普通だった少年の憑依&転移転生物語
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ゼロ魔編
024 翻意の≪閃光≫ その2
SIDE OTHER
ユーノがワルドに“崩”の集中砲火を浴びせ続けて5分。“崩”が消えたら、また“崩”。そんなループを続けていると、ついぞユーノの精神力が保たなくなってきた。ワルドを閉じ込めていた“円”の結界も消える。
「……〝遍在〟だったか」
どうやら“崩”が当たる前に本体と成り代わっていたらしく、ユーノは周囲に誰も居ないのを確認して、前世の口調で忌々しそうに呟く。……更にユーノは〝なら、本体はどこに?〟と考える。
「ウェールズが危ない」
そもそもワルドは、ウェールズと一緒にどこかしらへて行った事を思い出し、ワルドが何をしようとしているのか思い至った。
……因みに、先程の“崩”でワルドが持っていたウェールズからの手紙を燃やしてしまっているのだが、その事にユーノはまだ気が付いていない。……ワルドが持っているのを知らなかったと云う事も有るが。
SIDE END
SIDE 平賀 才人
「……ハァッ…ハァッ…サイトっ!」
厨房にて〝料理〟と云う名の闘争を制した俺は、暢気に厨房でお茶を啜っていると、いきなりユーノが息を切らしながら厨房に入ってきた。……何故か眠っているルイズを“レビテーション”で連れ立って。
「とりあえず落ち着け」
「落ち着いてられない! ウェールズが危ないんだ!」
ユーノの口調が前世に戻っているのを気が付いた俺は、不審に思い仙術でユーノの言っているウェールズの気を探る。
「そう云う事かっ! ……“腑罪証明”」
ウェールズの気を探ると、ウェールズの気が少しずつ小さくなっていて、もはや風前の灯火であるので一刻の予断も許されない事を悟った。……そこで、ユーノが居るのにも関わらず“腑罪証明”直ぐ様ウェールズ──とワルド子爵の元に跳んだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「がは……っ!」
「貴様はっ!」
「何をやっている、子爵」
目を開けると胸の辺りをウェールズの執務室らしい部屋で、ワルド子爵のレイピアに貫かれていて、鮮血を舞わしているウェールズ殿下。
「がはっ……!」
俺は考えるより先に、〝武装色〟で強化した右腕でワルド子爵──ワルドの顔を殴り飛ばしていた。
「ぐっ……! 彼は……っ!」
「まだ息は有るな? ……“五本の病爪”」
唸るウェールズ殿下。まだギリギリ息が有って、俺に何かを伝えようとしている。……だが俺はそんなウェールズを意にも留めず、爪で引っ掻いた相手の病気を操る能力…“五本の病爪”でウェールズの傷を治療する。
「ミスタ・ヒラガ…君は一体──」
「ウェールズ殿下、とりあえず──っ!?」
「……余計な事をしてくれる」
「ワルド子爵──いや、ワルド。お前は何をしていた?」
倒れているウェールズ背負おうと膝を曲げようとした瞬間。風の刃──恐らく“エア・カッター”が飛んで来た。だが、それは〝見聞色〟に依って判っていたので、当たる訳も無く普通に避ける。……ギリギリだったがウェールズ殿下にもワルド子爵の魔法は当たっていない。
顔を腫らし、最初の精悍な顔付きの面影は全く無く、ワルドは俺に怨嗟の声を投げ掛けながら立ち上がって来た。……そこらの破落戸なら〝武装色〟で殴られたら大体1発でノックアウトするが、そこは腐っても軍人。俺の拳が当たった瞬間に、意図的に後ろへと跳んだのだろう。
「見て判らなかったかい? アルビオンの王子を殺したんだよ」
「……それは残念だったな。ウェールズはまだ生きてるぞ」
表面上は取り繕っているが、俺の内面は絶対零度もかくやな温度で充たされていた。ワルドに対する認識が〝いけ好かないヤツ〟から〝倒すべき敵〟にシフトチェンジしていくのが判る。
(ああ、だからユーノは……)
ユーノがワルドの事をどことなく冷ややかな目で見ていた理由が判った。〝言ってくれれば〟とは思わなくもないが、あの時は証拠も無かった事だし、ただ単にワルドは裏切り者だと言われたとしても、俺はそれを信じなかったかもしれない。……だから、それは仕方ないのかも──と云う事にしておく。これ以上考えても推測にしかならないし。
「こん…はずじゃ…かっ…」
「何を言っている」
「思えば君の所為だったんだ! ……ルイズに魔法を使えるようになんかするから、僕の計画に狂いが生まれたんだよ!」
ワルドは怨嗟の声をそのままに俺へと吠える。
「僕はトリステインの様な小国の隊長なんかで満足する気なんか更々無い。その為にレコン・キスタに入ったんだ! ……それに、君さえ居なければ、ルイズ──ルイズの〝虚無〟は僕のものだったんだ!」
最早、ワルドのそれは子供の癇癪に等しかった。
「ご高説どうも。だが無意味だ。……仕事だデルフリンガー」
<応よっ!>
“剃”の速度でワルドに肉薄し、ワルドの首と胴体をザクン、と泣き別れにさせてやる。……が、ワルドの身体は霧散した。
「〝遍在〟だった──」
――バチィ
そうごちり切る前にいきなり現れる胸元の違和感と俺の血に〝染められていない〟銀色の刃。……そして、その傷口からスパークを漏らす俺の身体。
「何故だっ!? 何故血が出ない!?」
……模擬戦らしい模擬戦はドライグとしか行っていなくて、自身でもすっかり忘れていたのだが、“ゴロゴロの実”を食べて以来殆どの物理攻撃は無力化出来るのだ。……ドライグはちゃっかりと、さも当然の様に〝武装色〟で強化して殴ってくるが。
「くっ、僕の〝遍在〟がっ!」
「よもや〝遍在〟を使えるのが自分だけだと思ってないよな?」
自分の〝遍在〟が消えて、城内に隠れていたワルドの〝遍在〟を消した旨の情報が頭の中に流れ込んで来た。
「っ! ……化け物め……!」
「じゃあな」
――ゴトッ
ワルドの首が地面に落ちる。今度こそワルドの首と胴体を泣き別れにした。……〝こうするしかなかった〟、〝ワルドにもう後は無かった〟、〝ワルドは裏切り者だ〟等々の自己暗示を掛けながら。
(〝化け物〟ねぇ……)
<(相棒……)>
「(ドライグ、大丈夫だ。問題ない)」
俺の心情を慮ってくれたドライグから心配する様な声音で声を掛けられる。初めて向けられた怨嗟の聲。その事については想うところも無いこともないが、今の自分がしなければならない事をする。
「“間違いなく放火 ”。……人間死なば皆仏。ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド、始祖ブリミルの御許に逝けると良いな」
デルフリンガーを〝倉庫〟へとしまい、火を司るスキル…“間違いなく放火 ”で浄化の炎を生み出し、その炎でワルドの遺体を焼く。
「燃やすのかね!?」
「ええ」
そんな事をしていると、ウェールズ殿下が俺のいきなりの行動に驚きながら訊いてくる。……ハルケギニアでは土葬が一般的らしいので、首を刎ねられ間違い無く死んでいるだろうワルドの遺体をわざわざ焼いている俺は、ウェールズ殿下からすればなかなか奇異に映っているだろう。
ただ、レコン・キスタには方法は判らないが、死者を動かせる方法が存在していると判っている手前、ワルドの遺体をおめおめと安置して置くのも下策だ。
「「サイトっ!!」」
「サイト、無事かいっ?」
「殿下っ! ご無事ですかっ!?」
ワルドの遺体が完璧に燃えかすと化して、ウェールズ殿下と2人で無言で次の言葉を互いに探り合って居ると、闖入者──ルイズにユーノとギーシュ、そしてウェールズ殿下の執事であるパリーさんが入室してくる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ワルドを討ち、ルイズ達が闖入してきたあの場を何とか〝ウェールズ〟と抑えてから、明くる日。
「殿下、単刀直入に申します。トリステインに亡命なさいませ」
「……それは無理な話だよ。ミス・ヴァリエール。今の状況は〝サイト〟のお陰でそれほど逼迫していなし、仮にトリステインに亡命してもアンリエッタに迷惑を掛けるし、ひいてはトリステインを戦火の渦にしてしまうかもしれない」
ルイズはアンリエッタ姫の依頼を果たさんと、必死にウェールズにトリステインへと亡命する様に説得していた。だが、ウェールズはルイズの言う事に耳を持たず、頑としてトリステインへの亡命を拒否する。
……因みに、何故呼び捨てにし合っているかと云うと、ワルドを討った後、ウェールズの執務室に雪崩込んできた皆を訳知りのウェールズと丸め込んだ時に謎の連帯感が生まれ、そのまま友誼を結び、名前を呼ぶ事を強せ──許可されたからだ。……俺の胃のライフが減ったのは言うまでも無い。
閑話休題。
「でもっ……! サイトも黙ってないで何か言って!」
何故か俺に飛び火したし。……まぁ、折角出来た友人を死なせるつもりは更々無いから構わないが。
「なぁ、ウェールズ」
「なんだい? 我が友よ」
「俺を雇わないか?」
「「えっ!?」」
俺のあまりにもあまりな提案に、その場に居たルイズとウェールズは異口同音に驚いた。
SIDE END
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