと激しさを増すレジスタンス活動に悩まされ、戦線は膠着状態となった。連邦軍は焦土作戦を行うことによって戦線を膠着状態にし、時間を稼ぐことで自軍の再編と『RX計画』(責任者ゴップ大将)によるモビルスーツの開発量産、『SCV-X計画』()による正規航宙空母の建造、『ビンソン計画』による宇宙艦隊再建を柱に、兵員増強計画と地球連邦軍再編成の五つを同時並行して行っていたのである。これを『V作線』という。
そして、八ヶ月あまりが過ぎ、完成した《ガンダム》でモビルスーツ開発に目処を立てた地球連邦軍はジャブロー兵廠で、《ジム》を量産し、反攻作戦の実施に踏み切ったのである。
ページ上へ戻る