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チャンスを手に

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第五章

「そしてその天佑をな」
「掴めって?」
「そうじゃ、今こそじゃ」
 こう言ってノドムを急かすのだった。
「この申し出受けよ、絶対に」
「爺さんの方が積極的じゃないかい?」
 ノドムはその爺さんを見てこう返した。
「何か」
「当たり前じゃ、御前さんがあまりにものんびりしておるからじゃ」
「だからか」
「その通りじゃ、では娘さん」
「シーラです」
 シーラは自分の名前は爺さんにはっきりと教えた。
「宜しくお願いします」
「そうじゃ、シータさん」
「シーラですから」
「わかった、シーラさん」
 今度は間違えなかった、そのうえでまた言う爺さんだった。
「今の言葉嘘ではないな」
「はい、私も親に急かされていまして」
「ならよい、まさしく天佑じゃ」
 シーラにも言った爺さんだった。
「この時を逃さずにな」
「私もですか」
「ここで逃せば、特に御前さんは」
 ノドムをまた見て言う。
「次は何時になるかわかったものではない」
「だからか」
「今ここで言うのじゃ」
 まさにだ、ノドムの背中を蹴飛ばしてでも前に押す感じだった。
「お願いしますとな」
「シーラちゃんにだね」
「ノドム君に」
「二人が一緒に言えばな」
 それで、というのだ。
「決まりじゃ、それぞれのご両親にはわしが話をしておく」
「それじゃあ」
「お互いに」
 ノドムもシーラもだった、爺さんに言われてだった。
 お互いにあらためて向かい合ってだ、そしてだった。
 二人でだ、微笑み合って言った。
「じゃあこれから」
「宜しくね」
 こうしてだった、ノドムは見事シーラを妻に迎えることになった。後は爺さんが実際に動いてくれてうhたりは結婚することになった。それで結婚式の後で。
 二人にだ、爺さんはやれやれといった声で言った。
「チャンスはな」
「絶対になんだ」
「これだと思った時は」
「逃してはならんのじゃ」
 こう言ったのである。
「結婚でも何でもな」
「そういえば魚も」
 ノドムは自分が獲っているその魚のことを話した。
「逃したらな」
「そうじゃろ。さもないとな」
「次捕まえられないかも知れないんだよな」
「逃した魚は大きいな」
「うん、そう思うよ」
「こう言えばわかるじゃろ、だからな」
 それでだというのだ。
「御前さん達も機会を逃さないでよかったのじゃ」
「何かそう思えてきたよ」
「私もです」
 シーラも言う。
「若しあそこでシーラちゃんと会わなかったら」
「ノドム君とすれ違わなかったら」
「それで話さなかったら」
「とてもでしたね」
「そうじゃ、とにかく御前さん達は機会を逃さずに済んだ」
 それでだというのだ。
「よかったしようぞ」
「ああ、本当にな」
「よかったです」
 二人はのんびりとした口調だが笑顔で爺さんの言葉に頷いた。そうして二人で幸せな生活をはじめたのだった。チャンスを爺さんに言われて掴んで。


チャンスを手に   完


                     2014・3・28 
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