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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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闖入劇場
  第八六幕 「クイーン・セシリア」

 
前書き
この前、また与り知らぬうちにランキングに載っていました。
(18日時点)日刊11位で日刊話別24位・・・ランキングは毎日確認なんてしてないので、上がっていたのに気付かなかったです。 

 
 
映画館を後にし、隣接するショッピングモールに向かう、その最中。谷本癒子は映画のラストが衝撃的だったのか未だに泣いていた。館内にはそれなりに映画に感動して涙を流す人がいたが、癒子はその中でもかなり泣いている方だ。今だけは周囲の視線がこちらに注目していない事に内心感謝する。

「うう・・・ヒデアキ博士が・・・ヒデアキ博士がぁ・・・!!」
「どんだけヒデアキ博士に入れ込んでるの癒子ちゃん・・・」
「でも確かにあのシーンは胸にぐっとくるものがありました!感動です!(おとこ)らしかったです!!」
「自分の開発した爆弾が起動するかを、確かめるために、独りで艦内に残る・・・博士は開発者の鏡・・・!」

ヒデアキ博士とは、物語内で重要人物の友達ポジションであり、同時に優れた技術者として時折作品内で名前の挙がったキャラクターで、小説版では主人公も務めた男である。
ゲーム原作には登場していないにも拘らず映画に登場すると発表されたときはファンも歓喜の声を上げたものだ。癒子は余程ヒデアキ博士の事を気に入ったらしく、映画ラストで自身の爆弾が正常に作動したことを確かめて微笑みながら爆発に巻き込まれるシーンでは号泣していた。
・・・なお、他の訓練された観客たちは一様に画面に向かって敬礼をしていたが。この界隈では妙な所で謎の連帯感が生まれるのが不思議だ。

「うう・・・あんな最後、寂し過ぎるじゃないの・・・」
「癒子さん・・・大丈夫だよ」
「えっ・・・?」
「博士の雄姿は・・・物語の目撃者になった、私達の胸の内に・・・いつもあるから」
「・・・・・・そっ、か。そうだよね・・・博士はいつだって私たちを見守ってくれてるよね!」

よく分からないが立ち直った癒子は簪と熱い抱擁を交わす。なにか、2人の間に絆の様な共有意識が生まれたらしい。
正直あまり女の子受けする作品ではないのだが、好きになってくれたのなら何よりである。もっとも、ユウは映画前半くらいまでは簪の事が気になりすぎてあまり見ていなかったのだが。女に弱い等という情けない弱点はぜひとも克服したいのだが、方法については見当もつかなかった・・・む、なんだか兄に笑われているような気がする。

「・・・さて!泣き止んだところでご飯食べに行きましょう!」
「涙流したらお腹すいちゃった!ショッピングモールの中に美味しい店があるって評判だから既に予約取ってあるよ!師匠名義で!」
「さては癒子ちゃんここぞとばかりに僕のお金で食べまくる算段だね!?」
「私が、出そうか?」
「そ、それは流石に申し訳ない・・・って、あれ?」

いくら簪ちゃんも資金に余裕があるとはいえ、ここで受け入れては甲斐性無しみたいだと断ろうとしたユウは・・・外で何か騒ぎが起きていることに気付いた。あの見覚えのある金髪ロールと隣のサングラスの子は・・・

「セシリアと佐藤さん?」



= = =



「・・・貴方、それはどういう意味かしら?」
「どういう意味も何も、下らないものを押し付けるなという言葉そのままですが?」

額に青筋を浮かべる女性の語気が強まった言葉に、まるで1+1の回答を聞かれたように淀みなく答えるセシリア。
女性は見た所いわゆる「女性権利団体」の一員のようで、街頭で署名集めをしていたようだ。内容は「政府による男性IS操縦者の不当な優遇反対に関する著名」だそうで、その為に道行く人を引き留めたりチラシを無理やり押し付けたりと強引な活動を行っていた。無論彼女たちのその主張はあくまで建前であり、実際には男性IS操縦者の地位を少しでも下げて女性優位社会を維持しようという、非常に理解に苦しむことを考えているらしい。

「下らないですって?・・・はんっ!外国人だからまだ日本語がお達者ではないのかしら?」
「あら、貴方日本人でしたの?余りに内容が拙い事ばかり言うので宇宙人か何かかと思いましたわ」
「こ、この小娘・・・!!」
(あのーセシリア?他のメンバーが睨んでらっしゃるのですけど?)
(だからどうかしましたか?私に謝れとでも?)
(・・・まぁそうなるよね。正直私も馬鹿馬鹿しいと思うし)

ざわざわと周囲が賑やかになっていく中心部に立つセシリアと私こと佐藤。そしてそれと向かい合う女性権利団体のおばさんたち。この状況が出来上がったのはほんの数分前の事だ。


――数分前――


「ちょっといいかしら、貴方達!貴方達もコレに著名していってくれない?同じ女性として許せないでしょ?」

少々、いやかなり強引な呼び止めに思わず立ち止まってしまったのが運の尽きだったんだろう。その女性たちは不自然なほど満面の笑みで署名集めの紙を押し付けてきた。この手の人物には今までも何度か捕まったことのある私は「しまった、無視すればよかった」と後悔しながらも、書いた方がごねるより速いと紙に出鱈目な名前と住所を書き込もうとし―――

「貴方達、つまらない事をしておいでですのね。こんなことをしている暇があったら真っ当な仕事をしては?」
(ああああああああ言っちゃったよこの子ぉぉぉーーーー!!!!)

一般人が頭のおかしい団体に一番言いたいけど言えない台詞ナンバーワンを占めるであろう台詞を何の躊躇いもなく即答で言い切ったセシリアに、周囲の気温が数度下がった。この手の団体に目をつけられると何もいい事が無いので皆は思ってても口には出さないのだが、このセシリア容赦せんと言わんばかりに真正面からバッサリ言ってしまった。
だが、女性はそう言った事を言われるのに少しばかり耐性があったのか、頬を引き攣らせながらも笑顔を続ける。取り敢えず著名さえもらえれば本人が何を考えていようと変わらない、と思い直したのだろう。

「重要なことよ。外国籍のあなたには実感が薄いかもしれないけど、彼らの優遇には私たちの税金が使われているの―――」
「使われていませんわ。彼らの給金はIS委員会へ納められた募金から支払われています。税金が使われているのは国家代表及び代表候補生などの完全に国家に帰属している人員だけです。男性IS操縦者の中に帰属先が日本で決定している者は一人もいませんから、貴方の意見は全く以て的外れですわ。いい加減な主張をする前に学校に通って勉強なさっては?」
「なっ―――!?」
(そうなの?)
(そうですわ。その辺の資金の周りは、案外一般に認知されていないようですわね)

セシリアは賢いな、と言いたくなるのをぐっと堪える。心なしかセシリアの背後に「完全論破!」の4文字が浮かんでいるような気がしてくるが、これは少々不味いかもしれない。というのも―――公衆の面前で彼女たちに恥をかかせたのだから、完全に敵視された。
権利団体は女性優遇などといろいろ言っているが、実際には「自分たちの意見に賛同しない奴は屑だ」と平気で思っているような女性の集まりでもある。過去には一部の過激派が男性政治家の暗殺を謀るなど、とっても過激な面があるのだ。故に、状況を察した他の団体メンバーが事態に気付く。

完全に逃げるタイミングを失った私は軽く頭を抱えた。目立ちたくないのにいつのまにかものすごく目立ってるし。野次馬に取り囲まれて逃げ場がないし。セシリアは未だに涼しい顔してるし。

「あの、セシリアさん?こわーいお姉さんたちが本気で怒ると色々厄介だし、連合王国代表候補生としてこういう問題は避けた方がいいのでは・・・」
「これは異なことをおっしゃいますわね佐藤さん?私は私に嘘をつかない事を信条としています。他人に対する理解も誠意もない人間が下らないチラシを押し付けてくるのならば、それ相応の扱いで対応するのが“セシリア流の対応”でしてよ?」

―――ここは無難に謝ってそそくさと退散したかったんですが、おぜうさまは余程この人たちの事をお嫌いなご様子で・・・はぁー、とため息が漏れちゃったよ。

この手の権利団体はいわば日本の無法者の集まりとも言える。男尊系の主義主張を行う団体や人間には徹底的に嫌がらせをして男女平等には唾を吐きかけ、ウンと言わない人間には集団で圧迫してでもウンと言わせなければ気が済まないほど過激なのだ。関わり合いになることそれ自体が損であり、適当に従ったふりをするのが私流の賢い生き方なのだが・・・まぁセシリアにそんなのは無理っぽいので諦めるしかなさそうだ。とほほ、また悪目立ちするのね・・・


こして会話は先ほどのアレに戻る。


「私たちは今までの5年間の間、様々な活動を続けて不当な女性の待遇に対する抗議活動を続けてきたわ。団体のメンバーも1万人を超えてるし、実績があるの」
「そうですか!だから日本はここ数年の男女間の賃金格差が大幅に広がって雇用差別が先進国中最悪になっているのですね?勉強になりますわ!」

団体メンバーの眉間のしわが過去最高まで深くなった。セシリアの言っていることは現実に日本で問題になっている事である。職場でのパワハラや賃金格差逆転などがGDPの伸び代を潰しているのは公然の事実であり、「やりすぎ」であることは明白。これでそちら方面の知識が少ない人間ならば勢いで押し流されるところだが、残念なことにセシリアには漬け込む隙など一部もない。
ここまで来ると向こうも引き下がれない。完全に火がついているのか段々セシリアに迫る態度が高圧的になってゆくが、相手がIS持ってると知ったら腰を抜かすかもしれない。何だか見てるこっちが不安になって来たなー。

「・・・・・・まだ、分かってもらえないのね。貴方も男女平等とか唱えちゃう子なのかしら?あのね、この国は昔から根拠のない男主導社会を―――」
「―――ああ、回りくどくて伝わりませんでしたか?ではいい加減ハッキリ言っておきましょう」

メンバー達のいら立ちが最高潮に達し始めたことを知っている上で無視して言葉を止めるセシリアの豪胆さに野次馬の一部が口笛を吹いた。こんなに肝っ玉の据わった女の子、世界中探してもそうそういないだろう。
セシリアは明らかに作り笑いであることが明白な笑顔で、きっぱり言い放った。


「私は他人に考えを強制されるのが死ぬほど嫌いなので―――私の往く道を遮らないでいただけます?」


その瞬間、セシリアの身体から発せられる威圧感が周囲のあらゆる意志を容赦なく押し潰した。
女性権利団体のメンバーは生唾を呑み込み、肩を震わせ、しかし彼女たちの身体は恐怖に縛られたようにピクリとも動かなかった。
セシリアが、通りすがりで男どもにちやほやされていそうなだけの小娘が、今だけはとてつもなく巨大な、人間が逆らってはいけない存在に思えてしょうがなかった。彼女に口答えしてはいけない、彼女の邪魔をしてはいけない、彼女を怒らせてはいけない。

たった一人の可愛らしいと言える少女に、彼女たちの精神は完全に屈服した。いや、彼女だけでなく軽い気持ちで見に来た野次馬でさえ、そのプレッシャーに息を乱して膝をつく者が現れた。
それは人に命令を与える、選ばれた存在の風格。気品と貴意と美と品性と、そして揺らぐことのない鋼鉄の意思を湛えた瞳。絶対者にして仕える主であることを否応なく感じさせるそのプレッシャーは―――まるで、女王(クイーン)。息をする事さえ憚られるほどの、絶対の命令に思えた。


彼女を止められる存在などこの世になく、彼女に並ぶ存在など―――








「セシリアー、お腹すいたからさっさとデパート行こうよ? 」

プレッシャーが途切れる。絶対遵守の呪縛が消える。絶対者然としたセシリアが、その興味を別の方向へ移した。その場で一人として動けるものがいない中、彼女の隣という最も凄まじい重圧があったであろう場所にいたその少女は、あっけらかんと空腹を訴え―――人々は解放された。
それは正に市民革命によって貴族の過度な抑圧から解放されるように、その場の人間を次々に重圧から解放していった。たった一人の少女の進言が国を動かしたかのようであった。



――それは、普通と呼ぶには特殊すぎた。


――平凡で、変化が無くて、ありふれていて、そしてあまりにも動じなさすぎた。


――それは、正に「佐藤さん」だった。



「なんかこの人たちも強引な客引きに反省したみたいだし・・・あー何だか天丼食べたいからどんぶりおいてあるところにしよう、そうしよう!」
「ドンブリですか?ふむ・・・最近、ヒツマブシという料理が気になっていたので丁度良いですわね。和食の店にしましょうか」
「お、ひつまぶしは美味しいよー!たまにひまつぶしと間違える人がいるけどね!主にウチのお父さんとか!」

彼女たちの進行ルートにいた人々がモーゼの十戒さながらに開き、そこを通り過ぎる二人の少女が十分にその集団から離れてから―――セシリアに突っかかっていた女性は膝から崩れ落ちて大きく息を吐いた。
酸欠で意識がぼやける中、後からやって来たらしい数名の人々の言葉が断片的に耳に入る。

――流石はお姉さま!――
――・・・リアさんは格が違ったかー――
――安定の佐藤さんだった――
――ある意味、佐藤さんの方が、凄い――

(ああ、あのサングラスの子は佐藤っていうのね)

いつか必ずお礼をしなければいけないなと考えつつ、彼女はそこで意識を失った。
 
 

 
後書き
セシリアはきっとニュータイプなので問題ありません。 
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