戦姫絶唱シンフォギア/K
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EPISODE17 再会
キメラとは、複数のノイズを合成し、より強化された肉体を持つ躯体のことを言う。合成されたことにより発現する能力は完全にランダムであり予測することはできない。つまり、作った本人も暴れ出すまでどんな能力を持っているのかはわからないのだ。そしてたとえ生み出したとしてもソロモンの杖という完全聖遺物をもってしてもその意識を完全に手中に置くことはできないという欠点を持つ。
こういった観点からこのキメラという突然種は極めて厄介な存在と言える。この厄介さは前回戦った翼と雄樹にはよくわかる。迂闊に攻撃に出たら何をされるかわからない。まずは遠距離か、距離を極力置いた近接で対抗するしかない。
赤から青へ変わり近くの鉄パイプを足で蹴りあげ、己の得物に変える。
「援護します」
『ありがとう。フッ!』
翼の援護を受けつつ雄樹は跳躍してキメラの前に躍り出る。そして――――攻撃の隙を与えずに一突き。アクションを起こさせる前に短期決戦で勝負を決める。しかし紋様がキメラの身体に浮かび上がるも、それはすぐに消えてしまう。有効打にはなりえなかったということか。すかさず雄樹は跳び退いて赤へとチェンジして走り出す。飛び上がって一回転した後のとび蹴り。エネルギーを足に収束させた蹴りで敵を蹴るが・・・・それでも効果がない。
身体が驚くほど固い。さっきから自分が攻撃しているのにもかかわらず防御の意志すら見せないのはその為か。こうなれば――――
「ならば、これでどうだ!」
翼が連撃の後、大刀を一振り。殴り飛ばすことには成功したものの、またすぐに起き上がる。あの斬撃を喰らってもまだ傷一つつけるのがやっととは。
毒づくふたり。今度はキメラがアクションを起こした。
口からなにやら黒い弾のようなものを吐き出してきた。それをサッと避け、行く先を見る。黒い弾は近くのコンテナに直撃し爆発。続けざまに放たれたものは地面に当たって爆発したのちソフトボール代の穴をあける。威力を見る限り爆発効果を含んだ鉄球・・・・・といったところか。どのみち今のままでは相性が悪い。なんとかしてこの敵を倒さなければならないが今のところその手段はない。このまま消耗戦になるかと思われた、その時。突如キメラが苦しみ出し身体を悶えさせ始めた。チャンスと剣を構え振りかざす翼だがそれを察知したキメラが海にとびこんだことでそれを止める。
取り逃がした・・・・・というより、なにかの異常をきたして自ら逃げたような気さえする。
ともかく、
「あの強靭な肉体・・・・私の剣でも通らなかったか」
「でも、翼ちゃんの攻撃は通ってた。傷もちゃんとついてたから、今度はもっと強い剣とかでやれば倒せると思う」
「しかし蒼ノ一閃では範囲が広すぎます。それ以外では、あの身体を貫くことは・・・・」
「・・・・ちょっと付き合ってくれないかな。考えがあるんだけど」
♪
~AM 12:00 七色ヶ丘~
「なるほど・・・・よし、あとでキッチリ責任とらせよう」
「未来が恐い・・・・!」
バスの中で黒いオーラを漂わせる親友に恐れをなす響に抗議の声をあげる。
「だってせっかく約束してたのにドタキャンだよ!?あの時言ったことがさっそく嘘になっちゃったよォ・・・・」
かっこつけて「裏切られたことない」なんて言った矢先にこれだから手におえない。あの気まぐれで猫みたいな性格は早くどうにかしてほしいものだとふくれっ面になる未来に響はただ苦笑する。
現在、二人は隣街である七色ヶ丘へと向かっている。雄樹に頼まれた“おつかい”を果たす為にバスに揺られることおよそ30分ほどにその町はある。都心のように賑やかさはないが、落ち着いた雰囲気のある街で都会のごった返した空気とは一線を引いたような感じである。ノイズによる被害もあってか、あまり活気は感じられないのも要因の一つかもしれない。
「あ、ここだ」
目的のバス停を見つけてボタンを押し、下車する。約束の時間まで少し――――というよりかなり時間があるので少しふらつくことにしてのんびする。
「そういえばその先生ってどんな人だっけ?たしか私達が入学する前にはもういなくなっちゃってたよね」
「そうだね。えっと、特徴はピンクの髪に眼鏡、それから――――笑顔って、どんだけアバウトなのさユウ兄・・・・」
頼むならもっとしっかりと特徴を書いてほしいものだ、と苦情を入れやっぱり帰ったらお仕置きしなければと決意し仕方なくその人物を探す。
「・・・・お腹減った」
響の腹の虫が声をあげる。相変わらずイイ泣き声だと苦笑して近くにあった喫茶店に入る。
「いらっしゃいませ~。お、今日は美人さんが多いね」
いきなり口説かれたけどここはあえてスルー。となりでやたら照れてる響の手を引いて席に座ると店員らしき人が水とメニューをもって現れたのでそれらを受け取る。
「ごめんなさいね。ウチのマスターってかわいい子とか見るといつもこうだから」
綺麗な人だな・・・・、それが二人が抱いたその店員の女性への第一印象。綺麗の中にかわいさも兼ね備えているのは同じ女として憧れるなと思う未来だが、その後ろに見えるもう一人の客に目が行く。
ピンクの髪に眼鏡。それから――――
「ん~、やっぱりポレポレのスパゲッティは最ッ高!ウルトラハッピー♪」
「ハハハ、相変わらず口癖だけは昔のまんまだね」
笑顔。ちょっと違う気もするがこの人に違いないと未来は響に話しかけるも、とうの本人はすっかりスパゲッティに夢中なようでさっぱり目的を忘れている、それどころか今近くにいる存在のことも疑うことすらしていないところを見ると完全に食べ物に意識がいっている。それにため息をついて「あの人と同じものを二つ」と店員に言い、響が「私大盛り!」と元気一杯に言う。その瞬間、喫茶店のマスターの雰囲気が変わった。
「・・・・お嬢ちゃん、この店で大盛りって言ったね?」
「ふぇ?あ、はい。言いましたけど・・・・」
ちょいちょい、とマスターが指差すその先にはなにやらポスターに殴り書きで“挑戦者求む!大盛りスパゲティ”と書いてある。なるほど、これに強制的になる、ということか。理不尽な店だと思いつつ未来はすっかりやる気で闘志を燃やす響にまたため息。止めても降りないだろうと親友の頑固さと猪突猛進に呆れながら「それでお願いします」と注文。カウンターのマスターが挑戦的な笑みを浮かべるのが若干気になるが・・・・触れないほうがいいだろう。多分。
「きみ凄いね~。ここのスパゲッティの量半端ないよ?」
「望むところです!と、あ~!?」
そこでようやく気付いたようで驚く響。なんで教えてくれなかったんだと抗議の声をあげるが気づかない方が悪いと一蹴されてうな垂れる。
「えっと・・・・大丈夫?」
「気にしないでください。それより、あの・・・・・」
「ああ、自己紹介しなきゃだね。私は星空みゆき。一応こんなでも先生なんだ~」
えへへと笑うみゆき。ああ、やっぱりこの人だったんだと納得する未来はさらに続ける。
「私は小日向未来です。こっちは友達の立花 響っていいます。あの・・・・私達、実は雄樹さんから頼まれて――――」
「雄樹君?彼、今元気にしてるかな?」
かなりの食いつきよう。これはいったいなんなんだろうかと思いつつはいと答えると、
「そっか・・・・そっかそっか・・・・」
と、なにやら感慨深そうに呟くので今日約束を破ったことを言うとそれに苦笑される。
「でもさ、雄樹君、必ずあとでちゃんと守ってない?」
「それは・・・・まあ、そうですけど」
「だったら大丈夫。きっと約束守ってくれるから」
笑顔とともにサムズアップ。それを見てまた思う。ああ、やっぱりあの人の先生だな――――と。似ているところが多いのか、なんだか自然と気を許してしまうあたり自分も甘いな、なんて呟く。
「あの!よかったらユウ兄のこと教えてもらえませんか?」
「・・・・うん。もちろん!」
♪
~PM 13:00 風鳴邸道場~
乾いた音が静まり返った道場に鳴り渡る。白と紺の二人が一本の竹刀をその手に携えてぶつかり、離れてを繰り返す。白い方は紺の方よりも体格差があるにも関わらず臆することなく攻撃に出、むしろ押していると言える。やがてその猛攻も竹刀が面を捉えたことにより終了する。面を取り、汗だくになりながらあがる息を整える。
「これで20回目・・・・付き合うのは構いませんけど、これで何か意味あるんですか?」
「うん。クウガの色なんだけど、最後は紫らしくって、それが剣を使うみたいなんだ。だから同じ剣を使っている翼たちゃんとこうしていれば、なにかヒントを掴めるかもって」
アバウトだ。心の中でツッコミを入れる。
「・・・・剣を使う者として伝えられることは全て伝えます。ですが私も不器用な身。あなたに教えられるかどうか・・・・」
「大丈夫!翼ちゃんとの特訓なら絶対に何か見えるはずだから」
サムズアップで答える雄樹に翼は少し笑って頷く。
「あのキメラの装甲を貫くにはそれなりに接近してから鋭い太刀筋で相手を切り伏せることが必須です。あの攻撃を見る限り、接近する過程で攻撃してこないとも限りません。おそらくはあの弾を撃ってきます。なので方法は一つ――――近づいて一撃で切り伏せる。これです」
シンプルにして最も有効。これ以外で倒せるのは――――多分、ない。何かを確信したように笑う雄樹に翼は首をかしげる。
「やっぱり翼ちゃんに頼んでよかった。ありがとう」
「・・・・お礼なら、あとでなにか御馳走してください」
「うん、もちろん!」
照れているのかそっぽを向く翼。本人が言うだけあってホントに不器用だなと思いつつ二人はまた特訓を再開した。
♪
~同時刻 七色ヶ丘~
「いや~、食べた食べた」
ポンポンとお腹を叩く響。女の子らしからぬその仕草に今日何度目のため息なのかわからないため息をつく。こんなんだからいつになっても彼氏ができないんだと思うも、それは自分もか、と軽くショックを受ける。
「それにしてもすごかったよね響ちゃんの食べっぷり!おじさん驚いてたよ」
「むしろ若干顔が青ざめていた挙句泣いてたような気もするんですが・・・・」
よほどの自身があったんだろう。あの量は大盛りってくくりに入れるのは間違っていると心底思うがそれをあっという間に平らげてしまう響も異常だ。
「でも意外でした。ユウ兄にそんな時期があったんですね」
「うん。…雄樹君、お父さんとお別れしちゃってからまるで人が変わったみたいに落ち込んじゃってね・・・・色々大変だったんだよ。雄樹君、お父さんのこと大好きだったから」
そこで知らされた驚愕の事実。父との別れと、そして――――家族との別れ。ミスターお人よしのあの雄樹がそんな風になっているとは想像もつかない。いつでもどんな時でも笑顔を忘れなかっただけにその驚きは大きかった。
だからこそ今ならよくわかる。あの笑顔の裏に隠された悲しみや絶望。
極端に人の涙や笑顔に反応するのはその為。もう誰にも自分と同じ物を味わってほしくない。もしそれが他の存在によって脅かされるのなら戦うことをためらわない。たとえそれで自分一人が傷つくことになろうとも、誰かを笑顔にしたい。そう信じ、疑わないからこそ彼は強い。決して曲げず、俯かない。たとえ、どんな時でも。彼が“怒ったところすら見たことがない”二人にとってそれはとても衝撃的なことだった。
「・・・・やっぱり封鎖されちゃってたか」
いつの間にか校門前まで来ていたことに気づく。比較的新しい作りのような気もするがノイズの被害で今は廃校。すっかり生徒も減り廃校にならざるを得ない状況になってしまった。
時計を見て時間を確認するみゆきを見てタイムリミットが近いことを悟る。
「あの、入りませんか?中に」
「へ?ちょ、響!?」
「待ってればきっと来ますよ。それに未来も言ってたじゃん。ユウ兄を信じて裏切られたことないって。それは私も同じ。しかもこんな綺麗でかわいい先生と約束して来ないユウ兄じゃないって」
フェンスを強引にどけて中へと入る。それに続いて未来とみゆきも中へと入っていった。
♪
~PM 15:00 港~
包囲網の敷かれたその場所で雄樹は静かに対象の出現を待つ。ビートチェイサーから聞こえてくる報告に逐一耳を染ませながら、目を閉じそのときを待つ。翼はキメラを発見し作戦通り追い込んでくれている。あとは、自分次第。
静かに目を開ける。それと同時にキメラが海中から姿を現し、陸地へと躍り出た。水上スキーから跳び、翼も所定の位置で待機する。
「変身!」
雄樹を確認したキメラが黒い弾を変身と同時に放つ。直撃したかと誰もが息をのむが、すぐに現れた姿にほっと息をつく。紫の鎧に身をつつんだクウガが、そこに立っていた。ハンドル型の起動キーであるトライアクセラ―を引き抜き、構える。それが手首のリングがキラリと光り、エネルギーが包み剣へと変える。
そしてゆっくり、ゆっくりと歩く。その最中、幾度となくキメラは黒い弾を吐くもまるで効果はない。キメラにもし理性や感情というものがあったならこの光景はまさに恐怖だろう。自分の一切の技が効かず、しかもこちらに向かってゆっくり歩いてくるのだから。逃げ出そうにも後方には翼がいる。
キメラに、逃げ場はなかった。悪あがきで黒い弾を吐くも片腕でそれを防がれ、叫びと共に雄樹は剣を突き刺す。あれだけ固かったキメラの皮膚もその攻撃になすすべなく難なくそれを受け入れ、身体に封印エネルギーがまわり―――――やがて灰とかえした。
終わった・・・・・ふぅ、と息をついて雄樹に歩み寄る翼だが直後『ああ~!!』という声に思わず身をすくめる。
『翼ちゃん、今何時!?』
「えっと、15時ですけど・・・・」
『ヤバい、時間ない!――――あ、特訓ありがとう。今度なんか御馳走させて。それじゃ!』
バイクに跨りトライアクセラ―をさして起動させ、急発進する。去りゆく姿を見て苦笑しながら「あ」と呟く。
「変身したまま行っちゃった・・・・」
♪
あたりはすっかり陽も傾き、星が空に光始めている。一見不気味に映る校舎だが、みゆきにとっては青春をすごした懐かしい場所でもあり、自分が教師となって初めて来た場所もここだっただけにそう言った怖い印象はまったくない。
懐かしい教室に入る。受け持ったクラスの教室がここだ。まだ机も椅子もある。規則正しくならんでいるところを見ると、まだ工事には入っていないらしい。未来と響は適当な場所に腰掛けてみゆきが教壇に立つ。そっと目を閉じるとあの頃の記憶が鮮明に蘇ってくる。
「・・・・私ね。先生やめよう、って思ってるんだ」
「え…なんでですか?」
「なんていうか、色々と悩んじゃって。生徒とどう接したらいいのか、とか。もともと勉強ももんの凄く苦手だったから、誰かに教えるってのもなんだかおかしくなっちゃって」
意外、そう思った。悩みとはさほど無縁な印象を受けるほど明るくて生徒受けのよさそうな人だと思っていたのにこんな深刻な悩みをもっていたとは。人はみかけによらないとはまさにこのことかもしれない。
「だから・・・・願掛けにきたの。もし、雄樹君がきたらもう少しだけ頑張ってみる。もし来なかったら、教師を辞める・・・・って」
「・・・・来ますよ、絶対」
確信した未来の声に響とみゆきは顔をあげる。その顔には笑顔が浮かんでいた。
「さっきも言ってたじゃないですか。雄樹さんのこと信じて裏切られたこと一度もないんですよ、私達。先生もそうじゃないんですか?」
信じているからこそここに来た。信じていないのなら最初からここには来ない。無意識の内に彼なら、という考えが自分の中にあったようだ。子供のころは自分の信じたとこを一度も疑ったことなどないというのに・・・・いつの間にか、そんな当たり前だったことさえ忘れていたようだ。だからこそ――――未来と響のサムズアップに驚いた。
「それ・・・・、」
顔を見合わせて首をかしげる二人。ややあって、みゆきが言う。
「・・・・五代雄樹君。こういうの、知ってますか?」
サムズアップをするみゆき。今の口調は教師としてもものだろうか。黙って二人は席に座る。
「これはね。古代ローマにから伝わる、“満足できる・納得のいく”ことをした人だけが使うことを許されるものです。お父さんが死んじゃって悲しいのはわかります。でも、だからこそ君がお母さんや妹さんの笑顔をまもっていかなくちゃいけません。・・・・誰かの笑顔の為に頑張れるって、凄く素敵なことだと思いませんか?・・・・先生は、思います・・・・」
言い終えたあと、再び俯くみゆき。やがて涙が溢れ、頬を伝う。
・・・・こんな大事なことを、いままで忘れていたのか。そう思うと、今でも自分言葉を信じ続けている彼に対し申し訳ない。それこそ裏切りだ。
私は・・・・。
「・・・・雄介さん。私、やっぱりまだウルトラハッピーになれてなかったみたいです」
誰にも聞こえないほど小さくそう呟いて顔をあげる。そして、待ち望んだ時がやってきた。
聞こえる足音、そして息遣い。響と未来は互いに顔を見合わせてハニカムと扉が音を立てて開き、雄樹が表れた。
「すみません!五代雄樹、遅刻しました!」
そういって勢いよく頭を下げる雄樹に最初は驚愕していたものの、クスリと笑う。
「・・・・雄樹君。遅刻した理由は?」
「急な用事です!」
「・・・・それは、満足いくものでしたか?」
そのみゆきの問いに顔をあげ、満面の笑みを浮かべてサムズアップする。それを見てみゆきも同様にする。彼女が浮かべた笑顔には、少し涙が浮かんでいた。
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