ローゼンメイデン〜エントロースライゼ〜
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第一話〜ココロの在処〜
前書き
視点が度々切り替わるので、そこは注意して読んでください。
第一話〜ココロの在処〜
ーーーーーーー1ヶ月後ーーーーーー
「今日で一ヶ月か、、、。」
窓から見える雲ひとつ無い空を見て
桜田ジュンは物思いにふけっていた
色々な思い、大切なものを与えてくれた真紅は今も眠りについている。
アリスゲームの終劇から一月の時間が流れたが未だに彼女を起こすためのローザミスティカを作る糸口が見つからない。彼、、、ローゼンの言っていたことから鉱石を掘ってどうにかするのかと思っていたが、考えると鉱石の錬成なんて学んでなかった。独学でやろうと最近は家の物置にあったたった一冊の錬金術の本を解読しているところだ。
「あの本だけじゃダメだ。もっと沢山の彼の本がいる。」
「ならお父様の家に行けばいいです。」
いきなり声をかけられたものだから
驚いて横を振り向く。そこにいたのは翠星石だった。
「翠星石、お、お前いつから?」
「ジュンが、空見ながらなんか言ってるときからですぅ。ノックしたのに気づいてなかったですか?」
「え?全然気づかなかった。」
「まぁったく、しょうがないやつですね。そ、そんなチビ人間には翠星石からとびっきり美味しいスコーンをくれてやるです。ありがたく受け取るですぅ。」
翠星石は顔を赤らめながら後ろから
さっ、とスコーンの乗ったお皿が差し出した。
「、、、、、、ぷっ。」
ずいぶんな話の持っていき方に思わず笑ってしまった。
「あーーーー!なぁに笑ってるですか!」
「ふふ、ゴメン、ゴメン。ありがとな翠星石。」
「べ、別に礼なんかいらねーです!
、、、それより、、、。」
「?」
翠星石の顔が曇り始める。
「真紅は、まだ起こせないですか?」
「、、、、、、ああ、まだミスティカのミの字も出来てない状態だと思う。」
自分で言ってて情けなくなる。そうだ、真紅のことを皆が待ってる。そして真紅を起こせるのは自分しかいないのだ。その責任は重い。その僕が何も出来ないでは許されない。僕が押し黙っていると翠星石が口を開いた。
「ジュン、あんまり一人で思い悩むなです。皆気持ちは同じ、お前の周りにはたくさん助けてくれる人がいるです。たまには頼りやがれです。それに大丈夫です、お前はこの翠星石が認めたマスターです。」
素直に嬉しかった。確かに僕はこれまでドール達に協力をあまり依頼していなかった。僕は自分ひとりで何とかしようなどと馬鹿なことを思っていたのだろうか。僕は改めて考え直した。
「翠星石、、、。ありがとう。」
「礼はいいです。」
「ふ、2回目だなこのくだり。」
しばらく二人で話しをした。僕はアリスゲームが終わってから、ドール達とよく話すようにしている。それは今の僕がドール達のおかげで居られるからだ。この感謝は一生かかっても返しきれない。早くこの感謝を真紅に伝えなくては。顔が変わってあいつが気づかなくなる前に。しかし、翠星石との話でローゼンの家に行くという案がでた。その発想はまったく思いつかなかった。でもローゼンはたしかヨーロッパを転々としていたはず、そんな彼の家は果たしてどこにあるのだろうか。nのフィールドには少しの実験道具しかない。
(ヨーロッパか、、、、、、。)
少し試すことが増えた。
その後僕は昼食のために一階に降りた。リビングの窓から庭で翠星石と蒼星石が草木の手入れをしているのが見えた。台所では姉ちゃんが食事の支度をしている。姉ちゃんが僕に気づいて話しかけてきた。
「ジュン君、ちょっと待っててね?もうすぐできるから、翠星石ちゃん達も呼んできてくれる?」
「はいよ。」
僕は庭の方に行き、窓を開けて小さな庭師達に呼びかける。
「おーい、そろそろ飯だぞ〜。」
「はいマスター、今行きます。」
「今日のお昼はなんですかね?」
皆でテーブルにつく。1人分の席が空いているが、、、。
「あれ?水銀燈ちゃんは?」
「あ、たぶん屋根だ。僕が呼んでくるよ。」
そう、翠星石と蒼星石の他に水銀燈もこの家に住んでいる。最初はこんな状況になるなんて思わなかったけど、彼女のマスター、柿崎めぐさんが亡くなってしまいダメ元で僕が引き取るといったのだがまさかホントに了承するとは思わなかった。
二階のベランダから屋根を見上げると案の定水銀燈はそこにいた。
「水銀燈ー、ご飯だぞー。」
水銀燈は僕の方を見ると黙って下に降りてきた。2人で階段を下りる、といっても水銀燈はフワフワと浮いているが、、、。その表情はどこか間の抜けている感じだ。2人も大切な人がいなくなったのだ無理もない、水銀燈は意外と優しい奴だからな。真紅は僕が必ず起こす。でも、めぐさんは、、。短い時間なはずが長く感じた階段を下り終わり、皆の待つテーブルへ。そこにはもう彩り豊かな食事がきっちり人数分おいてあった。
「遅いですよ水銀燈。ご飯が冷めちまうです。」
「うるさいわね。」
何度か聞いたが水銀燈が他のドールと姉妹として会話してるのはまだ新鮮に感じる。
「さぁ!食べましょう!」
手を合わせて皆でいただきます、姉ちゃんの料理はいつも美味しい。普段はかなりの天然なのにこうゆうところは得意なのだ。今だに頭を傾げる。昼食を食べ終わり、食器を片付けていると蒼星石が話しかけてきた。
「マスター、今日は何か予定が?」
今日は土曜日だ学校もない。普段は父さんの元で鉱石集めをしにアフリカに行っているが、今日は他の用事がある。
「ああ、今日は水銀燈と少し出掛けようと思うんだ。」
「水銀燈と?」
驚いたという反応を見せる蒼星石、
確かに水銀燈と出掛けるのは初めてだからな。でもまだ水銀燈には出掛けることを伝えていない。
「うん、行かなきゃいけない場所がある。水銀燈と行かなきゃダメなんだ。」
「わかりました。気をつけて。」
「ありがとう蒼星石。」
食器を片付け終わり暇そうに縁側でぼんやりしている水銀燈のもとへ、
「水銀燈、ちょっといいか?」
「、、、、、。」
反応はない。まぁ、無視している訳ではないことは知っているのでそのまま話す。
「今日さ、この後一緒に行って欲しいところがあるんだ。」
その一言で、彼女はとても苦い顔をしながらこちらを振り向いた。
「はぁ?まさかまたアフリカとかいう国じゃないでしょうね?嫌よ、暑すぎるし、虫は沢山いるし汚いったら。」
た、確かにアフリカは頻繁に行きたくはないところだけど、、、。でも今回はそれじゃない。
「いや、違うよ。」
「じゃあどこよ。」
めんどくさそうに言う水銀燈、とはいっても行かないと言わない辺り彼女も少しは僕に気を許してくれたのだろうか。おっと、質問は違ったな。僕は水銀燈に伝わるようにはっきりと言った。
「めぐさんのお墓だよ。」
彼女が目の色が少し変わるのを感じた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
土曜日のお昼頃、この商店街はほどほどに人が入るのだが、その通りのちょうど真ん中あたりに僕の働く花屋シオンはある。いつものように花達に水をやり、花の様子を見て場所を移したりする。この商店街は屋根が無いので直射日光を計算して花達の位置を考えるのだ。一通りチェックを済ませると店の奥から声がした。
「シオくーん!そろそろ上がっていいわよー!」
「わかりました、あとお願いします。」
僕は店の奥へ向かう。奥からこの花屋の店長、美咲さんが出てきた。
「今日もお疲れ様、休日なのに大丈夫だった?」
「いえ、僕もあんまりやることないので、、、。それと美咲さん、黒薔薇持って行っていいですか?」
この花屋での一番の目玉は薔薇だ。珍しい色の薔薇が沢山ある。
「黒薔薇?ああ、今日はこれから行くのね。」
「はい、黒薔薇が好きみたいだったから彼女は。」
「いいよいいよ、ちゃんと届けてやんな。」
「ありがとうございます。」
僕は急いで昼食を済ませ、服を着替えた。そして、一ヶ月前に拾った指輪をポケットから出してしばらく見つめていた。
結局、指輪は持ち帰ったのだ。彼女のものかは分からないのだが。
指輪を再びポケットにしまい、黒薔薇を紙で包んで持って僕は店を出た。ここから目的地まではあまり距離は無い、徒歩で行ける。ここ最近毎日通ってるし慣れた道だ。ふと目の前を大きなバスケットを持った眼鏡の少年が通り、あまり見かけない顔だなと思いながらすれ違った。
「ん?」
急にポケットに熱を感じて、手を入れる。
「熱っ!」
ポケットの中で何かがものすごい高温になっているらしい。たしか、指輪が、、、。取り出したいにも取り出せない。しかし、しばらくしてその熱は冷めたようでなにごともなかったかのようになった。何がなんだかわからないまま僕は足を進めることにした。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「熱っ!」
いきなりの声に僕は少し驚いた。すれ違った人が急に大声を出したのだ
気にはなったが、他人事なので振り向かずに歩き続ける。すると急に手に持っているバスケットがガタガタと動きだした。これにも驚いて僕はバスケットの中にいる水銀燈に話しかける。
「おい、水銀燈。あんまり動くなよ
バレたら色々と面倒なんだ。」
「うるさいわね、わかってるわよ。それより、まだなの?もうこんな狭いところはウンザリよ。」
「もう少しだ、花を買いたいんだ。
あ、水銀燈はめぐさんがどんな花が好きか知ってるか?。」
「知らないわ、あの子自分の好みとかあんまり話さないし、、、」
「そっか。」
墓参りの花だから、普通は仏花を買うのだろうけど。なんとなく彼女の性格上そのことは考えない方がいいと思った。
それにしても一番親しい水銀燈が知らないんじゃどうしようもないな。どの花にしようか。
歩きながら悩んでいると水銀燈が思い出したように呟いた。
「、、、花ねぇ。」
「ん?どうした?」
「確かあの子、黒い薔薇の入った花瓶だけ投げなかったわね。」
水銀燈はめぐとの短い時間を思い返した。めぐを訪ねてくるのは看護婦とたまにくる父それともう一人。顔は見たことないがその人は毎日来てたと思う。いつも夕方に来て、少し経ったらすぐに出て行く。めぐにその人のことは何も聞かされなかった。向こうが言わないならこっちも聞かない、そう思って流してきたが
今思うとめぐが誰かが来て一言も発しないのは何か変だった。そこまで考えて水銀燈はもうひとつ思い出した。その人がいった後は必ず花瓶の
花が変わってた気がする。
(まぁ、関係ないわね。)
「黒薔薇かぁ、、、あんまり見ないよな。うーん。あっ、とりあえずあの花屋に行って見るか。」
ジュンはシオンという花屋を見つけ
入ってみる。奥からエプロン姿の女の人が出てくる。
「いらっしゃい、始めて見る顔だね
何か花をお探しで?」
「え、えーと。黒い薔薇なんてありますかね?」
僕は諦め半分で聞いてみた。店員さんもなんか目を丸くしてるし、これはないかな。ていうかそもそも薔薇に黒なんてあるのか?
「あ、黒薔薇ですね。ありますよ」
「え?あるんですか⁉︎」
「はい、ウチの目玉商品ですから。本数はいくつで?」
「すいません、一本だけ、、、。」
「分かりました。」
僕は花を受け取り店を出た。
ここから墓地まではそう遠くないかな。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
目的地に着いた僕は、花を添えた。
彼女の墓だ。病院に通っていた時の
ように毎日来ている。
(めぐ、僕はまだ、、、。)
墓石を清めるための水を桶に入れながら、自分の未練たらしさに嫌気を感じていた。担当の看護婦さんは彼女が見舞いの客に対して機嫌を損ねないことに驚いていた。彼女が自身の親類縁者、特に父を毛嫌いしていたことは知っていたが暴れる程だとは思わなかった。自分に対してはそんなことは一度たりとも無かったのに。
そこで桶から水が大量に漏れている事に気付いた僕ははっとして蛇口を閉めた。
最近、呆けていることが多いな。いや、昔からか?しっかりしないと。
僕は彼女の墓へ戻った。すると墓の目の前に、さっきすれ違った眼鏡の少年が立っていた。めぐの知り合いは大体知っているが彼は見たことがない。誰なのだろう?その疑問が声に出た。
「君は、、、誰だ?」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
突然の声に水銀燈がバスケットから出ようとするのをやめた。ばれてはいないようだ。声の方へ向くと、先程すれ違った人が立っていた。再度問いかけられる。
「めぐの友達かい?」
何故か彼の声は威圧的な感じがした。僕より先に黒薔薇が置いてあったが彼が置いたのだろうか?それよりもなんて答えればいいのだろう。
めぐさんと僕は知り合い以下のほとんど他人だ。そんな僕が墓参りに来ることは少し筋違いではある。戸惑っていると、彼の方から話し始めた。
「まあ、いいよ。ありがとう。彼女も来てくれるのは嬉しいだろうしね。僕は樢玖島 紫苑(とくしま しおん)。彼女の、、、、友達だ。君は?」
「僕は、桜田 ジュン。」
「ジュン君か。ん?その薔薇は?」
「え?」
自分の持っている黒薔薇を見て紫苑さんは尋ねた。
「僕の店で買ってくれたんだね。」
ああ、名前を聞いた時の引っかかったのはそれか。確かにあの花屋、名前はシオンだったな。
「紫苑さんが経営してるんですか?あのお店。」
ふとした疑問を出してみた。紫苑さんは墓石に水を丁寧にかけながら答えた。なんとなく花に水をやる翠星石が思い浮かんだ。
「あそこは僕のお母さんの友達が経営しててね、働かせてもらってるんだ。」
水をかけ終わると紫苑さんは墓に向かい目を閉じた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
彼がなぜここにいるのかはわからないが、追求するのはやめた。
だからこそ毎日会いにいった。でもいつしか、彼女が父親の愛情を欲しているのに気づいた。あの沈黙はもしかしたら意思表示だったのかも知れない。僕はめぐに届いているだろうと思って、祈った。
(めぐ。僕は自分の心に穴が空いたのを感じてる。こんなに簡単に行ってしまうなんて信じられないんだ。せめて、一緒に連れて行って欲しかった。でも、もう少しで、、、)
こみ上げた気持ちを抑えてジュン君に提案した。
「ちょっと、あそこのベンチで話そうか?」
ジュン君は快く受け入れてくれた。移動して腰を下ろす。ふと気になってジュン君に聞いて見た。
「そのバスケット大きいね、中身はなんだい?」
「え?いや、これは、その〜。」
「?」
口を濁すジュン君。何か変な物でも入っているのだろうか。すごく困った反応を見せている。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
どうしようか。人がいるとは思ってなかったから。水銀燈を普通に外に出せると思っていたのに。思えばお墓なんだか、人は誰かしらいるじゃないか。墓参りに人形なんて変だよな。まあ、彼女には我慢してもらうしかないかな。後が怖いけど、、、。
「こ、これは、ウチの姉ちゃんが何を勘違いしたか人形を持っていけとか言うんで、、、。な、中には人形が入っているんですよ。はい。」
く、苦しいかな?紫苑さんの反応を見る。
「へぇー人形か。見せてもらってもいい?」
何とか怪しまれずには済んだのかな?でも見せるのかやっぱり。仕方ない。ごめん水銀燈!
僕はバスケットに入っている水銀燈をそっと持ち上げた。彼女は眉間にシワを寄せている。小声で僕は謝った。
(本当にごめん。ちょっとだけ我慢してくれ。)
水銀燈も仕方ないと思ったのか、顔の力を抜いて精巧で美しい少女人形になった。僕は水銀燈を紫苑さんに渡す。
その時、、、。
紅い光が僕たちを包んだ。
「「うわっ⁉︎」」
「これは⁉︎」
僕も紫苑さんも驚きの声を上げる。水銀燈が声を出してしまった。よほどの事だと思い。光の方を注視すると、どうやら光は紫苑さんから出ているようだ。
「まさか、あの指輪が?」
紫苑さんが言った。指輪?疑問が生まれた時、光が僕たちの頭上へと上がった。そして光を弱めながらゆっくりと降りてくる。水銀燈がそれを手で受け止める。
「これは、私の、、、。やっぱりさっきの感覚は。それにこれには、、、。」
「なんで指輪が?君の指輪はもう、、、。」
「その通りよ。だけど今は、それよりめんどくさいことが起きてるわ。」
水銀燈がチラッと後ろを見た、その方向を僕はゆっくりと振り返る。瞬間僕は感じた。やってしまったと。
「ジ、ジ、ジュン君。そ、その人形は、何だい?」
デジャヴを感じた。姉ちゃんの時と同じような反応だ。僕は頭を抱えた。見たところ真面目な人だから僕が変な人形を持っていることとかを言いふらすような人ではないと思うけど。でも、どうやって説明すれば、、、。悩んでいると、これ以上はあんまり動いて欲しくないのだが水銀燈が紫苑さんの目の前にいった。紫苑さんも驚き続けている。水銀燈が話した。
「人間、貴方その指輪。どこで拾ったの。」
言葉には重みが乗っていた。紫苑さんも少し戸惑っている。
「え?」
「いいから答えなさい!」
「び、病室だよ。めぐの、、、。」
「そう、、、。じゃあ聞きなさい人間。これにはめぐの心が宿っているわ。貴方が想うめぐの心がね。」
めぐさんの心?水銀燈が発した言葉に疑問を覚えたが、今言っても意味がない。とりあえずこの場は水銀燈に任せた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「めぐの心、、、?」
うまく頭が整理できない。指輪が光ったり、人形が喋ったり、めぐの心が宿っているとか。現実味の無いことが多すぎる。でも黒い服をまとった人形の少女の目は真剣だった。だが何処か悲しみも感じさせる。
「これはあの子からあんたへの贈り物。あの子の心を見たいなら指輪を嵌めなさい。」
少女はそう僕に言うと、ジュン君の方へ戻っていく。
「き、君のーーー」
咄嗟に呼び止めた。せめて名前を聞きたかった。この美しい人形の名前を。
「な、名前は?」
「、、、、水銀燈よ。」
そう言うと彼女はバスケットの中に入っていった。ジュン君が、このことは誰にも言わないでください。と言って足早に去ってしまった。僕はしばらくこの不思議な出来事を噛み締めていた。あっという間すぎて本当にあったかもわからない。それほど不思議な出会いだった。
「スイギントウ、、、か。」
僕は指輪を手で大事に握りしめながら家に帰った。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
紫苑さんと別れて墓地から家に帰る途中に僕は水銀燈に聞いた。
「なあ、なんで指輪を渡したんだ?お前への贈り物だったかもしれないのに。」
「見たのよ、中身を。元々私の物だし。でも、、、。」
水銀燈の声色が沈む。
「あれは私宛ではないわね。それにもう一つわかったことがあるわ。」
「?」
「もう私はあの人間に会えないってことよ。」
僕はこの時、まだその理由がわからなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
僕はあれから家に帰った。一人暮らしの僕には大きい家だ。曽祖父だかが僕たち子孫のためにこの土地を残してくれたらしい。両親は僕がとても幼い頃に事故で死んでしまった。母の友人の美咲さんの所で働いて生活している。高校生には幾分とキツイ生活だ。帰って早々に居間に寝転がる。指輪を手に取り天井をバックに眺める。
「めぐの心、、、か。」
正直あんまり信じていないのだが、今日の出来事を見るに、めぐの心がこの指輪に入っているということもあり得なくは無いのかもしれない。
半信半疑で僕はゆっくりと指輪を自分の左手の薬指に嵌めた。
後書き
読んでくださった方、本当にありがとうございます。出てきてないドールもいますがもう少し先まで待っていてください。
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