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万華鏡

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第七十八話 バレンタインデーその一

                   第七十八話  バレンタインデー
 バレンタイン前日にだ、琴乃は夕食の後キッチンに入った。そうして調理の準備をしてそのうえでだった。
 チョコレートを作ろうとする、だが。
 その彼女にだ、弟がリビングでゲームをしながらこんなことを言ってきた。
「彼氏じゃねえよな」
「いきなり否定形と疑問形が混ざってるわね」
「だから違うよな」
「私に男の子の影ある?」
「一切感じられないから聞いてるんだよ」
 ゲームをしながらだ、弟は姉の方を振り向くことなく姉に問うのだった。
「違うよな」
「はっきり言うと違うわよ」
「だよな」
 姉の返答にほっとするのではなく予想が当たったという返事で返す弟だった。
「やっぱり」
「あんた全然動じてないわね」
「九割九分九厘そうだって思ってたからな」
「九十九・九パーセントなのね」
「〇・一パーセントはまさかって思ってたよ」
「物凄い可能性ね」
「姉ちゃんに彼氏なんてな」
 とてもという返答だった。
「有り得ないからな」
「今のところ彼氏とかはね」
「いい加減彼氏も作れよ」
「大きなお世話よ」
「というかそれ全部義理かよ」
「あんたの分もあるから」
「有り難うな」
 実に素っ気なく礼を言った弟だった。
「じゃあお母さんと二個か」
「そうなるわね」
「クラスでも貰えたらいいな」
「本命を?」
「そんなの義理に決まってるだろ」
 実に冷めた表情と口調での言葉だった。
「本命なんて貰えるかな」
「ひょっとしたら貰えるでしょ」
「だったら嬉しいけれどさ、俺も」
「そうよね、けれどあんた」
「ああ、何だよ」
「正直バレンタインはチョコレート食べられたらそれでいいと思ってるでしょ」
「バレンタインってそういう日だろ」
 実に素っ気ない、ここでも。
「告白とかよりもさ」
「あんた今恋愛育成ゲームしてるのに」
「こっちでのバレンタインはイベントだよ」
 攻略対象のキャラからチョコレートを貰える、恋愛育成ゲームにおいてそれはまさにフラグの一つである。
「相手に起こしたら大きいからな」
「本命貰えたらよね」
「後は相当なヘマしない限りな」
 この辺りはゲームによるが大体そうだ。
「いけるよ」
「そうよね」
「昭和四十八年の阪神よりも確実だよ」
「あの時の阪神優勝逃したでしょ」
 最終戦においてだ、しかも相手は巨人で決戦の場は甲子園球場という素晴らしい状況でそうなったのだ。
「お客さんが怒り狂って雪崩れ込んだじゃない」
「だから最終戦間際の阪神よりもな」
「確実っていうのね」
「そうだよ、こうしたゲームの本命のチョコレートはさ」
「あんたのチョコレートの関心は今はそっちなのね」
「リアルだと食えればいいよ」
 本命でなくとも、というのだ。
「義理でもな」
「ある意味無欲ね」
「だってうちの女子凶悪なの多いから」
「可愛いくないとかじゃないのね」
「女の子は中身だろ」
「その中身がっていうのね」
「ああ、殆ど鬼なんだよ」
 実に現実的な言葉であった。 
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