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戦姫絶唱シンフォギア/K

作者:tubaki7
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EPISODE3 変身

~PM 17:00 テレビ局内 風鳴 翼 楽屋~


「失礼します」


入室を問う声に承諾の意志を示すとガチャリとドアが開いて男が入室してくる。いつもの人懐っこい笑顔を浮かべて手に持った袋を掲げて「差し入れ」と一言。よくもまあここまで来れたなと半ば呆れつつ感嘆する。この男、神出鬼没にもほどあがる。アポイントメントという言葉はないのか?

 まあ、声から判断して楽屋に入れてしまう自分も浅はかだが。

ともあれ、好意はうけとっておこう。


「ありがとうございます。・・・・わらびもち、ですか。私これから歌番組の収録なんですけど」

「あらら…緒川さんからこれ好きって聞いたんだけど・・・・」


彼も余分なことを・・・・とまたため息。


「いえ、大丈夫です。今日はこれで仕事も終わりますので。五代さんは?」


箱を開けて食べている。この男、まるで遠慮がないのは何故だろうか。あまり会話のなかったことから彼のことをイマイチ知らな過ぎるが多少なりともわかることがある。たとえば――――


「俺も今日は終わり。・・・・あとはちょっとパトロール、かな」


もごもごと頬張りながら翼の受け答えに応じる、なんて中身が外見と反してかなり子供っぽいということだけ。イマイチ掴みどころのない雄樹は翼にとってはかなり苦手な人間の部類だ。


「そうですか。お疲れ様です」


なんの当たり障りのない答えで会話を切る翼。早く帰ってくれという意思表示でもあったのだがまったく帰る気配はないことに若干イラっとしていると、急に雄樹が声のトーンを変えてきた。その声色からふざけた話や世間話ではなく真面目なことだと悟る。仕事の話だろうか?とりあえず黙って聞くことにする。


「・・・・翼ちゃん。俺やっぱり戦ってみるよ」

「は・・・・?」


振り向くと、そこにはあの笑顔が。それが翼の苛立ちを一瞬にして加速させる。


「またそんなことを・・・・以前にもいったはずです。ノイズと戦うのは防人としての私の使命。いくらアマダムを持つあなたでも、元はただの一般人。組織に正規に所属しているならまだしも、あなたは櫻井教諭の助手というだけです。同じことを何度も言わせないでください」

「でもそれを言ったら翼ちゃんだって“天羽々斬(あめのはばきり)”を手にいれる前は普通の女の子だったでしょ?一緒だよ」

「違います。・・・・私は、防人として――――」


そこで翼は押し黙る。雄樹の笑顔を見て、なにも言えなくなってしまった。いつもなら言い伏せることなど容易いはずなのにこの笑顔を前にすると何も言えなくなるのは・・・・なぜだろうか。


――――あいつの笑顔さ、びっくりするくらいいい笑顔だろ?あれされるとなんもできなくなっちまうんだよなぁ・・・・


奏が言っていたことを思い出す。これがそうなのかと思いつつ、翼は逃げるように顔をそむけた。


「…それに、翼ちゃんの戦ってるとこはかっこよくて好きだけどさ。やっぱり歌ってる方が俺は好きだよ。翼ちゃんの歌でたっくさん元気もらってるし、俺の友達も君の歌でいっぱい元気づけられてるからさ、だから――――」

「戦うのをやめろと・・・・?ふざけないでもらえますか。私はこの身を剣とし、眼前の災悪を振り払う者、そう決めたのです」


意志は固い。覆すことはできない。わかっていたこととはいえ、それでも本音は変わらないし変えたくないのが雄樹の意志。目の前の少女が、あんなに歌うことが好きだった子が、今命の危険と隣り合わせで戦場に立っている。自らを剣とし、頑としてそれを覆すことはしない。

でも・・・・握った拳は、震えていた。


「・・・・そろそろいいですか。私、もう出番なので」


そう斬り捨てて楽屋を出ていく。雄樹のため息だけが、その場に解けた。

























~PM 18:00 都内郊外 港~


《翼さんと喧嘩した!?》


電話越しに緒川慎次の声が響く。驚愕の声に耳をキーンとさせつつ雄樹はその受け取りに語弊があるのでそれを正す。


「いや、喧嘩っていうか、ちょっと怒らせてしまいまして・・・・」

《なんて言ったんですか?》


予想がついている・・・・そんな感じの声色の緒川に苦笑いで返す。


「やっぱり俺も戦うって言ったら怒られちゃいました」


予想通り、とため息が返ってくる。翼の心中を誰よりも知る緒川としてはその雄樹の一言は禁句だと伝えていたはずなのだが、やっぱり思い通りにはいかないのが人生というもの。特にこの五代雄樹という男は人の思い通りになんて絶対にならない人物だったと緒川は再びため息。


《…とりあえず、また翼さんと話をしてみてください。無駄・・・・とは思いますが、一応謝るくらいは――――》


と、言いかけて静かな港に爆音が響いた。電話越しに緒川がびっくりしたように声をあげるのが聞こえて一応自分が無事であり、これから確かめに行ってみるということを伝える。


《なに言ってんですか!逃げてください、もしノイズだったら――――》


緒川の警告も聞かずに電話を切り、バイクを走らせた。




















~同時刻 同所~


こんなはずじゃなかった。夜の港を懸命に走り抜けながら手の中にある小さな命を守ろうと立花 響は思考する。どうすればこの状況から脱出できるのかを必死に考えながらあてもなくただ走る。

走って、走って、走って、走って。体力には自信のある響でも特別な訓練なんて受けていない彼女が全力疾走を継続できる時間もわずかであり、息が切れ、やがて足も止まる。どこまで来たかなんて考えていない、今はただあの恐怖から逃げることしかできないのだから。

後方の気配が無くなったのを確認し、ホッと息をつく。自分を心配する少女に微笑みかけてサムズアップで「大丈夫」と笑う。こんな時、こうするであろう青年のことを浮かべて必死に自身を恐怖から遠ざけながら。ここまでくれば大丈夫だろうと少し息を整えると、わずかに震える脚を抑えて立ち上がる。

 さて、帰りはどうしようか。同室の親友に心配をかけてしまった、そんなことを考える余裕が出てきたことに安堵した響に・・・・悲鳴が木霊する。

振り向けば、迫りくるノイズ。逃げようとするも、周囲を囲まれて動けない。じわり、じわりとまるで殺すのを楽しむかのような動きに毒づきながらそれでも響はこの子だけはと思考を巡らせる。たとえ自分一人が無理でも、この少女だけは助けたい。

でも、なにも浮かんでこない。諦めるかとしかできないのか・・・・・そうよぎった響の脳裏に、声が響く。


――――生きることを諦めるな


あの時、意識が薄れていく中で聞いた声が胸を高鳴らせる。そして・・・・・少女は歌う。あの時聴いた、戦いの歌を。
























バイクを走らせ、爆発の原因を探りに行った雄樹は今ノイズに追われている。やっぱりこいつらの仕業かと二課に連絡を入れるためバイクに備わっていた通信端末を操作してSOSのサインを飛ばす。あとはこれを感知して翼が来るまで生き延びればいい。

だが。



「・・・・!この歌・・・・」


突如感じた“音”に雄樹はバイクを操作して感の赴くままハンドルとアクセルを操作する。工場内を通り、やがて開けた場所に出る。そこにはノイズの大群を相手に逃げ回る幼馴染の姿が。でも・・・・


「響ちゃん!」


ウィリー走行でノイズを脅かして道を開け、輪の中に飛び込む。背後から迫っていたノイズに走らせたままのバイクから飛び降りて当て、爆発させる。とっさのことで転んでしまうが、なんとかノイズをけん制することには成功した。


「ユウ兄!ちょ、大丈夫?!」

「俺は大丈夫。それより、その姿は――――」


言いかけて、ノイズの攻撃から身を転がして躱す。その時、ヘルメットに備わっていた通信機から翼の声が響いた。焦ったような声だ。おそらくSOS信号が急に途絶えたことが原因かもしれない。これは帰ったら怒られるなと思いつつ、直視した目の前の惨状に関して改めて自分の想いを告げる。


「ごめん、やっぱり俺戦うよ!」


ヘリの音が近い。多分、こちらも見えているかもしれない。だからこそ、雄樹は言う。


《またそんなことを・・・いい加減に――――》

「こんな奴らの為に、これ以上誰かの涙は見たくない!みんなに笑顔で、いてほしいんだ。だから見てて。俺の・・・・変身!」


決意の声に翼は眼下にある雄樹の姿を見る。ギアを纏うことも忘れ、その姿に視線が釘付けとなった。

 ヘルメットをとり、腕を肩幅に開く。腰にアマダムが現れ、それに手を当て、構える。左側のスイッチの上に置いた左手を右手で押しそして……ノイズを“殴った”。そのことにだれもが驚愕するなか、一緒に乗って光景を見ていた緒川は初めて彼が変身した時のことを重ねる。

雄樹に触れたノイズが灰と消え、また蹴られたもう一匹が灰と消える。段々と姿が変わっていき――――。


「これが・・・・戦士、“クウガ”」


今、古代の英雄が再誕した。
 
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