戦姫絶唱シンフォギア/K
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EPISODE19 暴走
完全聖遺物デュランダルを廻って巻き起こった今回の戦闘。様々な思惑の絡み合う最中で今一人の少女の運命が一つの分岐へと入ることとなる。
少女は比較的明るい子の育った。両親からの愛情を一身に受け、ごく普通の少女に。しかし、その人生は突然狂い始める。少女は争いに家族を奪われ、自身も命の危機に幾度となく晒された。兵士から逃げ惑ううちにいつしか笑うことも忘れ、彼女から笑顔が消えた。代わりに生まれたのは他人への不信感と争いを引き起こす者たちへの憎しみ。最初は小さなその感情がやがて膨れ上がり彼女の心を蝕んでいった。その結果、彼女の本当の願いはいつしか歪められ“古来の巫女”の願いを叶える為の物になりかけている。争うことを嫌っていたのにもかかわらず彼女は自ら大殺戮を引き起こしてしまい、結果多くの人間の命を奪った。
――――ああ、なんて哀れ。
少女の名は雪音クリス。彼女もまた、古来より続く大きな争いのうねりに巻き込まれた哀れな踊り子の一人だ。
転倒し、炎上するトレーラーと研究所一部の建物。作戦を見破られた―――――いや、最初から知っていたと言ったほうが正しいか。とにかく待ち伏せされたことによりノイズの群衆に孤軍奮闘する響は孤立させられた雄樹の安否を気遣う。翼の援護が間に合うかどうかはわからないがここまでくるのにそれなりの時間がかかる。今は何としてもここを突破し彼の援護に向かうことを考えるんだ。
トレーラーのコンテナの中にはデュランダルがある。これを敵に奪われれば間違いなく今よりもっと多くの涙がながれることとなる。そうなったら、今よりもっとあの人が戦わなきゃならない。みんなの笑顔を守るという言葉をあの人は絶対にやり遂げようとする。たとえそれが、自分の命を削る事になったとしても。
「そんなの・・・・・そんなの、認めるかァァァァァ!!!」
咆哮と共にユニットを肘まで引き上げ拳を突き出す。直撃、あるいはそれにより発生した波動でノイズたちが飛び散り、灰と化す。決意新たに歌う響を止められる者は・・・・・ない。
「了子さん、大丈夫ですか!?」
「あいたたた・・・・なんとか平気よォ」
片手を振って大丈夫なことをアピールする了子に離れるよう指示。彼女がノイズたちに気づかれぬよう逃げたことを確認すると響は拳を地面に叩きつてさらに多くのノイズを撃破する。
「待っててユウ兄。今すぐ行くから!」
♪
「オラオラどうした?反撃しないのか!?ええ!?」
ネフシュタンの少女――――雪音クリスの猛攻に雄樹は防御、あるいは回避でやり過ごす。
『前もいただろ!?きみとは戦いたくないって!』
あくまでもこちらに敵意はないと言う雄樹にクリスは舌を打つ。戦場で、しかも相手は一年前の元凶だぞ?それなのに戦う気はないなどと戯言をほざくこの男にクリスは心底腹が立っていた。
ここは戦場、一度出逢えば互いに殺し合うしかない。そうやって命のやり取りをして、生き残る為の術を身に着けてきた。時には命を奪い、そして時には強者に縋りもした。そうやってなりたっているんだろ?この世界は。強いものが弱いものの全てを奪う。奪って奪って、奪い尽くす。それで、最後には争いのない世界が待っている。
そう、要は強ければいいのだ。そして自分のクライアント(飼い主)はそれを少なからず望んでいる。この完全聖遺物と、それに適合した自分が必要だと言ってくれた。だったら自分はその期待に応えればいい。単純明快、四の五の言わずに行動で示す。いままでそうやってきた。
なのに、こいつはアタシを狂わせる。このアタシを目の前にして笑うことすらやってのける。しかも戦いたくないと言い、挙句自分を庇って死にそうになった。
わからない。此奴がなんなのかわからない。言い知れぬ恐怖がクリスに忍び寄る。自分が自分じゃいられなくなってしまうような、そんな感覚。
でも・・・・なにか忘れているような気がするのもたしかなんだ。
わからない。もう、なにがなんだかわからない。だからこそ腹が立つ。
「なんなんだよ・・・・なんなんだよ、テメーはよォ!?」
クリスの猛攻がより一層激しくなる。
「なんでそんなに笑ってられるんだよ!?なんでそんなに平気でいられるんだよ!?アタシとテメーは敵同士、命の奪い合いをしてる真っ最中なんだ。なのに・・・・なんでそんな気持ちで戦ってんだよォ!?」
もはや狙いなど定まっていない。ただ何かを振り払いたくて鞭を振るっているように見える。言葉から伝わる感情、そして彼女から感じる“歌”は、もう限界だということを告げているようだった。だからこそ雄樹は攻撃できない。悲しい気持ちでいるこの子に、泣いているこの心に、どうやって攻撃できようか。
そんなこと、五代雄樹が許すはずがない。
自分は戦いたいんじゃない。ただ話がしたいんだ。どうしてそんなに悲しいのか。どうしてそんなに傷ついてまで戦うのか。
だから、知りたい。この子の本当を。
「・・・・、超変身!」
赤から紫へ。正面からの一撃を身体を張って止める。強靭な装甲は傷一つつかずにあっさりとクリスの鞭を受け止め、しっかりとそれが握られている手を掴む。
「おまえに、アタシの気持ちがわかってたまるか・・・・!」
『人の気持ちになることなんてできないよ。思いやることだったら、なんとかできるけどね』
戦っているとは思えないような穏やかな声色で語りかける雄樹にまた感じる恐怖。
この男が恐いんじゃない。自分の中にあるなにかが崩れていくのが恐いんだ。クリスは動くこともできずただ雄樹をじっと見る。
「・・・・どうして、どうしてそこまで自信満々に言えるだよ?」
『自信なんてないよ。ただ信じてるだけ、できるようにって。だから俺は俺にできる無茶をしてるだけさ。そのせいで、最近は怒られることもあるけどね』
「バカだよ…おまえバカだよ」
『うん。よく言われる。でも、賢いっていうのが困ってる誰かを見捨てたりすることだっていうんなら、俺は一生バカのままがいいかな。だって、それだけ人を信じられたってことだもん』
何を言っても言いかえされる。何をやっても通じない、まるで届かない。いつしか恐怖は別のものに変わりかけていた。
でも・・・・・それでも。譲れないものもある。
「ユウ兄!」
聞こえてきた声にクリスはとっさにバックステップでさがる。
「ユウ兄、大丈夫!?」
『うん、でも響ちゃん、あの子――――』
と、言いかけて雄樹は放たれたミサイルに気が付き、今度は紫から青に変わって響を抱え飛び退く。
「どいつもこいつも、ッるせーんだよォ!」
まるで暴れ馬。感情に任せて撃ちまくるクリスの攻撃はみずから生み出したであろうノイズにまで及ぶ。そして、それはトレーラーへも。外壁を吹き飛ばし、中からデュランダルが放り出される。それを見たクリスがチャンスとばかりに取りに向かうが――――
「させるか!」
行く手を援護に来た翼に阻まれる。毒づくクリスにニヤリと笑い、そして響がデュランダルを回収する。
完全聖遺物デュランダル。アマダムやネフシュタンと同じ物。これを使えば、いっきに逆転できるし、ユウ兄を守れる!
その一心で響はデュランダルにエネルギーを込めた。
しかし、そこでアマダムが雄樹に警報を示す。“アレを起動させるな”、と。しかしそれが理解できるようになるまでの間に事は進み、響はデュランダルを起動させてしまう。そこから放たれる不吉な波動。さながら空気に波打つかのように広がるそれは不快指数を高め、得体のしれない不快感を心に刻む。
苦しむように唸る響。なにが起こるのか見守る翼とクリス。直後―――――それは起こった。剣を掴んだ腕から黒い影のようなものが広がり、やがて響を包む。
声にならない声が、雄叫びをあげた。
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