普通だった少年の憑依&転移転生物語
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ゼロ魔編
022 貴方達は悪くない。……悪いのは──
SIDE 平賀 才人
ニューカッスル城。ウェールズ王子らしき人物の〝声〟を拾ったのはその城で、その城は数えるのも烏滸がましいほどの人数によって包囲されていた。……時勢から見るに、ニューカッスル城を包囲しているのは恐らくレコン・キスタで、そのレコン・キスタが王党派の急先鋒であるテューダー家の血族を絶やさんとしているのだろう。
「……で、どうやってニューカッスル城へ行こうか?」
ワルド子爵との決闘騒ぎから明くる朝。朝食の席で、そんな問を答えが帰ってくるとは思わないが、発破を掛けるつもりで一行へと問い掛ける。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ああ、長かった」
「……そうね」
「仕方ないさ。こんな内戦中の国で、空を往くのは難しいからね」
「ミスタ・グラモンの言う通り、下手に空路を往けばレコン・キスタとやらに撃ち落とされかねませんからね」
結局、ニューカッスル城へは大きめな狼型の〝魔獣〟で、休憩を挟みつつ1日を掛けて移動した。空路を往かなかった理由は正にギーシュとユーノが言った通りで、レコン・キスタの連中に撃ち落とされかねないからだ。……その為、万全な安全性を期して陸路を執った。
「うわぁ…うじゃうじゃ居るわね」
そして、今ギーシュ達と話している場所はニューカッスル城の目と鼻の先。ルイズはあまりにも多い、ニューカッスル城を囲んでいるレコン・キスタの人数にドン引きしながら呟く。
「それで、ミスタ・ヒラガはあの軍勢をどうするんだい?」
ワルド子爵はついぞ、俺への敵愾心を隠さずに訊いてくる。だが、ワルド子爵の質問も尤もで、ワルド子爵の質問はたった今俺達が頭を悩ませている問題である。
(〝覇王色〟が使えてもなぁ)
俺には一応、〝王〟の資質が有るのか〝覇王色〟は使えない事は無い。……が、俺の〝覇王色〟は、〝見聞色〟や〝武装色〟に比べるとあまり練達していないので、個々の人物を選んで威圧する事は出来ない。……〝神器(セイクリッド・ギア)〟やら仙術やら、何やらあっちこっちに手を出して、手札を増やし過ぎた事の弊害がここへ来て露見した。
(それに何だかおかしいんだよなぁ……。死人も居るみたいだし)
何だか変な気の流れ感じて〝これはおかしい〟と思い、仙術でレコン・キスタに属しているであろう人間の幾人かの気を探ってみると、たまに変な気の流れをしている人間が居るのだ。……それこそ、何か──魔法的な何かに操られている様な感じがする。それに、自らで生命活動を行っていない人間──死人すらも居る様子。
(だったら話は早い)
「皆、俺が今から〝ある魔法〟を使った後、ちょっと大きな声を出すから〝耳〟を塞いでおいた方が賢明だ」
ワルド子爵を含めた皆が首肯し、俺の示唆通りに“サイレント”の魔法で遮音したのを確認すると、俺は〝ある魔法〟のルーンを紡ぐ。
SIDE END
SIDE ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール
「皆、俺が今から〝ある魔法〟を使った後、ちょっと大きな声を出すから“サイレント”か何かで〝耳〟を塞いでおいた方が賢明だ」
サイトがどんな魔法を使うかは判らないが、サイトの事だから悪い事にはならないだろうから、サイトの示唆に従い〝耳〟を塞ぐ。ギーシュは系統上、風系統である“サイレント”は使えないのでアイコンタクトの末、私が代表して“サイレント”を張る事にした。
「………」
“サイレント”の魔法で私達の居る空間とサイトの居る空間は遮音されていて、サイトがどんな魔法のルーンを詠唱しているかは判らないが、サイトが杖を振り下ろした時に出たモヤモヤしたものがレコン・キスタの軍勢に振りかかる。
「サイトは一体何をしているんだい?」
「判らないわ。ユーノは判る?」
私はギーシュの口から出る疑問を一刀両断にし、あまり期待していないが四方山話を投げ掛ける感覚で、何かとサイトについて詳しいユーノに、現在サイトのしている事を訊ねてみる。
「それは判りかねますが、サイトからしたらあまり私達に聞かれたくない事なのでしょう」
(聞かれたくない事……)
勿論、私にも聞かれたくない事なんてごまんと有る。小さい頃に姫様とお転婆してた事なんかそうだ。
(……でも──)
「ルイズ、聞かれたくない事なんて誰にも有りますよ? ……勿論、私にもサイトにも」
「判ってるわよ」
顔に出ていたのか、ユーノに心の内を見透かされた様な事を言われる。
『………』
「あれはもしかして〝拡声〟の魔法かい?」
「多分ですが……」
(でも〝拡声〟の魔法って──)
子爵様の質問にふと違和感を覚える。……そして気付く。多分だけどサイトは間違えたんだと思う。そこまで気付いたらクスリ、と笑みが漏れる。
「ふふっ」
「ルイズ、いきなり笑ったりしてどうしたんだい?」
「いえ、サイトも人間だなって」
いきなり苦笑した私を不思議に思った子爵様の質問には煙を巻くような答えになってしまったが、私は完璧超人に思えていたサイトも間違えたりする事がある事が嬉しかった。
サイトが徐に杖先を喉元に当て、レコン・キスタの軍勢に某かを話し掛けている。子爵様の言う通り、あれは恐らくだが〝拡声〟の魔法だと思われる──サイトは間違えて使ってるけど。……それと、当たり前の事だけど読唇術を使えるギーシュをしても、背中を向けていてる人物の唇を読めないらしい。……読めたら読めたで距離を置きたくなるけど。
『………』
「余程僕達に聞かせたくない話をしている様だが、一体何が……」
さっきの私の答えを曲解した子爵の誰に言ったか判らない質問に答えるとするなら…最初に、サイトの放った〝モヤ〟の魔法でレコン・キスタの人数がごっそりとその数を減らした──と云うより、糸が切られたマリオネットの様に動かなくなった。その後は、サイトが口を動かす度、レコン・キスタの軍勢は戸惑ったり、焦ったり、散り散りになったりといろんな動きを見せた。……としか、言い様が無い。
「……終わったか」
子爵様がそう言った後、子爵様が言った通りにサイトがこちらを向き、終わったとの旨を伝えるサインを出したので“サイレント”の魔法を解く。
SIDE END
SIDE 平賀 才人
「皆、俺が今から〝ある魔法〟を使った後、ちょっと大きな声を出すから〝耳〟を塞いでおいた方が賢明だ」
ワルド子爵を含めた皆が首肯し、俺の示唆通りに“サイレント”の魔法で遮音したのを確認すると、俺は〝ある魔法〟のルーンを紡ぎ、その魔法を放つ。
「“ディスペル”!」
〝虚無〟の魔法を〝普通〟に使えば、魔法の詠唱は長いし、魔法を使った後、精神力の涸渇から気絶することが必至なのだろうが、そこら辺は“アギトの証”の効果の1つ、“クイック【FF零式】”お陰で詠唱時間が1/2で済んでいるし、精神力(MP)の消費も0で済んでいる。
(やっぱり“アギトの証”はチートだな)
因みに、“アギトの証”を装備していると身体が何やら神々しいオーラに包まれるが、そこは仙術で巧い事誤魔化している。
……閑話休題。
(残ったのは大体五分の三くらいか)
とりあえずは、“ディスペル”の虚無魔法で、死人──は兎も角としておいて、操られていただろう人間をレコン・キスタの戦力から削る。
「さて……」
やはりと言うべきか、操られていた人間達はどうしてこんなところに居たのかがはっきりしなくて、狼狽していたり立ち竦んでいる模様。
『皆、落ち着いて聞いてくれ。どうしてこんなところに居るかが判らないだろうから俺が簡単に説明しよう』
(あっ……)
風魔法の〝拡声〟で俺の声が聞こえる範囲を拡げる。……〝拡声〟は使用者の声が聞こえる範囲を拡げるだけで、声量を上げる魔法では無い。その事をよくよく考えるとルイズ達に“サイレント”を使わせる必要も無かった事に気が付く。
『前提から説明すると、貴方達はレコン・キスタの何者かによって、魔法かマジック・アイテムかは判りかねるが、そのどちらかの方法で操られていて、有ろうことか…アルビオン王家に杖を向けている』
思った通り、洗脳から解放された人達は驚愕しているのが、割と離れたこの位置からでも手に取る様に判る。
『……そこで1つ提案がある。未だアルビオン王家へと再び仕える気概が有るのなら、ウェールズ皇太子殿下へと貴方達の事を助命して貰える様に嘆願してみよう。……さて、色々な事を言いはしたがこれを機にレコン・キスタを裏切る──否、レコン・キスタから表立つなら、杖を、武器を掲げろ!』
そこまで言い終わって耳を澄ますと、元からのレコン・キスタのメンバーから『騙されるな!』やら、『戯れ言だ! 耳を貸すな!』やら、『上げるなよ? 絶対な上げるなよ!?』等の俺の言を疑うような声がちらほらと挙がっている。
「ははっ」
ポツポツと杖や武器が挙がるその様子を見て俺の頬は緩んだ。
SIDE END
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