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戦姫絶唱シンフォギア/K

作者:tubaki7
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EPISODE5 日常


~AM9:00 私立リディアン音楽院地下 認定特異災害対策機動二課本部~


「おはようございます!」


ドアがスライドして司令室に元気な明るい声が響く。昨夜の疲れは微塵も感じさせないその笑顔に多少呆れつつ風鳴弦十郎は挨拶を返す。


「おはよう雄樹君。身体の方は大丈夫なのか?」

「はい。今朝も了子さんにチェックしてもらいましたけど健康体そのものだって言ってました」


白から赤へ。雄樹が初めてアマダムから受けたビジョンのなかにいたクウガは昨夜のような赤い姿をしていたという。今まで赤になれなかったのは「戦士として戦う覚悟が不十分だったから」らしいが実際のところどうだったかは本人にしかわからない。争い事とは無縁だった彼の口から「覚悟」なんて言葉が飛び出したことには十分驚いたものだ。


「そういえば響ちゃんへの説明とかはどうなったんですか?俺あのあとすぐに了子さんのとこ行っちゃったんでわからないんですけど・・・・」

「そのことなら問題ない」


と、話していればまたドアが開いて雄樹よりも元気な声が聞こえてくる。制服ではなく私服で来たあたり今日は学校は休みなんだろう。


「あ、おはようユウ兄」

「おはよう響ちゃん。身体、大丈夫?」

「へーきへーき。まだよくわかんないけど、私ノイズと戦えるみたいでさ。てかそう言うユウ兄こそどうなの?なんか了子さんの話だといろいろわからないこと多すぎて・・・・」


専門用語のオンパレード、尚且つギアとの融合という特異ケースの響だ。これに興味を持たない櫻井了子ではない。熱弁した挙句最後には「くまなく調べさせてほしい」と鼻息荒くして迫ってくる彼女の姿が目に浮かぶ。自分の時もそうだっただけにかなり大変だっただろうと苦笑する。あの歳で男っ気ないのはたぶんそれも原因の一つなんじゃないかなと思いつつ、


「大丈夫。俺もさっぱりわからないから」

「そっか。なら大丈夫だね!」


ガン!という音が複数鳴り響く。なんでそうなるんだという視線を受ける二人だがそんなことまったく気にしていないようで笑顔でサムズアップのあと「がははは」と笑いあう姿をみて誰もが思う。

ああ、こいつらどうしようもないバカなんだと。

あの説明がなくても多分わからないな、似た者同士だしと割り切りオペレーター陣は自分の仕事に戻る。一人のこされた弦十郎は苦笑いしつつ今日ここに呼んだことの説明に入る。

ふたりが理解しやすいよう、言葉に最善の注意を払いながら。


「響君にはここに出入りする為のパスの発行手続きだ。一応国のお抱え機関だからそういうところはキチンとしておかなければならなくてね。で、雄樹君にはちょっ見てもらいたいものがあるんだ。藤尭君、頼むよ」


響にはオペレータの一人である同じ女性の友里あおいが、そして雄樹に同じくオペレータの藤尭朔也があてがわれる。おんなじ女性ということもあり響も話しやすいと弦十郎の配慮だ。・・・・本来は翼あたりに頼んでいたのだろうが「仕事がある」の一言で一閃されたに違いないと内心苦笑する。あの一見以来多少なりとも心を開いている叔父にたいしても最近は態度がつめたくなりあからさまに仲はよろしくない。雄樹にしろこの組織の人間にしろ最低限の会話はするがそれ以上のことは話さない。マネージャーの緒川でさえその程度なんだ、ほぼ仕事上の付き合いしかない自分たちにはなくて当たり前なのかもしれない。・・・・いや、仮にそうだとしてもダメだ。あんな表情、防人の運命を背負った身だとしてもあの歳の女の子がしていい顔じゃない。

 今度会ったらちゃんと話をしよう。逃げられても、ちゃんと言葉を交わさないと。

・・・・ストーカーと言われない程度に。










友里あおいを先頭に通路を歩きながら響は辺りをきょろきょろと見回す。初めてここに来た時は緊張と驚きのあまりじっくり見る暇もなかったが改めて見るとこんな場所が本当に学校の下にあっただけで驚だ。

と、そうだったと手を叩く。


「あの、ユウ兄――――、は前からここに居たんですか?」


愛称でもいいのかなと一瞬思考しここがアットホームな場所だったと思い出して言い直しはせずにそのまま続ける。


「ええ。以前は彼のお父さん、五代雄介さんもここにいたんだけど旅にでるって言って急にいなくなっちゃったのよ。で、その後に来たのが雄樹君ってわけ。元々司令と雄介さんの仲がよかったから彼もちょくちょくここに来てたみたい。で、大学で考古学専攻してた縁もあり櫻井教諭と知り合ってそれから二人してあっちこっちの国飛び回って見たり、急に「俺冒険行ってきます!」って一人で飛び出して行ったり、割とやってることはお父さんと変わらないわね。捕らわれないというかなんというか・・・・つかみどころがない人ね。あ、これ本人には内緒でお願いね?」


悪戯ぽっく笑うあおいに大人の女性としての魅力を感じつつ「はい」と返事をうつ。



「それで、ユウ兄のお父さんは今どこにいるんですか?私小さい頃会ったくらいで・・・・」


その質問に、あおいの顔が困ったような顔を浮かべたことに首をかしげた。なにかマズイことだったんだろうか。それとも冒険に行って連絡がつかないとかなのだろうか。


「・・・・雄樹君から聞いた方がいいんじゃないかな?手続きが終わったら案内するわ」


どことなく、淋しそうな感じがした。










扉を開けると、そこは真っ暗な空間だった。声の反響の仕方からしておそらく広さはさほどない。物置・・・・かなにかだろうか。


「物置じゃなですよ」


考えを読まれて苦笑する。多少失礼だったかもしれないと「すみません」と言うと「僕も始めはそう思ってました」と笑いながら部屋の照明のスイッチを入れる。部屋の中が蛍光灯により明るく照らされ、内部が明らかに。

 なにやら計器的な設備があちこちにあり、段がさがったところにはバイクのようなものが。長年旅の相棒として連れ添っていた愛車は昨夜爆発してしまい紛失してしまっている為雄樹にとっては感激の光景だ。


「司令が雄樹さんを呼んだのはこれの為なんです。是非見てほしいって」

「ホントですか!?・・・・あ、でもなんで俺なんです?」


これを見せるというだけなら別になんてことはないが名指しで来て、尚且つあの弦十郎が他人に自慢などしたところを見たことがない。理由がある、すくなくともなにかしらの。


「当初は翼さんの天羽々斬専用のバイクとして開発を進めていましたがちょっとスペックがピーキーになりすぎてしまって。それで、もしかしたらクウガのあなたなら使えるかもしれないと司令が」


なるほど、と言いながらも雄樹の目はバイクにくぎ付け。どうやらかなり気に入った様子である。「普通に乗る分には問題なく乗れます。バイクおしゃかになったばかりですし、よかったらどうぞ」と言われ二つ返事でまたがるが、ハンドルにおこうとした右手が空を切ったことに疑問を抱く。さっきは夢中できがつかなかったが、よく見ると右ハンドルだけない。


「これが起動キーです。そこに挿してください。システムが立ち上がりますから」


小型のケースからバイクハンドルを取り出し、受け取って挿し込むと車体に色が灯る。全体的に黒を基調とし、所々に赤が入っている。正直な感想としては――――


「か・・・・かっこいい!!!」

「あ、響ちゃん」


手続きが終わった響が中に入ってくる。さきほどの光景を見ていたようで感激のまなざしで見ている。


「ちょうど今日これから走行テストをするところだったから二人で街中ドライブでもしてくれば?司令には私達から伝えておくから」


ヘルメットを受け取り二人して「はい!」と返す。前のハッチが展開され、目の前に通路が現れる。響を後ろに乗せてアクセルを蒸し「行ってきます」と言い発車する。響の高テンションの声が通路を賑わせ一気に外へと出る。太陽の日差しに一瞬目をしばたたかせるも、テンションは変わらない。


「こらこら、暴れない」

「あははは…はーい」


大人しく、だがワクワクは最高潮に響は鼻歌を歌う。こんな様子を見ているとホントに変わらないとちょっとだけ安堵する。

 ・・・・――――否、変わっている。中身はそのままでも・・・・


「・・・・あの、響ちゃん?」

「なに?」

「ちょっとだけ離れてくれるとうれしいかなぁ~、なんて」


首をかしげる響。まるでわかってないといった感じに苦笑いしつつ背中に感じるすっかり女の子から“大人の女性”にせいちょうしつつある感触から意識を反らそうと運転に集中する。

 そこで、響がなにか思いついたように口を開いた。


「あのさユウ兄。お父さん・・・雄介さんて、今はどこにいるの?」

「・・・・多分、遠い空の下にいると思うよ。俺も結構会ってないけど、多分母さんも一緒じゃないかな。きっと二人でいろんなとこ冒険してると思う」

「そっか・・・・」


それっきり、しばらくの間二人に会話はなかった。ただ、ちょっぴり哀しくも温かい感じが響の心を満たした。  
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