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戦国異伝

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第百六十八話 横ぎりその九

「このことから学びじゃ」
「それで、ですか」
「学んでなのですか」
「そうじゃ、学び取りじゃ」
 そうしてだというのだ。
「より大きくなるわ」
「そうですか、徳川家康はですか」
「余計に大きくなりますか」
「間違いなくな」
 氏康は確かな声でこう家臣達に話した。
「織田信長にとっても心強いであろう」
「盟友だからですな」
「盟友以上じゃな」
 信長にとって家康はそれ程までの者だとだ、氏康は己の家臣達に言った。
「織田にとっては」
「ですが父上」
 嫡男の氏政が父に言ってきた。
「織田と徳川の強さは」
「全く違っておるな」
「そうです、織田は最早一千万石を超えております」
「千四十万石程じゃな」
「越前と紀伊も手に入れ」
「それに対して徳川は五十万」
「最早比ぶべくもないですが」
「そうじゃな。石高は全く違っておる」
 織田は恐ろしいまでに力を伸ばした、家臣達も揃い町も田畑も見事に整ってきている。検地で国人達を取り込みそのうえ寺社も抑えている。政も万全だ。
 それに対してだ、徳川は全く普通だ。五十万石ではまさに比ぶべくもない。
 それでだ、氏政も言うのだ。
「それで盟友とは」
「事実上家臣の一人の様なものというのじゃな」
「そう思いますが」
「いや、一見とじゃ」
「実はですか」
「織田信長にとって徳川家康は半身じゃ」
 そこまでの者だというのだ。
「あの者がおってこそじゃ」
「織田信長は成り立っていますか」
「うむ、頼りになる盟友がいてこそな」
「対等の」
「力の差は確かじゃがな」
 だがそれでもだというのだ。
「織田にとって徳川はそこまでの家なのじゃ」
「では浅井家よりも」
「浅井はあくまで妹婿じゃ」
 重要な家であるが織田家の中にあるというのだ。
「徳川とはまた違う」
「では長宗我部も」
「あの家もじゃ」
 やはり織田家の中にある家だというのだ。
「家臣じゃ。しかし徳川は違う」
「あくまで別で、ですか」
「共に助け合う盟友なのじゃ」
 それが織田と徳川の関係だというのだ。千四十万石と五十万石では比べること自体が馬鹿らしいことであるが。
「間違いなく徳川はこの戦では敗れるが」
「それでもですか」
「織田家の盟友に相応しいものを見せる」
「それは誰に」
「天下にじゃ」
 誰か一人に見せるのではなくだ、天下全てにだというのだ。
 そうした話をしてだ、氏康はあらためて一同に言った。
「では我等はじゃ」
「はい、これよりですな」
「関東を」
「そうじゃ。東に進む」
 北条が勢力を持っているのは関東の西だ、しかしさらにというのだ。
「結城や里見を圧するぞ」
「武田、上杉が西へ向かっている間に」
「我等は」
「そうじゃ、関東を我等のものにするぞ」
 北条は天下は見ていない、それよりも関東の覇者になろうとしているのだ。だから今は東に進もうというのだ。 
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