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ターゲット
”生きる意味を持って生きてください。”
どういう意味なんだろう。
そう感じてはいたが、気にしないようにしていた。
始業式からしばらく経った頃、担任の酒井が言った。
「誰か、西原のところへプリントを届けてくれないか。」
西原とは夏休み明けから不登校になっているやつだ。
たぶん原因はいじめだろう。
もともと気の弱かった西原をねらい、いじめグループが集団でいやがらせをいていたのを見たことがある。
西原とは中学から一緒で、昔からおとなしかったから尚更ターゲットになったんだ。
でも俺は、それを止める勇気なんてなかった。
西原とは話したことはほとんどといっていいほどない。
助けて、もし自分にターゲットが回ってきたらと思うと、怖かった。
「おお、晃。西原と同じ中学だったんだよな。悪いが頼むよ。」
酒井はそう言うと俺にプリントを渡してきた。
*まじかよ・・・
そう思いながらも放課後、西原の家に行くことにした。
ピンポーン
呼び鈴を鳴らすとすぐに、女の人の声が聞こえてきた。
「・・・・はーい。」
「あ、あの、西原君と同じクラスの遠野晃といいます。プ、プリントを届けに来ました。」
「ああ、真の。ちょっと待っててね。」
母親らしき人の声は澄んだきれいな声だった。
ガチャ。
ドアが開くと、声の通り、きれいな女の人が出てきた。
「ごめんね。真なかなか部屋から出てきてくれなくて・・・・」
「いえ・・・あ、これ、プリントです。」
俺は早々とプリントを差し出した。
できれば早く帰りたかった。
話したこともない。そんな奴の家に長居しても、どうにもならないからだ。
「ありがとう。よかったらあがっていって。お茶でも出すわ。」
「え、あ、はい・・」
そういわれ、断ることもできず、家の中にあがった。
西原は自分の部屋から出てこないらしい。
いわゆる引きこもりになっているようだ。
「わざわざありがとね。真、友達少なくて、こうして家に来てくれる子もいないのよ。」
母親は勝手に話を始めた。
俺ははい・・なんて言って、流すようにしていた。
しばらくすると、真の部屋に案内された。
早く帰りたかったのに。
でも、部屋に着いたとき俺は何かを感じた。
部屋から出る、いや、影のような濁ったなにかを。
それは俺にしか見えていないようで、母親は何も感じないようだった。
「おい、西原?俺・・・同じクラスの遠野だけど。」
部屋から反応はない。
「お前、なんで学校来ないんだよ。来たらさ、楽しいこといっぱいあんじゃん。」
すると部屋の奥から微かに聞こえてきた。
「なんで・・・なんで善人ぶる。・・・お前も・・・見ぬふりしてたのに。」
俺は何も言えなかった。
見て見ぬふりをして逃げてきたから。
「僕は・・・僕なんてゴミなんだ。ずっとそう言われ続けてきた。いらないんだ。」
西原の声はかすれていてそう言った。
「僕はいないほうがいいんだ。ゴミは処分されるんだ。」
前に、西原がいじめられているところを目撃したことがある。
ゴミ捨て場で、次から次へと頭に生ごみやガラスまで。
「おい、西原何言ってんだよ・・・。」
俺は言葉に詰まった。
何を言ったらいい?わからなかった。
「・・・・・・帰ってくれ。偽善者。」
西原の言葉は俺の心にグサッて強く刺さった。
「ごめん。」
そう言って俺は足早に西原の家をあとにした。
西原の言葉。そしてあの部屋の嫌な気配が俺の頭に残った。
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