戦姫絶唱シンフォギア/K
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EPISODE16 恩師
~AM 10:00 商店街~
東京都内から少し外れた住宅街、そこから自転車であればだいたい5分といったところにその商店街はある。商店街とは言っても名ばかりでほぼショッピングモールと大差ないが、「昔ながらの雰囲気を残しつつ近代の風潮に合わせた街づくり」をコンセプトとした開発側と地元民の意向によりこんな風にどこか懐かしい雰囲気を醸し出しつつ都内と大差のない設備も備わっていたり、駅も近いことから休日の日は学校が休みな学生、そして家族連れでにぎわっているため人だかりも多い。
そんな中、駅の改札を潜りきょろきょろとあたりを見回す女性が一人。眼鏡をかけ、一見地味な雰囲気だがよく見れば美少女、と言っても差し支えないような幼い容姿にレディスーツを身に纏ったその姿が彼女の職業を表している。
「はぁ~、ここもずいぶん様変わりしちゃったな・・・・地元に戻っての懐かしさとはちょっと違うものがあるね」
そんな独り言をつぶやいてから「さて」と歩き出す。目指すは紙に記された場所――――“七色ヶ丘中学”。
「雄樹君、元気してるかな~」
♪
~同時刻 二課内部 櫻井了子研究室~
――――長野県九郎ヶ丘遺跡から発掘された完全聖遺物アマダム。古来より聖遺物の封印、及び破壊を主として用いられてきたそれは長年の眠りより解き放たれ現代によみがえった。
第一の体現として五代雄樹は一年前のノイズによる大量発生に伴い緊急事態としてこれを装着。直後彼はアマダムを起動させ戦士クウガへと姿を変えた。まず最初に白いクウガ。総数5つと現時点で確認されている姿の内の一つではあるものの、他の姿とは違い戦闘能力は著しく低くノイズ一体に対しての攻撃は極めて弱い。これを装着者である五代雄樹は「戦士としての覚悟が不十分だった」と解説しているが詳細は不明。
次に赤いクウガ。これこそクウガ本来の姿であると思われ、類まれなる運動神経と戦闘能力を持ち彼が変身する際はこの姿へと変わる。
第三に青いクウガ。赤とは違い俊敏性や運動能力が飛躍的に向上している代わりに攻撃力が低下しているため棒術を用いて戦う。
第四に緑のクウガ。神経系の極端な向上が見られ、視覚、聴覚などが特に強化されている模様。強奪されたネフシュタンの鎧、及びソロモンの杖の所有者により放たれた合成ノイズ、通称キメラに対し絶大な効力を発揮し近接はできないものの専用銃を使いピンポイントの射撃や援護が可能。
そして、第五のクウガ――――紫。これについては未だ姿を現さない。しかし遺跡の石碑による解析から推測すれば、これは装甲の強化されたもので、剣を使う者ではないかと予想。以後、確認次第内容を報告するおのとする。
―――――特異災害対策機動部二課 技術研究主任 櫻井了子。
「・・・・はぁ~、こういう報告書って作るの嫌いなのよね~」
やっと終わった報告書をデータに保存し椅子の背もたれにだれる了子。こういうところは普通の人と変わらないなと静かに笑いながらカップに入ったコーヒーを差し出す。
「ん~。やっぱユーちゃんのコーヒーはいいわぁ・・・・」
了子が自分のことを名前ではなくあだ名で呼んだことに今は完全プライベートモードであることを察する。
「了子お――――了子さん、いきなりあだ名で呼ばないでくださいよ。ちょっとビックリするじゃないですか」
「あらつれないわね~、いいじゃない。ここに居る以上私とあなたは教授と助手、言ってみれば先生と生徒なのよ?フランクに普段からあだ名でよんでもいいけど、そういしたらあなた響ちゃんのいいネタねされるわよ。それでもいいなら呼ぶけど」
「前言撤回します」
ならばよろしい、とコーヒーを一口。苦いながらも豆の旨味と僅かに入った砂糖の甘味が程よく眠気と疲れを取ってくれる。仕事のひと段落したあとのお酒もいいが、了子にとってはこの一杯がなによりもお気に入りだった。それだけにこの空間は誰にも邪魔されたくないとドアには開けるなという紙まで貼ってある。
「あ、そういえばユーちゃん今日誰かと会う約束してたっけ?」
「うん。俺の中学の時の先生でさ。約束してたんだ」
ウキウキと、嬉しそうに笑う雄樹。この笑顔が癒されるなとすっかりリラックスしながら椅子をクルリと反転させて脚を組む。
「へ~、二人だけの同窓会ってやつ?はたまた禁断の恋!?おばさん保護者としてそんなこと許しません!――――って誰がおばさんよ!!」
「自分で言ったのに怒られた…」
わざわざ言うのやめたのに自分で妄想にひたって挙句でた事なのに怒られるとは理不尽なことこの上ない。やはりこの人、普通とはどこか違う気がする。
「で、どこで会うの?」
「通ってた学校。廃校になるから、最後の想い出にってことでさ」
「ああ、あの学校?」
「そ。・・・・先生、元気にしてるかな・・・・」
「・・・・ユーちゃんの先生って、名前なんだっけ?たしか…ほ――――」
と、言いかけて雄樹の携帯が鳴る。呼び出しの主をディスプレイを確認し通話を押す。
「もしもし」
《雄樹さんですか?未来です。準備できましたよ》
「うん、わかった。今からいくからいつもの公園前で」
《はい》
電話を切って上着を手に部屋をでる。「いってらっしゃい」という了子に「はい」とサムズアップで返し出て行く。
空は晴天。今日はいいことがありそうだと雄樹は地上に出た。
♪
「雄樹さん、今来るって」
電話を切ってポケットにしまうと隣でクレープを食べている響に声をかける。口をもごもごさせながら「うーい」という響に苦笑しつつ頬についたクリームをハンカチでとる。さながら姉妹のようにも見えるが・・・・見る人から見たら“夫婦”に見えるのだろう。本人たちからしてみればこれが当たり前のことなのでそんなつもりは一切ないが。
「ユウ兄、そういえば今日先生に会うらしいよ」
「先生?誰?」
「ホラ、ユウ兄の中学の時の担任の先生だよ。ピンク色の髪の眼鏡かけてた」
そこまで言われて未来が「ああ、」と頷く。名前を言おうと口を開いた瞬間に響がクレープを未来の口に放り込む。最初はムッとした未来だがクレープのおいしさに何も言えずにただ食べる。「おいしい?」という響に照れながらもおいしいと頷く。こういうところがあるから未来はかわいいと響は満足そうに最後の一口を口に放り込んだ。
「ところでさ、今日はなにするの?」
「あ、うん。雄樹さんが帰ってきてから三人で出かける機会なかったじゃない?だから久しぶりに三人でどこか行けたらなって思って。だから得にプランとかは決めてないんだ」
「そか。・・・・あ、じゃあ水族館行かない?」
「最近できたとこだっけ。いいね、行こう!」
「うん!」
なんでもない会話、なんでもない普通の休日。ノイズとの戦いの日々で忘れそうになっていたけど、これが本来の私の日常なんだ。未来がいて、そこに遅れてユウ兄が来て。小さい頃と変わらない、いつまでも色褪せない思い出達と一緒でキラキラした温かいもの。
そんな、普通の時間。さて、今日はどんな一日にしよう。
♪
~AM 10:30 都内~
バイクを走らせながら雄樹はにやけそうになる顔を必死に抑える。ヘルメットをつけているからわからないが、取ったらまず引かれるのは目に見えている。少なくとも未来には白い眼で見られること間違いない。なのでこれは最悪他人に見られてもあの二人だけには絶対に見られたくない。よって今雄樹はヘルメットの中で百面相している。
懐かしの、しかも恩師に会える。それだけでここまでうれしくてテンションをあげるのだ、この五代雄樹という男は。
だが、こういいことがある日は決まって邪魔が入ったりする。そんな時彼はどうするか。答えは一つ。
約束の時間に間に合うよう、それを片づける!
幸い会うのは午後、夕方あたりだ。突如入ったノイズ出現の知らせにも迅速で対応すればなんとか時間に間に合う。あとはそこからの運次第。こういう時、手紙ではなくてメールアドレスを聞いておけばよかったと後悔する雄樹であった。ともあれ、ノイズが現れとならば急がなくてはならない。アクセルを蒸し、ルートを変えて二課に通信を繋ぐ。
「里友さん、響ちゃんの携帯に繋げられますか?」
《できるけど、どうかしたの?》
「二人にちょっと“おつかい”を頼みたいんです。ノイズの方は俺と翼ちゃんだけで大丈夫ですから!」
しばし考える弦十郎。「根拠は?」と聞き返すと「俺、クウガですから。それに翼ちゃんが一緒なら大丈夫です!」とサムズアップで返す雄樹に弦十郎は許可をだす。この会話の一体どこにそんなことにそんなことを許可できるのかわからないが一応許可が下りたのでこちらから響の携帯に繋げ、雄樹へと回線をまわす。
《もしもしユウ兄?》
「ごめん響ちゃん。俺ちょっと用事あるから、今日は多分パス。それでなんだけど、二人におつかい頼んでいいかな?」
《別にいいけど、なに?》
「先生と会ってほしいんだ。ホラ、今日メールで話した」
雄樹の提案に「ええ!?」と驚愕する響。そんな会ったこともない人と何をしろというのか。
《わかるけど、ユウ兄はどうすんの!?》
「こっちのこと片づけたらすぐ行く。だからお願い。きっと二人も好きになるよ。先生、すっごくいい人だからさ。それじゃ!」
《ええ!?ああ、ちょっとユウ兄――――》
響のことも聞かずに雄樹は通信を切る。現場までついたからだ。そのタイミング同じくして翼もやってくる。
「変身!」
クウガに変身し、翼と別れて個々にノイズの対処にあたる。場所は港、初めて赤いクウガになった場所と同じだ。すこし懐かしさを感じつつ雄樹はノイズに拳をおみまいして灰に変える。
「雄樹さん!」
翼の声に雄樹はノイズの群れの中に一際体格のいいノイズがいるのを確認する。他のノイズとは違う、感じる感覚に雄樹は直感する。これは――――キメラであると。
『・・・・』
静かに見据えながら、雄樹は一歩を踏み出した。
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