普通だった少年の憑依&転移転生物語
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ゼロ魔編
023 翻意の≪閃光≫ その1
SIDE 平賀 才人
ニューカッスル城には表立った人間たちのお陰で無理矢理だが、何とか入城する事が出来た。ニューカッスル城に入った途端、城の皆は俺の演説を聞いていたらしく、盛大な歓待を受けた。……そして、そんな中で俺は──
「君達のお陰で──特にミスタ・ヒラガ、君の演説のお陰で貴族派に操られていた人間の大半をこちらに取り込む事が出来た。このウェールズ・テューダー、心から礼を申し上げる」
……俺はと云うと、金髪の美青年に──彼の≪プリンス・オブ・ウェールズ≫に頭を下げられていた。
(嗚呼、胃が痛い)
先ず、操られていた人間達を表立たせた理由は、ただ単にそちら方が安全にアンリエッタ姫様の書簡を預かっているルイズをより安全にニューカッスル城へと届けるためだけだったので、ここまで喜ばれるとは思わなかった。
「……とりあえず、礼は受け取りますから頭を上げて下さい。俺は、より安全にルイズをこの城に連れて来る為に最善策を執っただけですから。……ルイズ、親書を」
「わ、判ったわ。……初めまして、ウェールズ皇太子殿下。私、トリステイン貴族…ヴァリエール公爵家が三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと申します。この度はアンリエッタ・ド・トリステイン姫殿下より、親書を届けに参りました」
「ははは、堅いな。もう少し崩して貰っても構わないよ。なんてったって、トリステインの公爵家のご令嬢なら、遠縁だが僕と親戚だからね」
「殿下、お戯れを…こちらが親書です」
ルイズはおそるおそると、親書をウェールズ殿下へと親書を渡した。これでアンリエッタ姫からの〝お願い〟は一段落着いた事になる。ルイズも何かやり遂げた顔と安堵した顔を足して2で割った様な顔をしている。
「別に冗談でも何でも無かったのだが。……うん、これはアンリエッタの印に間違い無いね。アンリエッタ・ド・トリステインからの親書、このウェールズ・テューダー、確かに受け取った。さて、今日はもう遅い。明日──は都合が悪いな。明明後日にはトリステインへの船を出させるからそれまではゆっくりと寛いでくれ」
「殿下、頼みたい事が……」
「ワルド殿、どうかしたのかね?」
「ここでは──」
ワルド子爵はそう言いながらルイズに一瞥をくれ、ウェールズ殿下を連れ立った。……なぜか嫌な予感が犇々と涌いて来た。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「はい、そこの〝俺ら〟! 突っ立てんなら、とっととこれをホールに持ってってくれ!」
「「「アイサー」」」
ニューカッスル城にあるキッチン。そこで俺はフライパンをリズミカルに振りながら、自分の〝遍在〟に料理をホールに持ってくように指示を出していた。勿論〝こんな事〟をしているのも理由が有り、自分で自分のした事についての責任を果たしているだけだ。
300人ほどの人数しか人間が居なかったニューカッスル城。突然そこにウン千人規模で人間が入ったらどうなるだろうか? ……答えは簡単、〝食料が尽きる〟だ。まぁ、食料は“魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)”の応用でどうにか──【トリコ】なグルメ怪獣を創ったりして用意が出来た。
食料問題が解決出来ても人数不足と云う由々しき問題が浮上し、そこで〝遍在〟と俺自身がキッチンへとヘルプに入った訳だ。……因みに、今はチャーハンを作っている。
(……料理が出来て良かったな)
地球では殆ど両親が不在だったので、料理を含めた家事は一通り出来る。……まぁ一口に出来るとは云っても、簡単な料理──家庭科の授業で習うような、簡単な料理くらいしか作れないが。
「チャーハン上がり~!」
出来上がったチャーハンを手早く大きな皿へと盛り付け、〝遍在〟食堂に運ばせる。因みに今まで、キッチンに俺の立てるスペースが無かったので、何故か〝倉庫〟に入っていたカセットコンロで調理していて、今まで生きて来て今日になって初めてカセットコンロを開発した人に意味も無く感謝した。
SIDE END
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
SIDE ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール
姫様から預かった親書をウェールズ皇太子殿下に届けた後、ウェールズ皇太子殿下から件の──水の精霊の名の許に永遠の愛を誓うとの旨が書かれているらしい手紙を姫様に返す様に渡された私達は各々に客室に案内された。……サイトは何故か厨房に行ったようだけど。
――コンコンコンコン
「どちらで?」
『僕だよルイズ。入って良いかい?』
「子爵様でしたか。どうぞお入り下さい」
不意にノックが鳴らされ、そのノックの正体は子爵様だった。子爵様は何やら私に話したい事が有る様な面持ちで入って来て、徐に部屋に備え付けてあるテーブルに腰を掛ける。
「2人に」
「……で、子爵様はどうして私の部屋に?」
子爵様が持ってきたワインに一口だけ口を付け、いたずらに遠回しで聞いても仕方ないのでストレートに子爵様が訪ねて来た理由を訊ねる。
「……ちょっとルイズに話したい事が有ってね」
「……子爵様の話したい事…ですか?」
「そうだよルイズ。単刀直入に言おう。……ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール…僕と──ジャン・ジャック・フランシスと結婚してくれないか?」
「……大変お言葉は嬉しいのですが…申し訳ありません。……決して、子爵様に不満が有る訳では無いのですが……」
「……あの少年──サイト・ヒラガとか云う使い魔君の事が有るからかい?」
「……はい」
子爵様のいきなりのプロポーズに頭の中を真っ白にしながら、思い付く限りの言葉を並べて子爵様からのプロポーズをやんわりと断る。子爵様も、私の気持ちに──私が誰に想いを寄せているのかが判っている様だ。
「そうか…こんな手は取りたく無かったけど仕方ない。少し眠っててもらうよ」
「子爵さ…一体…な…を…!?」
――パリィィン!
私は子爵様の態度に違和感を覚え、ワインの入っていたグラスを慌てて投げ捨てるが意識を保つ事が出来なくなり、ワインの入っていたグラスが無残に割れる音を耳にしながら、そのまま意識を手放した。
SIDE END
SIDE OTHER
「眠ったか」
ルイズはワルドがワインに仕込んでいた眠りのポーションによって、深い眠りに堕ちた。
「……在った。これをクロムウェル大司教に届ければゲルマニアとトリステインの講和は無くなるだろう。……これでトリステインも終わりだな」
ワルドはそんなルイズの懐をまさぐり、ウェールズより預かった親書を抜き取り──その親書を自らの懐へと入れた。
「……ルイズ──かわいい僕の〝虚無〟。でもダメだね。僕のプロポーズを承諾すれば良かったものを」
さらにルイズを人一人入るような布袋に入れ、そのルイズが入った布袋を米俵を抱える様に肩で抱える。
「ワルド子爵ですか? それにルイズを抱えてどちらに向かうのですか?」
「君は……」
ワルドは〝もう1つ〟の仕事を〝遍在〟に任せこの城から出ようと歩を進めた瞬間、後ろからやや間延びした声が掛けられた。……ワルドはその人物が自分の感知範囲に入っていたので、然程驚く事無く応対する。
「君か、ミス・ユーノ。……僕は別にルイズを抱えてなんか無いが。……よもや、君にはこれがルイズに──」
ワルドは目の前の杖を構えている少女に、自らが布袋に入れて抱えているのが〝ルイズ〟だと一目で看破されたのを軽く驚愕するが、何とかやり過ごそうとする。
「私は一応、巧拙の差は有りますが一通りの系統魔法は使えます。……ですが、特に得意な系統は火の系統でして、体温で人を見分ける事ができます。……もう一度訊きましょう、ルイズを拐かす様な真似をしてどこに向かう気ですか? ……レコン・キスタの尖兵さん?」
―レコン・キスタの尖兵さん?―
少女のその言葉がワルドの頭の中でリフレインする。ワルドは少女の言っている事が判らなかった。目の前の少女がなぜ〝それ〟を知っているかが判らなかった。
「貴様っ! なぜそれをっ!」
狼狽しながら少女へと問い詰めようと杖を抜こうとするが、ルイズを利き手で抱えていた事が仇となり、動きが数テンポ遅れてしまう。
「ふふっ、その反応は是と見なしましょう」
ワルドは少女の言葉で漸く気が付いた。……謀られたのだと。
「ルイズは返して貰いますよ。裏切り者さん。……竜之炎伍式“円”、そして“崩”」
ユーノは杖先を素早く動かし、虚空に[円]の字を書き…更に、矢継ぎ早に[崩]の字を書く。すると、ワルドは“円”の結界によってルイズと隔離され、その結界の中に閉じ込められる。更に、極め付きにはその結界の中で“崩”の火球がワルドを包囲する様に生成されていく。
「さようなら」
ユーノのその合図によって、ワルドを包囲していた数十の火球は一斉にワルドへと襲いかかった。
SIDE END
後書き
明日もう一話投稿します。
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