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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア

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第一部 刻の鼓動
第一章 カミーユ・ビダン
  第一節 前兆 第二話

――カチカチカチカチ。カチカチッ。……カチカチカチカチカチ。
 静かな読書室に乾いたキーパンチの音が鳴る。時折休む音は、思索にふけっているのだろうか。

「二十世紀初頭、人類は二度の世界大戦を経験することで、軍事的対立の愚かさを悟りつつ、抑止力としての軍備拡大を行い、それが東西の二大国家による冷戦構造を生み、次第に経済戦争へと移行していきました。
 それまでの国家戦争は影を潜め、局地紛争に終始したこの世紀はパックス=アメリカーナと呼ばれ、アメリカ主導の国際連合による国際調和の時代でしたが、二十一世紀に入り、アメリカの独走が激しくなると、東の大国であるロシア連邦や欧州連合とゆるやかな対立をするようになっていきました。
 さらには、国際連合における常任理事国枠の拡大に、インド、日本、ドイツ、ブラジルが加わることで、アジアにおける中国の影響力が、内乱における自治区の独立によって低下することで、アジアはインドを中心とする経済圏・日本からオーストラリアを中心とする経済圏と中国を中心とする経済圏に分裂、ヨーロッパ経済圏、アメリカ経済圏に集約していきました。
 しかし、この経済発展に乗り切れなかったのが、西アジア諸国とアフリカ諸国を中心とするアラブ経済圏の諸国でした。このことが、後の分裂主義組織がアラブ諸国を中心に発足する遠因であったといえます。」

 そこまで書いて筆を休める。ふと窓の外を眺めると、図書館の庭に繁る木々が木漏れ日をつくり、恋人たちだろうか、若いカップルがレジャーシートを拡げて戯れている。
 羨ましい。純粋にそうは思うが、ボーイフレンドを作る気にはならなかった。こんなにもカミーユが自分の心を占めているなんて、ハイスクール時代には思いもしなかった。だから、今は―――
「これに加え、かねてより回復傾向にあった、先進諸国の人口増加率が、地球全体での食料問題を現出させました。国際協力において、先陣をきったのは日本をはじめとするアジアであり、その技術力の結晶がアフリカの大地を蘇らせる『緑の革命』です。
 しかし、食料問題を解決するための『緑の革命』は結果としてアフリカ諸国に人口爆発のきっかけを与えただけに終わってしまいました。つまり、農業生産力の向上は、労働力の拡大でもあり、発展途上国は先進的大農業体制をくむことができず、労働人口の拡大こそが農業生産の拡大になったのです。
 このことで、二十一世紀後半には地球の人口は九十億人に迫る勢いで増加していきました。
 この状況を受け、『二十二世紀には人口増加が極限に達する』と考えた国際連合の常任理事国は、全世界に緊急事態宣言を行い、『人口増加問題会議』を開催。翌年、『人口問題解決委員会』は人口増加に対する積極的な解決策がないとしながらも、『惑星規模の統合政府による宇宙進出であれば解決に繋がるのではないか』という見解を示します。これを受けて、世界は『合併か分離か』という命題に世論が沸騰していきます。折しも中世的経済発展の停滞時期にさしかかっていたことが、人心を不安に陥れ、紛争が頻発する結果となりました。」

 手を休めて画面を食い入るように見つめる。
(これじゃ、歴史の教科書じゃない……)
 自分の書いた文章を読み返して苦笑する。だが、それが事実だった。人類は何度となく似た様な世界情勢を繰り返している。そして、前へもっと前へ、より巨大により拡大していっている。二十一世紀半ばの人口は一年戦争によって半減した現在の人口よりも多い。それが、スペースコロニーもなく、全て地球上に暮らしていたなんて、ユィリイには信じられなかった。実感がないのである。スペースコロニーでさえ、一年戦争前には一島あたり一五〇〇万人いたものだったが、ここ〈グリーンノア〉にいたっては五〇〇万人にも満たないほどしか居ない。一体どれほどの人がひしめき合っていたのだろうか。それは想像を遥かに超えた生活環境であったに違いないとユィリイは藐然と考えていた。

「また、二十一世紀は軍隊が国家間戦争よりも対テロ組織へと変貌していった時代であると言えます。このことは、軍事活動が国境を越え、国際的に協力し合わねばならない事態であり、それぞれの国での対処が難しく、より専門的組織が必要とされ、国際連合に対テロ常備軍が設立されるきっかけともなりました。
 このテロリズムは、世界の警察を自認してきたアメリカが、イラクのクウェート侵攻に端を発する湾岸戦争で軍事力を強引に誇示したことでイスラム圏の過激派との対立を深め、泥沼の平和維持軍の投入を余儀なくされていったことが発端です。

 ソビエト連邦軍のアフガニスタン撤退で軍事力の低下から連邦統制力を失って解体となったのと同じく、中国の民主化改革における周辺自治区の独立に、中国政府の要請で介入し、装備に劣るはずの独立軍に敗退したことがきっかけで、東西分裂を招き、その影響力が低下したことも背景にあると言われています。

 二十一世紀後半の世界規模での紛争は、主にアラブ諸国を中心に起きており、イスラム圏を主とする分離主義と、ヨーロッパ諸国を中心とする合併主義は、対立したままその溝を深めていきます。しかし、欧米諸国は国際世論に押される形で、二十二世紀初頭に対テロ常備軍を中核とした国際連合軍に、アメリカおよびロシアを含むヨーロッパ諸国の各国軍がこれに倣うと、これに比肩できる軍隊は地球上に存在せず、西暦二一四五年、武力を背景にした地球を統一国家が誕生しました。

 これが地球連邦政府です。」

――カチッ。
 改めて思うと地球連邦政府というのはなんと高圧的な政府なんだろう――そう思わずにはいられない。日常生活している上では感じないが、歴史を振り返れば振り返るほど刻み込まれるこの違和感は一体なんなのだろうか?
 いけない――そんなことを考えて生活していたら、反乱分子と目をつけられてティターンズに尋問されてしまう。そう頭で判っていても、一度浮かび上がった違和感の正体が自分の中で実体化してしまうと、人はそんなに簡単に忘れ去ることはできない。どうしよう。そんなことを考えながらキーボードを叩き始める。

「地球連邦政府は人類の宇宙進出を経済的側面から支える目的で成立した政体であると言えます。しかし、その当時ですら、果たして本当に統一した政治機構が必要であったのかという疑問は常に存在していました。ただ、懐疑的なインテリは左派と見なされ、主流から排除されていくという事態に、多くはサイレントジェントルマンと化したと言われています。いわゆる群集心理による感情論の沸騰が、理性的解決を拒絶した瞬間であると言わざるを得ません。

 二十二世紀中頃には、重力緩衝点――すなわちラグランジュポイントに実験的な島一号型スペースコロニーがいくつか設置され、地球連邦政府最大の機関である『宇宙移民局』主導により、L5に島三号型スペースコロニー――のちのサイド1一バンチ〈シャングリラ〉の建設が始まり、これへの移民開始を以て宇宙世紀の開闢となるのです」 
 

 
後書き
 第二話です。
 こちらも小説用にプロットをリライトしたものです。第一話に比べるとボリュームアップは少量で済みました。プロットはだいたい二二〇〇文字で一話にしてるのですが、こちらは二八七六文字ですので、ほぼプロットのまま……ということになります。

 さて、連邦政府の成立までと宇宙世紀開闢までの歴史を考えてみました。
 こう考えると、これから先の宇宙世紀に重みがでてくるかと思います。

 ご意見お待ちしております♪ 
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