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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア

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第一部 刻の鼓動
第一章 カミーユ・ビダン
  第二節 配置 第一話 (通算第6話)

 
前書き
 サイド7のファ・ユィリイに降りかかる火の粉。それを知らずにファを守るために軍人を志したカミーユ・ビダンは士官学校を卒業した。配属先であるグラナダへと向かおうとしていた。サイド7からの友ランバン・スクワームと共に。

君は刻の涙を見る……。 

 
 地球連邦内にありながら、非武装中立として半ば独立しているかのような月面恒久都市連合最大の都市〈フォン・ブラウン〉。宇宙世紀〇〇二七年に完成してから、今日まで拡張を続けている。青年はその街から出立しようとしていた。士官学校を卒業し、配属先の〈グラナダ〉へと向かわなければならなかったからだ。士官学校の寮はギリギリまで追い出されはしないが、申請すれば寮よりは広い軍の官舎が用意されるのだから、それをしないのもバカらしかった。
「こことも、さよならだな」
 エアポートでぐるりと見回す。ハイスクールを卒業し、家出同然にサイド7から士官学校へ入学して以来、自分が利用するのは初めてなのだ。彼にとってここは友人や先輩を見送るためだけの場所だった。
――アテンションプリーズ、アテンションプリーズ。お客様にご案内申し上げます。グラナダ航宙、グラナダ行き、十六時三〇分発、四六六便へご搭乗のお客様は、搭乗手続きの受付を開始いたしましたので、チェックインカウンターまでお越しくださいませ。
 隣に坐っていた青年が勢いよく立ち上がる。
「カミーユ行くぞ!さっさとこんな所からおさらばだ」
「おいっ……ったく、人の気もしらないで」
 青年の名はカミーユ・ビダン。士官学校を卒業したての地球連邦軍少尉である。もう一人はランバン・スクワーム。サイド7のハイスクール時代の先輩だが、一年浪人して入学したため同級生ということになる。顔なじみということもあり、学校でも寮でも付き合いがあったが、配属先まで同じになるとは思っていなかった。
 ランバンはカミーユと荷物を置き去りにして、チェックインカウンターに走っていってしまっていた。仕方ないという表情で、カミーユがランバンの鞄を担ごうとした。が、重い。
「ん?な、なんだよ?!」
 外見からすると考えられない重さだ。これなら人に取られることもないだろう。荷物を見捨てて、ランバンとともにチェックインカウンターに並んだ。
「何さ、あれ?」
「あぁ!本だよ、本。アンティークなんだぜ?」
 カミーユは空手部に入っていたランバンは頭まで筋肉な体育会系のくせに、意外と読書家だったことを思い出した。カミーユにとって本は前世紀の遺物でしかない。
「紙が一番しっくりくるのさ」
「そんなもんかねぇ…?」
 西暦時代に紙は記録媒体の主流を引退したのは既に旧世紀。百年以上昔の話だ。だが、紙媒体というものの需要はなくならなかった。フィルムペーパーという形が主流の今も、本屋というものも存在している。販売しているのは、情報メディアソフトパッケージの販売だ。その片隅に紙の本が売られていることはカミーユも知っていた。
「おい、アレ…」
「ブライト・ノア大佐じゃないか?」
 士官学校時代に一度だけ面識を持ったことがあるが、相手が覚えていてくれている筈もなく声を掛ける気にはなれなかった。ブライト・ノアといえば、一年戦争で第十三独立機動部隊を率いて戦い抜いたニュータイプ部隊の司令である。たかが一度会ったぐらいの相手をいちいち覚えている筈もなかった。
「ほら行こうぜ?」
 ランバンをせっついて先を急ごうとする。そうしなければランバンはブライトに挨拶へ行きそうな勢いだったからだ。しかし、ブライトが二人の方に視線を注いでいた。
「失礼だが…?」
「は、はいっ!」
 ランバンが直立不動の敬礼を返した。苦笑するブライト。よく見ればブライトも私服である。だが、ランバンが敬礼をしてしまっているのに、自分だけやらないのは不自然だと思ったカミーユもランバンに倣った。
「何処かで会ったことがあるように思ったのだが、そうか、フォン・ブラウン校の士官候補生だったのか」
「覚えていていただけて光栄であります!」
 これはカミーユだ。ブライトにすれば、なんとなく懐かしい……そう、そこにいるのが当たり前だった一年戦争の時のアムロの様な雰囲気がしたから振り向いたのだ。だが、そこにはカミーユとランバンがいた。正直、残念には思っていた。そう、アムロが宇宙に来る筈はない。なのに何故?心の中で戸惑いながら、二人の少年に、任務に励むよう声を掛けて、立ち去った。
「ラッキーだったな?」
「あぁ…」
 ランバンは嬉しそうに握手をしてもらった手に熱い視線を送っている。
 カミーユは上の空だった。ブライト・ノアが自分をなんとなくでも覚えていてくれたことが、カミーユにはこの上なく嬉しいことだったのだ。その喜びに浸っていて、ランバンの声など馬耳東風といったところである。
「聞いてるのか?」
「うん…あ、搭乗開始だ。行こうぜ?」
「ちぇっ……ったく、全然、話聞いてないんだからさ!」
 ランバンは先に行ったカミーユに悪態をつきながら、後を追う。
 二人の搭乗する《ロンバルディアSSH-R46》は月に導入されている航宙旅客機では旧型の部類で、軍が手配した定期便であり、気の利いたスペースアテンダントも船内の娯楽も期待できそうにはなかった。二万キロメートルにもおよぶ月の玄関口である〈フォン・ブラウン〉と月の裏側である〈グラナダ〉では、如何にスペースシャトルとはいえど船内泊になるのは当然であった。 
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